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Neva Eva  作者: 真樹
やさしいこえ
6/61

06

 白き光。


 それは、『異変』と呼ぶべきもの。










   * * * * * * * *




「とりあえずあそこに近付いてみるってのはどうだろう?」

「とりあえずで大雑把かつ有り得ねぇ結論を出すんじゃねぇよど阿呆」


 すぱこん、と小気味の良い音と共に頭を叩かれた。地味に痛い。


「ったー!? 何でぇ!? ここであの白いのがじわじわ広がってくのぼーっと眺めてるよりはよっぽど生産的じゃん!」

「そういうのは単に考えなしって言うんだよ」


 覚えとけ、と今度はびしぃっとデコピンをくらった。いやだから地味に痛いんだってそれ。


「ううううう痛……だって他にどうしろってのさー?」

「どうしようもねぇから悩んでんだろが。あんなモン、人間がどうこうできる範囲を超えてるぞ」

「いやそこで開き直らないでくれる? 仮にも『学院』の魔法使いサマ」

「仮にも言うな。規格外不審人物が」

「きかっ!? え、ちょ、なになにっ? そのワケ判んないうえに不名誉っぽい呼び方っ!?」

「………………真面目な話を、してたはず、では……?」


 おずおずといった調子ながらも、呆れを多分に含んだ声が響いた。言わずもがな、使い魔の少年のものだ。

 いや、というか今もすごく真面目な話をしてると思うんだけどっ。少なくともその不名誉だと思われる呼び名は訂正させて貰いたい。


「真面目に馬鹿な話をしてるんだろ」


 コウさんがきっぱりと言い切った。……うん、それ言い得て妙。


「うーん、いやでもね、ホント真面目な話、オレあそこに行かなきゃ行けないような気がするんだよねー」


 ことん、と首を傾げながらそう言うと、コウさんと少年が揃ってこっちを振り返った。

 いやうん。何だそりゃみたいなカオでこっち見てくれなくても、今まさに自分でもそう思ってるから勘弁してくださいその視線。



 だって呼ばれたような気がしたんだ。


 細く、小さく。

 ひどく、頼りない声で。



 呼ばれたと、思ったんだ。




 侵食を続ける白 ―――― あの、白い光の方から。




「……“光”?」

「ん? うん、アレ。白い光」


 何故だか怪訝そうな表情でそう聞き返されたので、不思議に思いつつもあの白を指差しながらそう答えた。


 白い光。

 しろすぎて、他に何も見えなくなるほどの。

 清冽な、ひかり。


 こんな状況じゃなければ、素直に綺麗だなって思えるのに、と感想を口にしたら、ますます怪訝そうな表情をされた。いや、怪訝ってかもうこれ胡乱の域。何気なくひどい。


「……アレがお前には“光”に見えるんだな……」

「ん? 何?」

「いや……、何でもない」

「?? 何なのさー」


 気にすんな、と頭を撫でられた。ワケが判りません、その行動。

 とりあえず、誤魔化されてることだけは何となくわかったけれども。……訊いても答えてはくれないだろうな。いいけど。


「―――― で? お前はあそこに行くってんだな?」


 オレの頭から手を離したコウさんが指差したのは、白き光。

 間違いじゃなかったので、オレは頷いた。


「うん」

「……どうせ止めたって行くんだろ」

「あははー、よくご存知で」


 呆れたように言うコウさんに、オレは苦笑を返す。あっはっは、オレの性格把握してるよね、ホント。



 だってね、呼ばれたと思ったから。



 オレが唯一覚えていたもの。


 魔術師の王の名前。




 ――――――“ラズリィ”。




 呼ばれてると、思うから。

 だったらオレは行かなくちゃ。


 うん、とオレはひとり頷いた。




「―――― よし。じゃ、行くねオレ」



 今までお世話になりました、とぺこんとひとつ頭を下げる。

 うん、本当に。コウさんたちいなかったらオレ今頃どうなってたんだろうね。……何かあまり考えたくない気もするんだけど。

 顔を上げれば、コウさんと少年が揃って呆気に取られたような表情をしていた。……ん?


