01
目が覚めた時、あれっ、て思った。
思った次の瞬間 ―――――― 咽ました。
ええ、思い切り。 正直死ぬかと思ったね。
* * * * * * * *
がぼがぼごぼがぼ……。
「―――― ぶはぁっ……!!」
ざばぁっ、と勢い良く水面に顔を出すと同時に、空気がいっぺんに肺の中に入ってくる。
霞む視界の端に岩らしいものがちらりと見えたので、思い切りしがみついてそのままげほごほと咳き込んだ。
……水飲んだし、喉痛い。鼻もイタイ。
「……ゲホッ。あー……、死ぬかと思った…」
というか、死んだと思った。よく生きてた。偉い、オレ。頑張った、オレ。自画自賛。
喉はまだヒリヒリと痛むけど、さっきよりはマシになってきたので、オレはゆっくりと顔を上げた。
「………………は?」
上げたところで、固まった。
妙にだだっ広い場所……ええと、ここは洞窟の中?
オレが今いる水の中は、形状だけ取ればおそらく地底湖とでも呼ぶのが一番近いだろう。
形だけはね。
ナンか周囲が全部岩とか鍾乳石とかじゃなくて水晶で出来てる地底湖だけどね!
うお、オレがしがみついてる岩も水晶だったよ……! 100%全部水晶。どうりで岩にしては手触りが変だと思った。
水晶が光を透過して、きらきらぴかぴかしてて……、いやもう眩いばかり。正直目に痛いです。
これ換金したら全部でいくらぐらいだろー……って、待て待て。とりあえず落ち着けオレ。
換金するにしても運搬費用がバカにならない……って、それも違う。ああちょっと思考が混乱気味。
「うぇっと……、何故にオレはこんなところにいるんでしょーか……?」
呟いても、当然の如く答えはない。
ええと、現状把握。
ここはどこだ? ―――― まったく判りません。とりあえずオレは何故か水の中にいます。
オレはここで何をしていた? ―――――― まったく覚えがないけど、どうやら水の中で寝てたらしいですオレ。てか、さっき危うく死にかけました。生きてて良かったと心底思います。
…………うん。
結論。何も判りません。
そもそも水の中で寝てた、ってぶっちゃけありえね。
目が覚める前に永眠してるね! 普通。
きらきら光る、水晶の湖。
現実離れした光景の中で、ちょっぴり途方に暮れた。
知らない場所。周囲に人の気配はまるでなし。
こんなところで、ひとりでどうしろって言うのさー……。
(―――― え……)
不意に。
ドクン、とひとつ鼓動が跳ねた。
ええと……何だ?
今、途轍もない違和感、が。
少し首を傾げて考えて ―――― すぐにその違和感の正体に気が付いた。
―――― “ひとり”……?
そうだ。
ひとり、なんだ……。
オレが今、『ひとり』でここにいること。
それが違和感の正体。
何故か、確信してしまった。
ここはどこなんだろう、とか。
何で水の中で寝てたのか、とか。
気になることはたくさんあったはずなのに。
オレの中生まれた一番の疑問。
他のことなんか、どうでもいい、って思った。それぐらい、不思議だったんだ。
「…………何でオレ、こんなとこにひとりでいるんだろ……」
“ひとり”でいる自分が、不思議でならなかった。