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異世界ヤクザ千明組  作者: 阿漕悟肋
鏡面相克都市・ファウラ=ラド 上
113/130

112話.ヤクザ、面談す

 樹齢数百年の巨木を縦に割ったようなテーブルと二十を超える椅子が置かれた部屋は、会議室か食堂だろう。

 部屋に案内してくれたティエロが両祭祀を呼びに行って、マトロとファティはようやく肩の力を抜いた。

「んで、あのティエロって野郎は一体何者なんだい。大体察しはつくけどよ」

「……言いたくありません」

「ティエロはよくいるごろつきだ。自身の商会を持ち、文明人を気取って入るがね」

 口を噤んだファティの代わりを務めるように、マトロがティエロに関するあらましを語る。

「商会の規模が大きくなればああいった輩との付き合いも増えるものだ。我が商会もいくつか囲っている。アクィール商会もそうだろう?」

「言いたくないって言ったじゃないですか」

 つんとした表情で、ファティは顔を逸らす。

「……良からぬ商いを行う方々です。表立ってのお付き合いではありませんけれど……」

「公然の秘密だよ、アルカトルテリアでは子供だって知っている」

 権力からは、常に金の匂いがするものだ。

 千差万別の人々を取りまとめる以上、いくつかの意見は後回しに、そしてあるいは握りつぶされる。

 餌があり、仕事があり、公権力の追求から逃れられるおまけつきだ。犯罪組織にとってこれ以上なく良好な環境が揃っている。社会に寄生する彼らがそこにいないわけはない。

 現代の知識とアクィール商会とのコネクションがなければ、伏見だってその立ち位置を目指すだろう。

「で、連中はどうやって儲けてんだ? この都市じゃ、戒律に縛られろくに悪さも出来ねぇだろうに」

「戒律の隙間を縫って、だよ。戒律とて万能ではないのでね。その穴を潰すために法が存在するが、法は人が施行するものだ。穴などいくらでもある」

「ふわふわしてんなァ。そうじゃなくて、もっと具体的に」

 今後の参考にもなるだろうし。

 伏見に問われて、マトロはしばし考え込んだ。

 長い話になると踏んだのだろう。椅子を引くと、伏見の方を向いたまま腰掛けて足を組む

「やはり代表的なものは密輸かな。祭祀門を通らなければ関税を支払わずに済む。最も、アルカトルテリアの外壁は祭祀の協力なしには通過できないがね」

「……関税の回収先は祭祀じゃねぇのか?」

「祭祀が回収する関税は公のために用いるものだよ。監視もされている。自由に使える小遣いは多い方がいいだろう?」

 お小遣いとはいっても、子どものそれとはスケールが違う。贈賄や贅沢品に使うことの出来る闇資金だ。

 全く、誰もかれも潔白ではいられない。

「他には恐喝、詐欺、高利貸し……おや、伏見君には心当たりがありそうだね」

「さて、なんのことやら」

 めっちゃある。

 マトロがアクィール家を手中に収めようとした企みの証拠をつかみ、彼を脅迫したのは伏見その人だ。

 空手形を切らせて馬鹿高い酒を呑ませたことは詐欺と呼んでいいだろう。

 その代金を借金としてマトロに背負わせたのは言わずもがな。

「あまり大きくは言えませんけど……農耕地帯や外部の都市から子供を買ってきて、奴隷として酷使することもあるそうです。契約の代価を払わせるために、女性をその……そういうお店で働かせたり、とか」

「ひでぇヤツがいたもんだなァ……」

 やっべ全部やってる。

 新技術試験場やキャバクラさくらで働かせている子供たちは、全て契約により縛られている。最低限の人権と生活を保障しているのだから後ろ指刺されるいわれはないが、やってることは同じだ。

 よくよく思い出してみると、伏見はアルカトルテリアに足を踏み入れた際に祭祀門を通っていない。つまり、密輸も既にやっている。

 羅列された罪状はフルコンプしてた。どうすんだコレ。

「……もう、いいですか? あまり話したいことではありませんから」

「お、おう。なんかごめん」

 潔癖な少女にとって、敬愛する父が関わる犯罪はあまり知られたくないものだろう。気まずそうに顔を逸らし、ファティもまた席に着く。

 もっとも、気まずいのは伏見も同じだ。犯していない罪を数えた方が早い気がする。

 なんとも形容しがたい沈黙が訪れた室内に、ノックが二つ。

「失礼します。――両祭祀がおいでになりました」

 両開きの扉が開かれて、ティエロはその脇に控える。

 二人の違いは、まず音で分かった。

 どす、どす、どすと一歩一歩が床を軋ませる足音と共に、一人の巨漢が扉から顔を出す。

 豪奢な衣服に包んだ、はち切れんばかりの肥満体。動きこそ鈍重ではあるが、衰えた様子はない。身長は百九十近く、体重など伏見の三倍はありそうだった。

 マハディー商会の主、ラオ。

 続く靴音は、かつかつかつと小気味よく響く。

 地に足付いたという形容が相応しい。そんな男だ。

 身ぎれいにこそしているが、衣服そのものは質素で実用的。安物ではないが、決して高い物でもないのだろう。動きやすいよう身体の各所を革帯で縛り、とりわけ上半身はすぐはだけさせられるように手が加えられている。

 精悍な顔つきと、炉に焼かれ続けた浅黒い肌。

 ジャダ・カイラム手工業組合代表、ハウロン。

 両祭祀が室内に入るなり、マトロとファティは立ち上がって姿勢を正す。対して、ラオは握手も求めずに上座へ腰掛ける。ハウロンはその右隣りだ。二人の間にはティエロが立ち、使用人のように控えている。

 部屋に入り椅子に腰かけたというだけで、伏見らと両祭祀の立場は明確に示された。

 あちらが上で、こちらが下。

 自身の体重を支える特製の椅子に腰かけてなおこちらを見下すように、ラオは腕を組んでふんぞり返る。

「ようこそおいで下さった。軽い昼食を用意しているのだが――いかがかな、伏見君」

 祭祀代行たるマトロの頭を飛び越えて。

 ラオの脂ぎった眼差しが、確かに伏見を捉えていた。

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