「……待て。何でそんな結論になる」

「え? だって……」


 呼ばれてる、と思ったのはオレひとり。

 少年は、あの光に怯えてる。コウさんだって、少なからず似たようなモンだろう。

 人に、どうにかできるような事態じゃないと二人ともが言った。それは多分間違いじゃない。オレもあの白の侵食をどうにかできるもんだとは思わない。

 だけど、呼ばれたと思ったのも本当だから。


「ひとりで、あそこまで行こうかと……」


 思っただけなんですがあれちょっと。

 ものっそ睨まれてるんですがオレ……ってか怖い怖い怖い! コウさんその視線マジで怖い!!

 蛇に睨まれた蛙の心境が、今痛いぐらいに良く判る。貴重な体験。


「うえぇぇっと、何……」

「……前にも言ったような気がするんだがな」

「う、はいっ!?」


 低い声に、裏返った声で返事をする。

 すみません、素でむっちゃコワイんですけどォっ!?


「こういう状況で、お前ひとり放り出す程薄情じゃないつもりなんだがな、俺は」


 ……ん?


「一度拾ったものの面倒ぐらい、最後まで見させろ」


 …………あれ? え、ちょっと……?


 いや、うん。確かにね、そんなことを言われた記憶はある。珍獣扱いされたからよく覚えてる。


 でも……でもね?

 今、それを再び言われるとは思わなかったんだって言ったら、やっぱり怒る?


「……あの光は、少なくとも少年にとっては怖いものだよ?」

「そうだな」

「あと、多分コウさんにとっても」

「認めたかないが、そうだな」

「呼ばれた、とか思ってるの、オレひとりだよ?」

「そうだな。俺やエルシュは、どっちかと言えばアレから逃げだしたい口だ」

「…………逃げても、誰も文句なんて言わないよ?」

「俺が構うわ、ど阿呆」


 眉間に皺を寄せたコウさんがキッパリと言い放った。


 ……あぁ、ホントに、どうして……。


「……お人好しだねぇ、コウさん」


 放っておいても、良いのに。

 ホントはそんな義理も何もないのに。


 苦笑いするみたいなオレの言葉に、コウさんはまた眉根を寄せた。うるさい、と低く毒づかれる。

 ああ、ホントにね。そんなんじゃ貧乏くじ引いちゃうよ?

 隣で少年が諦めたようにため息を吐いた。


「仕方が、ない。マスターは見かけによらず、お人好し、なんだ」


 そして、珍しくちょっと笑いながら、更に告げる。


「―――― お前も、相当なもの、だけど……」

「……へ?」


 オレ? え、オレもひとまとめにされた? 今。

 お人好し、って……オレが?


「え? ええぇ??」


 盛大に首を傾げてるオレを余所に、コウさんはちょっと意外そうに少年を見た。


「いいのか? エルシュ」

「良い。オレは、マスターの判断に従う。怖い、のは確かだけど……それでも、オレひとり石の中に戻ろうとは、思わない」


 一緒に行く、とキッパリと少年が言った。

 ……アレ? なし崩し的に少年も同行決定ですか? えぇ??


「え、でも少年は色々とマズイんじゃ……」


 使い魔にとってあの光は人間以上に毒だろう。本能的な恐怖が何よりも勝る。

 そう思い問い掛けたオレに、少年はふるふると首を横に振った。


「大丈夫、だ。耐えられないほどじゃ、ない」

「っても、何かやっぱ顔色悪いよ、少年……」


 無理はしなくても……と言うオレを見て、少年は再びキッパリと首を振る。


「お前の運動神経ほど、重症じゃない」


 ここでそれを引き合いに出すのはどうかと思うよ少年!


 じゅ、重症って……! つかコウさん後ろで笑いすぎだ!

