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異世界ヤクザ千明組  作者: 阿漕悟肋
鏡面相克都市・ファウラ=ラド 上
103/130

102話.ヤクザ、確かめる

「さて。アクィール商会は、エルメの村にいくらの値をつけるのかね」

「そんなこと聞かれても……うちは奴隷商はやってませんから、生きてる人に値をつけるなんて……」

 建前のように困ってみせて、ファティは頬に手を当てる。

 商人とは損得勘定で動く生き物だ。当然、エルメの村の価値はある程度見積もっているだろう。ファティの視線が、鑑定額を思い出すべく左上へとわずかに動く。

「……無理やりお金に換算すれば、ですけど。正直に言えば負債の方が目立ちます」

 それが、ファティの――そしておそらくはアクィール商会としての回答だった。

「もちろん、エルメの村が保有する森林資源や知識は希少なものなんですよ? アルカトルテリアが神の力として商契約を絶対とするように、アウロクフトは植物を操り、またその生育を助けるらしくって。木材は良質で、採れる薬草なども薬効が強く、特に神樹の琥珀は高値で取引されています。痛みを取り除き、安らかな眠りを齎すとか」

「ああ、あの……」

 神樹の琥珀ならば、伏見も常用者を見たことがある。

 要はふしぎなおくすりだ。効能としては幻覚と多幸感、興奮と発熱といったところだろうか。

 その手の薬物によくあるように、麻酔としての効能もあるのだろう。

 アウロクフトでは外部に出した探索者を帰還させるための鎖として用いられていたが、希少な医療品として扱う方がいくらか健全だ。

 痛みや苦痛から逃れたい、という願望は時代を問わず人類普遍のテーマである。麻薬として売らずとも十分以上の利益が確保できるだろう。

「つーことは、やっぱり連中への保障が問題か」

「それだけじゃないですよ。伏見さんってば、エルメの村をアウロクフトに編入させるためとはいえ無茶のし過ぎです。一日長く滞在した分の補填だけでも相当な額になりますから、回収だけで何年かかるか……」

 額を手で押さえ、ファティはわざとらしく落胆して見せた。

 元より金銭目当てではなかったけれど、確かに痛手ではある。千明組がこの世界に所有する資産のほとんどは債権であるため流動性に乏しいのだ。それでいて、新技術試験場などは多くの投資を必要としていた。

 とどのつまり、ちょっとした金欠状態に陥っているのである。

「……ウチが手っ取り早く金を手に入れるためには、エルメの村の木材や薬草を捌かなきゃならねぇ。でもウチはアルカトルテリアに市場を持ってないから――」

 テアが読み上げていた、千明組との仲介を望む商人らのリスト。

 その一枚を受け取って、伏見は紙をぱんと叩く。

「こいつらに商品を卸す必要があるわけだ。コネ作りのためって考えりゃあ悪くはないんだが、エルメの村の連中が生活していくための物資も必要で、儲けが出るかどうか。こっちが売り気だって知られりゃあ、足元だって見られるしなァ」

「あら、それは大変。うちでよければ多少は高く購入させていただきますよ。エルメの村に必要な物資も、お安くご用意いたします。伏見さんには御恩がありますから、ね?」

 ファティの目配せに応じて、テアは早速今後のスケジュールを組み立て始める。

 伏見としては願ったり叶ったりだ。アクィール商会に一括して商品を卸せば様々な交渉の手間が省ける。商品の代価自体は多少落ちても、手間賃や輸送費を鑑みればお釣りがくるだろう。

 アクィール商会としても、村一つ分の顧客を手に入れることができ、また希少なアウロクフト産の植物資源を独占して販売することが可能だ。

 千明組との接触を図っていた商人らには悪いが、これも商売だ。この時代には独占禁止法も存在しない。

 先の会話はこの為の布石だったのだろう。ファティはサービスと言っていたけれど、その意図は明白だ。何のことはない、伏見ら千明組がエルメの村を囲い込んだように、アクィール商会もまた千明組を囲い込むつもりなのだ。

「ま、詳細を詰めるのは資源調査が終わってからだな。そちらさんもそのつもりだろ?」

「ええ、もちろん。兎にも角にも、商品の質を確かめないと」

 どちらが主導権を握るかは、今後の課題として。

 客車の窓から、夕日に沈むトルタス村が見えていた。異世界のはずなのに何処か懐かしい、郷愁を思い起こさせる光景に目を細めながら、伏見は面倒くさそうに口を開く。

「ついでといっちゃあなんだが、ちょいと頼みを聞いてくれねぇかな。俺らみてぇな新参者には、どうにも調べられないもんなんだが……」

 伏見が口にした、その質問は。

 本来ならば、アルカトルテリアに入ってからすぐ調べなければならない類の情報だった。

今日は短くてごめんね……。

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