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Neva Eva  作者: 真樹
やさしいこえ
5/61

05

 「―――― なァ、お前、アイツをどう思う?」


 どことなく疲れた印象の背中を見送ってから数秒、傍らにいた己の使い魔に問い掛ければ、ちょっと考えるような仕草の後、すっぱりとした答えが返って来た。



「規格外」



 …………あー、やっぱお前もそう思うワケだな。







 ひょんなことで拾った子供は、確かにエルシュの言う通り『規格外』な少年だった。そりゃもうありとあらゆる意味でな。


 人気なんてまるでない山の中で呆然と立ってた、自分の名前しか覚えてなかった少々不審人物、ってとこが既に規格外。少なくとも俺の想定の中にはなかった。

 しかし本人まるでそれを気にした様子もないってことと、お約束に加えてオチまで綺麗についた初対面を演出してくれた運動神経ってのがまた規格外。滑って転んで頭打って死ねる運動神経は真剣にマズイと思う。


 そして更に、唯一覚えていた名前というのも規格外のシロモノ。


 『ラズリィ』。それは最強の魔法使い、魔術師の王の名。


 隠行してる使い魔の気配をさも当然のように感じ取るわけのわからなさもさて置き、さっき見た“晶石”も十分『規格外』なシロモノだろう。


「……明らかにアレ、大物の石……、だったよなぁ?」


 問い掛ければ、今度返ったのは無言の肯定。やっぱりか。


 “晶石”は元は普通の石でも、結果的にはまったく違った性質のものになる。

 石の中にその使い魔が入っている状態なら尚のこと、今のエルシュみたいに実体化して石の中が一時的に空っぽになっている状態であっても、“晶石”は普通の石とは違うんだってことぐらい、魔法使いであれば誰でも感じ取れることだ。


 “晶石”となった石には、その石を仮宿とする使い魔の気配が残る。

 魔法使いでなくても、ちょっと勘の鋭いものならば肌で感じ取ることができる類のもの。



 アイツが無防備に落とした金剛石のピアス ―――― あの“晶石”からは、特大級の使い魔の気配が、した。



「中身は……空、だったよな?」

「……でも、計り知れないぐらいの、力を感じた……」


 噛み締めるように、エルシュが言う。

 ああそうだな。確かにそうだ。

 あの石の中身は空っぽだったのに、そこに残された気配はとんでもなかった。

 多分、同じ使い魔同士、その気配をより敏感に感じ取ったのはエルシュの方だろう。


「ああ……、底知れない力を感じたな」


 その力は強力すぎて、大きさを漠然としか感じ取れなかった。嫌な気配じゃないのが幸いだが…………、とそこまで考えた、その時。



 ―――――― バシャーン!!!



 朝の静寂を破るように、大きな水音が響いた。



 音がしたのは、今し方『規格外』と称された少年の疲れた背中が消えていった方向、……って。


「―――― あ」


 マズイ、というように声を上げたエルシュと同時に、俺も「あ」と思った。


 …………忘れてたっての、畜生!


「エルシュ!」

「……見てくる!」


 即座に身を翻した己の使い魔を見送って、ため息を吐く。

 ああホント、アイツをひとりで歩かせるモンじゃねぇな。ウッカリしてた。


 今まさに話題にしていた少年は、今日も懲りずに川に落ちるなどという離れ業を披露してくれたらしい。二日連続とか普通に有り得ないだろ。



 お前の持ってるその“晶石”より何より、お前自身の運動神経が一番の規格外だと思うぞ。……なぁ?