 ちょっとしんみりしてた空気が一瞬で吹っ飛んだ。ポン、とコウさんの手のひらがオレの頭を撫でる。


「ま、お前はあんまり難しく考えるな。俺達は俺達で付いて行きたいからそうする。それぐらいの認識でいい」

「……判った。ありがとう」


 オレの負担にならないようにそんな風に言ってくれたのが判ったので、オレは素直に頷いた。突っぱねる理由なんてない。危険なのは本当だと思うけど、それでも付いて行くと言ってくれたその言葉が嬉しかったのも本当だから。

 ホントにね、何気なく貧乏くじ引いてると思うよ?


「つーか、付いて行って力になれるかどうかは微妙なところだけどな。何せ俺達はどっちかっつーと防御系の魔法を専門にしてるからなぁ……」


 攻撃系の魔法はあんまストックねぇぞ、と吐息と共にコウさんは呟いた。

 その言葉にオレはあぁ、と頷く。


「“白の宮”は元々護りに秀でた者が集まるトコだもんね。それは仕方ないよ」


 攻撃系なら“赤の宮”連れてくるしかないんじゃない? と言えば、あぁ、と一瞬同意しかけたコウさんが、直後驚いたように瞳を見開いた。


「っお前……」

「へ? 何か間違ったこと言ったオレ??」

「……いや。―――― お前、やっぱり……」

「???」


 気になるところで言葉を切るの止めて貰えませんかね?

 つか、何でまた頭を撫でるの、コウさんてば。誤魔化されてる、誤魔化されてるよオレ。


 んー……?

 何か変なこと言ったっけ?オレ。



 先立って歩き始めたコウさんの背中を追いながら首を傾げたけど、やっぱり思い当たることは何もなかった。








 “白の宮” ―――― それは護りの力が特化した者達が集う宮。



 “赤の宮” ―――― それは攻撃の力が特化した者達が集う宮。




 『学院』の双璧とも言われる宮の名前と役割。


 魔法使いなら、誰でも知ってる常識。





 だけどそれは、記憶を落っことした後のオレが、教えてもらった覚えのない知識だった。














   * * * * * * * *






 ――――― ラズリィ。



 呼ぶ声が、また聴こえた気がした。




「……うん。オレは、ここにいるよ……?」




 呼びたい名前は、落っことした記憶の中にある。















 眠れ、と言われた。


 今は、ただ眠れ ―――― と。






 ―――― “ラズリィ”





 耳の奥で響いた声に、閉じていた瞳をゆっくりと開く。



「空耳、じゃないよねぇ……やっぱ」

「あ? また、声がしたのか?」


 ポツリ、と呟いたら、前を歩いていたコウさんが振り返りながらそう訊いてきたのでこくりとひとつ頷いた。


「うん。やっぱどうもね、呼ばれてるわ。オレ」


 あの白に近付けば近付くほどに強くなる声。

 最初微かにしか聴こえなかったのが嘘みたいに、ひどく鮮明に聴こえる声。

 呼ばれる度に、もどかしい気持ちになる。


 呼ぶ声に、聞き覚えがある。

 その声の主を知っていると思うのに、名前を呼べない。声の主の名前を、オレは覚えていない。何て矛盾なんだか。


「……余所見するな。転ぶ」


 うーん、と上を見ながら歩き出そうとしてたオレの腕を、後ろを歩いていた少年がぐいっと引っ張った。


「…………すっかりエルシュが世話焼きになってまぁ……」

「いやいやコウさんその感想どうなの」

「つってもな……コイツ俺が言うのも何だが、基本的に俺以外はどうでもいいって性格してたぞ?」


 いやいやいやその断言もどうなの。

 よっぽどそう突っ込もうと思ったけど、よくよく考えてみれば確かに最初の頃なんて敵対心バリバリの視線を向けてくれてたり、そもそも会話自体成立してなかったような気が……そういえばそうじゃん! え、アレ? オレいつから少年に世話焼かれるようになってんの!?


 思わずばっと背後の少年を振り返れば、コウさんの台詞に何か途轍もなくビミョーな表情になった少年は、右を見て左を見てひとつ大きなため息を吐いた後、


「コイツの行動見てたら、誰でもこうなると、思う」


 結構な問題発言だなオイ!

