047話.プロローグ
崩壊は、待ちかねていたかのように訪れた。
いずれ来るものとして、寝物語に聞かされていたのだ。いつかこうなると誰もが知っていた。
ここはその名に衰退の二字を頂くアウロクフト、その一角だ。崩壊は約定から一寸の狂いもなく、決まりきったこと。
ただ、誰もが今だとは思っていなかっただけの話。
果たして、最初に悲鳴を挙げたのは誰だったのだろう。今や悲鳴は村の家々に感染し、誰が叫び誰が泣いているのかも判然としない。
私といえば――どうだろう。少なくとも泣いてはいない。
ああ、やっぱり。
だから言ったのに。
「……あれ」
言った?
そう、確かに私は言ったのだ。
このままでは駄目だと。森の外と混じり、進まねば滅びるだけだと。
子どもの論理だ。大人になった今では口にするのも憚られる。ここ数年は思い返すことすらなかったのに。
「だったらどうするの?」
声は私のもので、けれど私の言葉ではない。
問いかけたのは、子どもの頃の私だ。こまっしゃくれた、生意気な頃の私を幻視している。
どうしようかと、私は村を見下ろした。
笑えてしまって仕方ない。老人共が家から転がり出て悲鳴を挙げている。いつか私たちは滅びるのだと、それは救いなのだと言い聞かせていた老人共が真っ先に助けを乞うているのだ。これほど滑稽なことはそうそうお目にかかれない。
武器を取り奮戦しているのは若者ばかりだ。父親と母親はいとし子を守るために立ち向かい、子はその背中を見つめている。
未だ子も伴侶も持たない私は、果たしてどちらに加わるべきだろう。
胡乱な頭で眼下の混乱を眺めていると、私を呼ぶ声に気付かされた。
誰だったか――そう、確か。
千明組の、伏見とかいう男だった。