   * * * * * * * *




 だって、ね。


 オレだってびっくりしたわけですよ。



「あぁそーかよ。俺はびっくりするの通り越してしまいにゃ呆れたわ」

「うぅうあぁ、すみません」


 イエあのマジすみませんごめんなさい。


 ぽたり、ぽたりと髪から垂れる滴の行方を目で追いながら、素直に謝った。だって二日連続とかさすがにオレも有り得ないだろとか思うから。オレも自分で自分に呆れた。否むしろ感心した。


 背後から少年が呆れた気配を纏いながらも、乾いたタオルでオレの頭を拭いてくれた。その手つきは乱暴なようでいて、ひどく優しい。

 ていうか、アレ? 何でオレちっさい子に世話焼かれてんの。


「で? 今日川に落ちた原因は何だって?」


 切れた運動神経以外に何かあるか? とコウさんが訊いた。

 ……それ以外に何があると言わんばかりだな。

 …………いや、あるよ? それ以外の理由も、一応。


「ええと、例のピアス付けたら名前呼ばれたようなカンジがしてびっくりして落ちた」

「お前ちゃんと頭の中で整理してから物事話せ」


 主語述語ぐらいちゃんと付けろ、とべしりと頭を叩かれた。痛い。

 でもなぁ……端的に言うとそういうことなんだよね。


 だってさ、ホントにびっくりしたから。



 顔を洗おうと思って覗き込んだ水面に映った、未だに見慣れない自分の顔。赤い瞳と薄茶の髪。

 その髪の間に見えた自分の右耳に、今まで気付かなかったそれを見つけて、あれっと思って水面に顔を近づけた。

 耳に開いた小さな穴……ピアスホール?


 あれオレピアスホールなんて開けてたんだ、とか、あーじゃやっぱさっきのピアスってオレの? とか、色々考えて。

 ごそりと探ったポケットの中、指先に感じた小さな石と金属の感触…………あぁやっぱりそのうちコレどっかに落としそうオレ、とか考えて。

 あーそうか、それなら付けちゃえばいい、とか思っちゃったわけですよ。安易に。


 水面を覗き込みながら慎重な手つきでピアスを付ける。カチリと留め金が嵌まったのを確認してもう一度水面に映った自分の顔を見れば、不思議とピアスはしっくりと己に馴染んでいた。

 いや何てーか大事なものが戻ってきたカンジ? ああ、コレが足りなかったんだー、みたいな。…………無防備にそのピアス落としたくせに何言ってんだー、みたいな。


 でもホントにさ、すとん、と理解したんだ。


 あ、この石オレのだ、って。

 さっきまで半信半疑だったくせにね。



「あー、はは。でも似合うじゃん、オレー」


 水面に映る自分を茶化すように言う。

 オレの右耳でキラキラと光る小さな石。




 ―――――― ……ィ。




「……え?」



 声が、した。


 小さな、小さな、囁きみたいな、声。



 オレだってね、びっくりするわけですよ。

 急に耳元で、そんな声みたいなのが聴こえたらね。


「え、あれ、ちょっと待っ……」


 しかもね、何となく聞き覚えのある声だとか思っちゃったんだよね。



 声はとても小さくて、確信は持てない。


 それでも。




 ―――――― ラズリィ。





 呼ばれた、と思った。















「―――― で、気付いたら川にぼちゃんと」

「落ちるなよ、そこで」

「そこはオレの運動神経と要相談です」


 つーか、相談の結果落ちたんだけど、と呟いたオレにコウさんは呆れた眼差しを向けた。はいそこ相談するだけ無駄とか言わない。


「声は今も聴こえるのか?」

「んにゃ、何も。ってか、信じるんだ?」


 オレ結構突拍子もないこと言ってると思うんだけど。

 きょとんと首を傾げながら問えば、お前相手ならそういうのもアリだ、という答えが返って来た。アレそれって何気にオレに失礼じゃね? 言外に非常識なんだから、とか言ってね?


 オレとコウさんとのやり取りに、少年が呆れたようにため息を吐いた。髪を拭いてくれたタオルを脇へとどけて、ぐしゃぐしゃになったオレの髪を手櫛で整えてくれる。あ、ありがとー。

 お兄ちゃんと弟みてぇだな、と言ったのはコウさんだ。弟、と言いながら、指差した先は間違いなくオレだった。え、オレ弟?