 アレだ、何気なくケンカ売ってるとしか思えない発言は健在だよ!


「あー…、まぁそりゃそうか」


 って、ちょっと!? そこで納得されるのはものすごく微妙だよ!?


「お前、誰か世話焼くヤツがいないと生きていけそうにないだろうが」

「い、生きてくぐらいはできるよっ!?」

「「…………」」

「ちょ、何かな!? その『嘘は駄目だろ』みたいな目線!」


 沈黙で応えたくせに、言葉よりも雄弁な目線ってどうなの!?

 う、嘘じゃないよ!? 多分、ひとりでも生きてくことぐらいはできると思う。……生傷は絶えないだろうけど。

 ……って、



(……?)



 うん? ていうか、何だろ。違和感?



 “ひとり”



 そう思った瞬間に、違う、って気がした。



 ―――― ああ、これ、一番最初に覚えた違和感だ。

 洞窟で目を覚ました時に思ったこと。



 どうして、オレは ――――……。



 違和感。



 ズキリ、と頭の奥が鈍い痛みを訴えた。





 オレは、今まで“ひとり”でいたことがあった……?






「―――― おい?」

「……っ、マスター!!」


 唐突に黙り込んだオレに、声を掛けようとしたコウさんを遮るようにして、少年の慌てたような声がした。

 オレも何だ、と思って顔を上げた先にあったのは、白。



 清冽なまでに、白く ―――― すべてを呑み込む色彩。



「『異変』……!!」

「なっ……侵食が早すぎるぞ……!」


 高台に立ってた時に、遠くに見えていた白。白い光。

 それが、すぐ目の前にあった。


 おかしいと思う。

 上から見た時、あの光はもっとずっと遠くの方にあった。

 今オレ達が歩いている場所からだと、まだ数キロは先だろうと思われる場所。


 少なくとも、こんなところで目にできる色彩じゃなかった。


「…………うわぁ」


 ていうかですね、うん。


 ぶっちゃけこれ、ピンチって言いませんか?


 いや、そもそもあの白い光に近付こうとしてたのはオレだけれどもー。

 その白い光の方から呼ばれてると思ったのも本当なんだけれどもー。

 こっ、心の準備とかそれなりに必要だと思うんだうん。こんな不意打ちに近い接触はちょっとご遠慮願いたいとか思ったり思わなかったり。


「何暢気な声あげてんだ! 逃げるぞ!」

「はや、く……!」


 少年に腕を引かれる。

 反射的に頷きそうになったけど、いやでもちょっと待ってよ。


「いやいやいや、この光に向かって近付いて来たのに、逃げてどうすんのさー」


 コウさんと少年がはたっと動きを止めた。……うん、忘れてたね。その様子だと。

 本末転倒、って言うんだっけ? こういうの。

 逃げたくなる気持ちはすっごくよく判るんだけど。オレだって今心の準備する間が欲しかったとか思ったし。

 が、しかし。


「……っ、……!」


 少年が、息を呑んで半歩後退する。

 すぐ目の前に、白。……こ、心の準備! 心の準備をさせろという話でねっ!? 駄目ですか無理ですかいやちょっと待とうよ!?

 慌てるオレ達を尻目に、容赦なく光はその範囲を広げつつあった。ホントにスピード速くないかおい!

 反射的に少年を引き寄せたオレの前に、コウさんが舌打ちしながら滑り込み、ロッドの先を光の方へと向けた。



『―――― EDITエディット! 風を護りに。展開せよ、防護シールド!!』



 打ち付けるような、そんなはっきりとした声がそう命じたのとほぼ同時に、ごう、と風が渦巻く。

 うわ、うわわわ、ナニ!? ナニ何々っ!?

