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異世界ヤクザ千明組  作者: 阿漕悟肋
鏡面相克都市・ファウラ=ラド 上
110/130

109話.ヤクザ、お引き取り願う

「……んでよぅ。実際の所、この神さまの言うことってどんだけの価値があんの?」

「他の都市の住人に神が語り掛けるなんて、非常に珍しい事例ですよこれは。ましてや神さまからのお願い事なんて文献でも見たことがないです。ここはとりあえず受けときましょうふしみん!」

「いや、受け狙いでヤクザやってるわけじゃないから……」

 テンションの高いレイエとは対照的に、伏見はやや引き気味だ。

 ここは商契約を神聖視し戒律によって強制する契約商業都市・アルカトルテリアである。おまけに交渉相手は戦争の終結なんて難題を押し付けようとしているのだから、気が抜けるはずもない。

 加えて言うなら。

 小首をかしげてこちらを伺うリウレライトは、神というにはあまりにも子供じみていた。

 その相貌、纏う空気は超然として見えて、けれどその振る舞いは普通の子供と大差ない。外見よりもずっと幼い印象だ。

「価値ってのは、なんつーかこう……神さまの言葉の重みだよ。神さまが言えば黒いカラスも白くなる、みてぇな」

「んー……実務上の意味はあまりないですね。色々と説はありますけど、神の言葉は都市の人々の望みを反映しているそうです。でも、人がみんな自分の望む通りにしていたら都市がめちゃくちゃになっちゃいますよね? ですから、私たちは間に祭祀を置いているんです」

 理想と現実の差、ということだろうか。

 人それぞれに望みはある。もっと認められたいとか、もっと愛されたいとか、もっと五千兆円欲しいとか。

 人の望みには際限がなく、そして現実には人の欲望全てを満たすことなど出来ない。

 戦争を止めたい。

 その言葉が人々の望みだったとしても、実現できるかどうかはまた別の問題だ。

「わたしたちは、わたしに戻りたいの」

 可憐な唇を綻ばせて、少女の形をした神は言う。

「わたしたちはわたしだったのに、いつの間にか分かたれて、ずっと争ううちに、戻り方を忘れてしまった」

「……そのわたしたちってのは、都市のことかい。それともお嬢ちゃんのことか」

 尋ねる伏見に対し、リウレライトは首を傾げただけだった。

 きっと、区別がついていないのだ。自らと、そして自らを生み出した都市の望みを。

 戦争を止めて両都市が一つに戻れば、振るわれる力は自ずと強力なものになる。

 それは確かに理想そのものだ。戦争に費やされていた労力が発展や教育、弱者救済に振るわれ、外部への物質的、経済的依存は小さくなり、また影響力の拡大も著しい。

 けれど、それはただの理想だ。

 まさしく、子どもが思い描くような。

「一応聞いとくが、俺らへの頼み事は戦争を止めることであって、そっから先は関係ねぇんだな?」

「戦うのを止めたら、わたしたちは会える。わたしたちが会ったら、すぐわたしに戻れる」

 リウレライトはたどたどしく語る。

 戦争さえ終われば自動的に都市は一つに戻る――ということだろうか。

 受けるかどうかはともかく、戦争を止めるなんて難題を押し付けられようとしているのだ。この上さらに問題を積み上げられたらいよいよ手に負えなくなる。

「ちなみに、方法は? どうやったらこの戦争を止められる?」

 伏見の言葉に、神さまは愛らしく小首をかしげた。

「……報酬は何か考えてるんだよな? こう、俺らがやらざるを得ないような」

 不思議そうな目で、リウレライトは伏見を見つめる。

「そっかぁ……」

 これダメだな。

 神としての傲慢か、それとも子どもらしいわがままと評するべきだろうか。

 相手が従うことを疑ってもいない、そんな態度だ。どんなヒーローだって、この傲慢な神さまの願いごとを叶えてはくれないだろう。

 無理なものは無理だ。

 不可能であれば話は早い。あっさりと頭を切り替えつつ、伏見は茶をすする。

「ま、そういうことなら受けることは出来ねぇな。一応頭の片隅には置いとくから、なんかいいアイデアが浮かんだらまた来てくれ」

「そう……」

 ここが精いっぱいのラインだ。

 よそ様の戦争に首を突っ込む趣味はない。おまけに情報も利害関係すらないとくれば関わるだけ馬鹿を見る。

 内紛、戦争、大いに結構。

 視界に入らないところで、思う存分殺し合ってくれ。

「……と、そういやもう一つ。なんで俺らに……」

 目を離したわけでもないのに、いつの間にかリウレライトは姿を消していた。

 狐につままれたような、とはこんな状況を指すのだろう。きょろきょろと辺りを見渡す千明組の面々をよそに、伏見は溜息を吐いて頭をかく。

「ま、今日はこの辺でお開きにするか。三ツ江、あとは任せる。明日にゃ俺も帰るから」

「ウッス。兄貴はなんか用事でも?」

 ちょこんと座って成り行きを見守っていたファティに、伏見は目で合図を送る。ファティが蛇の肌を撫ぜると、アルカトルテリアの白蛇が緩やかにその身を地面へと近づけた。

 ファウラ・ラドへの接続も終盤だ。あと二時間ほどで本格的な交易が開始されるのだろう。

 その前に、済ませておくべき約束がある。

「他の祭祀サマが、うちに面談を求めてるんだとよ。書面じゃあ例の時計の件だそうだが、さてどうなるかね」

 

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