 納得いかない、と呟いたオレに、再びため息を吐いた少年の指が不意に止まった。


「ん? どうかした?」


 真上を見上げる。そこには微妙な表情をした少年の顔が見えた。うん? 何故にそんなカオ?


 首を傾げたオレの右耳にそっと触れて、少年は複雑な表情をしたまま口を開いた。


「ピアスホール、ふたつあるぞ」

「え?」

「だから、ふたつ……」

「……うぇ!?」


 マジで!?


「……お前、もう一個はどこやったよ?」

「…………オ、オレの記憶とご相談?」



 そりゃまたアテにならん話だな、とコウさんが投げやりに言った。




















 眠れ、と声がした。



 今は、眠れ。


 いずれ、また ――――……。





“この石は、お前に……”





 ころり、と転がったのは、きらきらと輝く光の石。

















   * * * * * * * *




 「……っ!」


 背筋がぞくりと粟立つような感覚に、無意識のうちに声を呑んだ。


 い、今の何っ? なになになにっ!? 鳥肌とかたったんだけどっ。

 ざわり、と内で何かが蠢くような、奇妙な落ち着かなさにオレは自分で自分の腕を抱いた。うわマジで鳥肌。


「おい、どうした?」

「うううう、何かぞくぞくするぅぅっ」


 悪寒? 悪寒なのかコレ。

 いまだ鳥肌がたったままの腕を擦りながらそう答えれば、コウさんがオレを見下ろしながら僅かに瞳を細めた。


「あ? 馬鹿は風邪をひかないものだと思ってたんだがな」

「言うに事欠いてソレ!?」


 言うね。言ってくれちゃうね!


「ちがーう! 真面目な話! そういうのじゃなくて……」


 そういうのじゃ、なくて。

 …………えーと、だったら何だ、と聞き返されても微妙に困ってしまうワケですが。ああうん、何かオレ語彙力も足んないみたい。

 でも、敢えて一言でいうのならば。


「………………ヤバイ感じがする?」

「不吉なことさらっと言いやがったな」


 いや、だって。

 ホントにそんな感じがするのですよ。ひしひしと。今もまだ。鳥肌治まんないし!


「ううう……何というかね、空気が落ち着かない。ざわざわしてる」

「空気が?」


 コウさんが怪訝に眉を顰めた。判らない、ってカオしてる。


 判んないかな?


 ざわり、ざわりと震える空気。

 そこかしこに、潜む気配。

 瞳を閉じれば、感覚がより鋭敏になる。


 ……判んないかな?

 オレは、何となく判っちゃったんだけど。


 あぁ、そうか、って。


 これは ――――……。



「―――― 精霊が、怯えてる」



 オレは腕を擦っていた手を止めて、空へと伸ばした。


 瞳を閉じた方が、よく判る。

 身体に感じる空気全体が、ざわめいて震えてるカンジ。

 怯えてるんだ、って思った。


「お前……」


 コウさんが何か言いよどんだように途中で口を噤んだ。

 何だろう、と思って首を傾げた、その時。


「っ、マスター……!!」


 ぶわり、と風が吹いて少年が姿を現した。

 うわ、使い魔ってホント何もないとこから現れるよね、なんて一瞬どうでもいい感想を抱いた。いや、だって突然はさすがにビビる……って、ん?


「? 少年?」

「おい、どうした? エルシュ」


 コウさんが慌てて手を伸ばす。その腕の中抱きとめられた少年の顔色は、見てそれと判るほどに青かった。え、ちょっとホントに真っ青なんだけどっ。大丈夫!?


「え、え、ちょっ、何事っ?」

「エルシュ!? おい、どうした!?」


 何があった、と問うコウさんの腕を、少年はぎゅっと握り締めた。その指先が小さく震えてる。

 あれ、これって……?


「マス、ター……」


 こぼれた声は、小さく掠れていた。

 あれ、これやっぱり怯えてる……?