 強い風に思わず瞳を閉じたオレが再び目を開けた時、視界に入ったのは、白。


 見事にそれ一色。見渡す限り360度白一面の世界だった。

 オレ達を中心とする半径三メートルぐらい分だけ地面があって、そこだけが唯一の色彩を誇ってる。あとは、白。それだけ。


「……うっわ、シュール……」

「……言いたいことはそれだけか」


 トン、とロッドの柄で軽く地面を叩きながら、コウさんが疲れたみたいな口調で言った。ていうか、うん? 実際に疲れてるように見える。


「コウさん、今の何?」

「あー……、防御魔法」

「……ものすんごいアバウトな返答じゃね?それ」

「お前にはそれで十分だろ。どうせ細かいこと言っても判りゃしねぇんだから」


 きっぱりと言い切られた。

 い、いくら事実でもね? ぐっさり刺さるよ、その言葉!


「……周り、見てみろ」


 小さく息を吐いた少年が言うので、気を取り直して素直に周囲を見回してみる。……おぉ??

 よくよく見ればオレ達の周囲にドーム状に薄い膜みたいなのが張ってて、あの白い光を弾いてるみたいな状態になってた。ドームの中だけ地面がちゃんとある。その他は、さっき言ったみたいに真っ白。

 おお、すごい。何コレ。


「風の、防護膜だ。この中では、大抵のものが無効化される」

「……まぁ、咄嗟だったから簡易なものしか張れなかったが……一応、この『異変』にも有効みたいだな」

「ほへー……」


 魔法すごい。うわ、ちょっとホントにすごい。

 こんなことも出来るのかー…というか、こんなことが出来ちゃうコウさんがすごいのか。うん、多分そうだろうな。こんなの、誰にでも出来るとは思わないし。


 おおー……と、感心してその膜を見上げたオレに、コウさんがこの上なく複雑そうな表情で訊いた。


「あー……何と言うか、今更だとは思うが……」

「うん?」

「お前、この光に近付いてどうしようと思ったんだ?」

「えー……っと……」


 ……あんまり考えてなかった、って言ったら怒られるかな、やっぱし。

 でも行けば何とかなるかー、みたいなノリでここまで来たし、オレ。


「…………行かなきゃ駄目だー、って思っただけだしー」

「……そんなことだろうとは思ってたけどよ」

「あははー。うん、でも大丈夫だよ。きっと」


 大丈夫。

 あの白が ―――― 広がる光がどんなに大きな『異変』であっても。

 大丈夫だと、思える。



 オレはこの白を怖いとは思わないけど、コウさんや特に少年にとっては違うだろう。

 この光は純粋すぎる力。故に、本能に訴えかける恐怖を見る者にもたらす。

 それでも。


「悪いものじゃ、ないと思うんだ」


 直感。ぶっちゃけると、勘。

 でも、確信に近い領域で思う。間違ってない。


「うん……大丈夫。何とかなる」


 また若干顔色の悪くなってる少年の頭を軽く撫でた。オレを見上げる目線に、にっこりと笑い返してみせて。

 くるり、とコウさん達に背を向けた。


 光の中、オレは立つ。


 白き世界。

 白き光に、包まれた世界。



(…………?)



 あれ?

 …………何だろ?うん。


 何か…………既視感?


 これ、この光……オレ、どこかで見たことあるような気がね? してきたのですよ、うん。

 そんなのありえない、と言い切れないのがオレの辛いところ。何てったってオレは否定材料となる記憶をごっそりどこかに落としている。



 だけど、はっきりしてることが、ひとつ。



 この光は、怖くない。



 だって、これは ――――……。







 ―――――――― ラズリィ。







 また、声が聴こえた。


 光の中から、オレを呼ぶ声。




 あ、そうか。

 うん、そうだ。



 理解、した。




 この声を、オレは知ってる。


 だから、怖くない。





 ―――――― だって、この光を作り出しているのは、この声の主。






 すとん、と。


 何かが胸の内に落ちてきた。




 それは、カケラ。



 オレが失くしてしたものの、ひとつ。







 脳裏に浮かんだ名前を、オレは口にした。






 「―――― フィル……?」


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