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頭文字・爺  作者: 綿坊
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レイニー・ステップ

―― S峠



今晩のS峠には、多数のギャラリーが押しかけていた。


省吾が呼んだのは20名ほどだったが、全体で80名程のギャラリーが待機していた。



「ま、軽トラの幽霊が来なくても走り屋同士の交流会って感じだな。」


「おお!裏R山の錦兄弟がいるぜ省吾!!」



裏R山の錦兄弟。


180-SXを駆る兄・錦アキラとS13K'sを駆る弟・リョウ。


常に二台で相手を追い込む走りを魅せる彼らは


『裏R山の汚点』『卑怯の真髄』


と呼ばれている。



兄アキラは二台のチューニングを行うなど知識があり、的確に弱点を見つける事を得意としている。


弟リョウは相手の進路を塞ぐ運転を得意としている。



「あんたが今日幽霊が出たら戦うっていうエボⅧのドライバーか?」


省吾は地面につばを吐き、


「そうだ。俺は矢作省吾。あんたの事は知ってるぜ、汚点さん」


悪態をつく。



「その呼び方はやめてくれよ。これでもデリケートなんだ。


ま、ここであったのも何かの縁だ。幽霊が出るまで交流と洒落込もうか。」



アキラの提案により、ローリング族達は深夜2時頃まで峠を流すなどし、待機していた。


が、途中で雨が降り始めた。



「雨か…降り出して30分、時刻にして午前2時9分。そろそろか。」




省吾のエボⅧの背後に、鋭いキセノンライトが二回、三回突き刺さる。



「来たか!退きやがれてめえら!!」



省吾はクラクションを鳴らすとアクセルを踏み込む。



「なるほど、これが噂の軽トラ幽霊……後ろからつかせてもらいますよ」



アキラの180SXと省吾のエボⅧに挟まれる形で源次郎のサンバーが走る。



「あの黒っぽいのが悪さしちょうやつかい。後ろのは見学かの。」



スイフトとのバトルと同じく、源次郎はエボⅧの後ろへとくっ付きコーナリングを始める。


「こいつ、なかなかやりよるのう。インに攻められんの」


源次郎はエボⅧの背後にピッタリとくっ付いたままコーナーを脱出する。立ち上がりはエボⅧと互角。



「本当に出やがったとはな!化けもんみてーな立ち上がりだぜ、350馬力のエボと互角とはな!!」



「なるほど、あの軽トラ、サンバーか。


RRリアエンジン・リアドライブでフロント・リアの荷重比が51:49と恐ろしいくらい理想的なバランス。


また各ギア比も秀逸で、路面にパワーを余すことなく伝えることが出来る。


立ち上がりの鋭さもリアにトラクションが掛かったことによるものだろう。やるな……この軽トラは…


しかし」



源次郎のサンバーとエボⅧの差はストレートでジリジリと開く。


直線での加速能力はリッターに勝るエボⅧの圧勝。


コーナーで互角ならば勝負を決めるのは直線。どのみち速い車が勝ってしまうのだ。



「残念だがこの勝負、早く終わってしまいそうだな」


アキラは前を走る二台を見て、そう感じた。

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