「マスター、駄目、だ! これは、手に負えない……っ!」


 震える声で、少年が言った。



「この『異変』、は……、人の手に、余る……っ!」





















 世界の果てなんて、誰も見たことないだろう。

 そもそもそんなモノあるのか、って話だし、想像するにしても個人によってその認識もまちまちだ。


 だけど。



「―――― うっわ……」



 目の前に広がる光景に、世界の果てってモノがホントにあるのなら、きっとこういうのを言うんだろう、って思った。



「真っ白……」


 いや、ホントに白い。他に言いようがない。

 高台から見下ろした光景は、半分まともで半分は非現実的なものだった。


「霧……じゃねぇよなぁ……?」

「今すんごいいい天気だよ? 湿度とかめちゃくちゃ低そうだよ?」


 そんな中で発生するような根性のある霧をオレは知らない、と言えば、そんなの俺だって知らねぇよ、と投げやりな声が返ってきた。

 まぁ……でもコウさんの気持ちもよく判る。


 眼下に広がる光景。

 オレ達の足元には緑深い森が広がっていて ―――― それは途中で白に呑み込まれるようにして途切れてなくなっていた。


 世界は、そこで消えていた。



 そう、オレ達が今から向かおうとしている方角、おそらくはラシャートの村がある方向は白一色しか見えない。当たり前にあるはずの景色が、そこにはない。

 眼下に広がる緑は途中で奇妙に途切れ、視界の半分から先はまるで濃い霧に覆われているように真っ白に塗り潰されている。



 白に支配された世界。


 そんなものが、そこには存在していた。



 ぶっちゃけありえない光景。

 いや、オレが始めに目を覚ましたあの水晶の洞窟も十分ありえないカンジだったけどね。この光景は軽くソレの上を行ってます。マジでマジで。


「多分ホントはあの先までずぅっと森が広がってるんだよねー……?」

「……あぁ。こんだけ天気が良けりゃ、ラシャートの村もあの辺に見えるはずだ」


 そう言ってコウさんが指し示した先は、ただ白い。

 何も、見えない。


 白く、白く。―――― ただ、白く。


 あれの正体なんて、オレには判らない。

 だけど、あの白に感じるのは圧倒的な『力』だ。


 純粋に、強く。穢れすらも感じない白。



 世界を塗り潰してゆく、それは。



「『異変』……?」

「あぁ。―――― それも、最大級のな」


 最悪だ、と喉の奥で唸るようにしてコウさんは呟いた。


「ええと……見間違いじゃなければ、何かアレ、あの白いの……範囲拡大してってるような気がするんですけれども……?」

「……あぁ。俺にもそう見える」

「えぇええと…………もしかしなくても“大崩壊”並の『異変』だったりなんかして……?」


 魔術師の王もいない今、成す術もなく滅ぶしかないなー、的なアレですか?


「……そうだな」

「……いや、嘘でも否定しようよそこは」


 肯定されたら困るじゃん。主にオレが。


 えーっと……と思いながら首を巡らせた先、さっきよりは少しマシになったもののまだ大分顔色の悪い少年の姿が視界に入った。少年は、視界に入る白をじっと見据えたまま微動だにしない。

 主であるコウさんも同じように白を睨み付けたまま、ゆっくりと口を開いた。


「エルシュ。お前は戻ってろ。お前にこの空気はさすがに毒だ」

「でも……っ!」

「手に負えないと言ったのはお前だろう? あぁ、正直俺もそう思うさ」


 これは、人間の手に負えるものじゃない、と低くきっぱりとした口調でコウさんは言った。


「『緊急召集』なんて、何の役にもたたねぇ。おそらく先にラシャートにいた連中はアレに呑まれちまってる。人間にどうこうできるモンじゃないだろう、アレは。―――― 事態を、甘く見てた」


 その時点で、俺達は出遅れた。

 そう言ったコウさんの声には、オレが聞いてもそうとわかるぐらいの後悔が含まれていた。


 ……うん。

 気持ちはね、痛いぐらいに判るよ。

 あれは、どうしようもない。甘く見ていた感も、否めない。


 だけど。



 眼下に見える、白。


 世界を侵食する、白。


 あれは皆が『異変』と呼ぶもの。


 おそらくは、忌むべきもの。



 だけど。



「…………?」



 ちくん、と。


 胸の中、何か刺さるような感覚が、した。


 それは別に驚くぐらいの衝撃を伴ったわけでもなく。言うなれば何かちっちゃな棘が刺さったみたいなカンジ。

 微妙に痛くて、無視できないカンジの、それ。


 あの白を見た瞬間に覚えた感覚がそれだなんて、我が事ながらよく判らない。

 ん? アレいやちょっと待て。こういうこと思ったのって、別に今が初めてってワケじゃなくね?

 訂正。我が事だからよく判らない。

 ……どうよ、オレ。


「……で? アレはどうすりゃいいモンだと思う?」

「え? ちょ、何? それオレに訊く? 訊いちゃう? こういうのの専門家はコウさんの方でしょー」

「正直、俺程度のレベルのヤツにどうこうできる事態だとも思わん」


 きっぱりとコウさんは言い切った。……断言ですか。

 つか、オレに訊いたってしょうがないと思うよ、ソレ。


「アレだ、溺れる者は藁をも掴む心境」

「……オレは藁か」


 いや、オレのレベルはせいぜいそんなモンだってのは知ってるけれどもっ!


「せめて板とか……」

「そういう問題か」


 前方を見据えたままのコウさんにツッコまれた。

 いやだって……藁はあまりにも悲しいじゃん。板レベルぐらいは欲しいじゃん。


「お前は……」


 ふと、傍らで声がした。ん? と思って振り返ると、少年と目が合った。


「お前は、怖くないのか……?」


 あの白が、と唇が動いた。

 高台というこの場所からでは嫌でも視界に入る白。世界の果てのような光景。


 問われたことを首を傾げつつ考えて ―――― オレはあれ?と思った。



 十中八九、精霊が怯えてるみたいなのも少年の顔色が悪いのも、あの侵食を続ける白のせいなのだろう。


 すべてを呑み込む、白。

 ―――― 直感で、判ってしまった。


 あの白は、純粋な“力”だ。純粋すぎる、力だ。

 力が強いが故に、すべてを飲み込む。


 もとは精霊たちも、人間とは違って“力”そのもので構成されてるようなものらしい。これは例によって例の如くコウさんとか少年とかに教えてもらったことだけど。

 “力”で構成されているものは、“力”による影響を受けやすい。

 それが強い力であるのなら、尚更だ。強すぎる力は、精霊にとって毒にしかならない。それは元が精霊である使い魔たちであっても同じこと。

 ていうか、ここまで純粋に強い力相手じゃ、人間にだって影響が出る。

 まぁ影響とは言っても精霊たちほど深刻じゃなくて、本能的に恐怖を感じるとかその辺がせいぜいだとは思うけど……って、あれ?ちょっと待てよ?


(怖、い……?)


 そう感じるのが、普通なんだとは思う。

 世界を呑み込む、白。

 それを見て、怖いと思うのが普通の反応だろう。

 少年は、怯えてる。コウさんだって、いつもと同じように見えるけどちょっと違う。雰囲気がいつもよりピリピリしてる。

 だけど、オレは。



「怖くはない……かな?」



 うん。怖いとは、思わない。



 世界を呑み込む、白。


 世界を侵食する ―――― おそらくは、忌むべきもの。



 それでも。



 オレはあれを、怖いとは思わない。



 ただ少し、ちくんと胸に刺さるものがあるだけ。










 ―――――― ィ……。





 ふと、名前を呼ばれたような気がして、オレは振り返る。



 キラリ、と陽の光に耳元の石が反射した。


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