魔王城の殺人 ~魔王を殺したのは誰だ~
■勇者パーティーの魔法使いの話
あ、警察の方ですか? 早かったですね。
はい、魔王の死を通報したのは私です。
勇者パーティーで、魔法使いをやっております。
え? 魔王の死を通報するとか頭がおかしいんじゃないかって?
私は至って正常です。ノーマルです。
変死体があったら警察に通報するのが一般市民の義務だと思いますが。
魔族は例外? あなた差別主義者ですか?
私は博愛主義者です。人類皆兄弟ですよ!
まあ、それはさておき聞いてください。
魔王が殺されてたんですよ、魔王が。
お前らが討伐しただけなんじゃないかって?
いや、違います、犯人は私たちじゃありません。
私たちが倒しに来たときには、もう死んでたんですよ。
こう、玉座に座ったまま、ぐったりと。
胸にでっかい穴が空いてましたから、それが死因だったんじゃないかな。
死体はどこかって?
……すみません。私の手違いで、極大消失呪文で消失させちゃいました。
え? もう帰っていいかって?
別にいいですけど、極大消失呪文があなた達にも炸裂することになりますよ。
私たちの税金分はしっかり捜査してくださいね!
■勇者の話
うちの頭がおかしい女が迷惑をかけてすまない。
いつもあんな調子なんだ。
おかげで今までどんだけ苦労したことか……。
ただ、これだけは信じてくれ。
俺たちが来たとき魔王の部屋に入ったとき、すでに魔王が死んでたのは事実だ。
この目でしっかり見たんだ、間違いない。
自殺……とは思えないな。
とにかく生に執着するで、勝つためには手段を選ばないようなヤツだった。
戦うのを楽しみにしてたのに、正直残念だったな。
戦いが好きなのかって? ああ、大好きさ。
魔王軍四天王との戦いも楽しかったな。
戦将ハウザー、魔将フー、死霊使いのホワイト、紅一点のミステル。
どいつも強敵で、戦いがいがあったぜ。
全員生きてたはずだから、魔王城で再戦できると思ってたんだが、
二人しか出てこなかったな、何故か。
ああ、すまない。魔王の死の状況だったな。
最初に部屋に入ったとき、鼻につく妙な臭いがすると思ったよ。
今思えばあれは死臭だったんだな。
で、玉座に座る魔王に名乗りを上げても反応が無かったもんで、おかしいなと思って近づいたら、魔王は玉座に座ったまま、俯いて死んでたんだ。
胸にでかい風穴あけて、目を見開いてな。
血が大量に流れた跡があったが、もう乾いてた。死後一週間以上は経ってたんじゃないか?
傷跡の形? 何かこう、ぶっとい槍で思いっきり貫いたような感じだったな。
槍といえば、魔王軍に最強の槍の使い手がいたな。
まだ魔王城にいるはずだ。探してみるといい。
面白い話が聞けるかもしれねーぜ。
ん? おい、どうした!? 大丈夫か?
……ああ、うちの僧侶の様子がちょっとおかしくてな。
シャーマンの血を引いてるからか、たまーに悪い霊に取り憑かれたりするんだ。
何かトランス状態になってるけど大丈夫かなあ。
魔王に意識乗っ取られるとか、止めてくれよ?
■戦将ハウザーの話
魔王軍四天王が一人、戦将ハウザーとは俺のことだ。……いや、今は二天王だったな。
何か用か? 今勇者に受けた傷を癒やしている最中だ。手短に話せ。
……魔王様が殺されていた? 勇者が来る前に?
断じて、ありえぬ。
魔王様は魔界において最強の存在。
四天王が束になっても敵わぬ。倒せる者がいるとすれば、四……二天王最強たる俺を破った勇者のみよ。
む、なぜ二天王なのか、だと?
昔は四天王だったのだがな。二人、処刑されたのだ。魔王様に。
一人は半年ほど前に。もう一人はつい一週間ほど前にな。
勇者に敗北されたことを咎められ、配下への見せしめのために処刑された。
とにかく苛烈な方だったゆえ、魔王軍にも魔王様を憎む者は多かったやもしれぬ。
しかし、魔界では力こそすべて。強きものこそ正義よ。
俺は強きものこそ尊敬する。魔王様であれ、勇者であれ、な。
何? 俺の槍が凶器でないかと疑っておるのか。
はははは! 片腹痛いわ。
確かに、我が神槍グングニルは世界最強の槍。
しかし、魔王様にはあらゆる武器による攻撃が通用しないのだ。
冥獣ネメアの皮で作られた闇の衣を纏っておられたからな。
剣による斬撃も、槍による刺突も、ありとあらゆる武器攻撃を無効化する。
唯一弱点があるとすれば、魔法による攻撃のみだが……。
勇者パーティーの変な魔法使い以外に、魔王様に通用する魔法の使い手がいるとは……。
いや、一人だけ。魔王軍最強の魔法の使い手がいるか。
まさか、あいつが……。いや。そんなことは、ありえぬ。
話はもう十分か? さっさと消えるがいい。
■魔将フーの話
私が魔王軍四天王、最強の魔法使いにして錬金術士、ドクター・フーです。
二天王なんじゃないかって? 四天王という響きが好きなだけですよ。気にしないでください。
はい、話は聞いています。魔王様が殺されていた、とか。
にわかに言って信じがたいですね。
魔王様は最強の存在でした。たとえ勇者パーティーであろうとも、勝ち目は無きに等しかったでしょう。
私の魔法が魔王様に通用するかどうか、ですか?
ハウザーの奴が何か言いましたか。まったく……。
確かに、魔法は魔王様唯一の弱点でした。
しかし、魔王様もそこは承知の上。
勇者との決戦に備え、私を中心とする錬金部隊に、魔法の対策を開発することを命ぜられました。
任務に失敗すれば、待つのは死のみ。魔王様は苛烈な方でしたからね。
それはもう、必死の思いで日夜研究を続けました。
そして、つい先日、完成したのですよ。
究極の魔術装置、マジックバリアが。
マジックバリアはあらゆる魔法攻撃を無力化する魔法障壁を展開します。
私の魔法にしろ、勇者パーティーの変な女の魔法にしろ、ね。
装置を身に着けている限り、着用者の魔力を元に、マジックバリアは常時発動します。
マジックバリアを献上したとき、魔王様は大層お喜びでした。
もはや、余を滅ぼせる者はこの世に無くなった――と仰っていました。
まさしくその通り。武器も魔法も通じない魔王様を、一体誰が殺せるというのでしょう。
あるとすれば、それは……死者の呪いくらい、でしょうか。
敵にせよ味方にせよ、魔王様が奪った命は数千万じゃ足りないくらいでしたから。
■勇者パーティーの僧侶の話
きひ。きひひひひ。
魔王軍四天王が一人、死霊使いのホワイト・ワイト。
とうとう蘇ったぜ! ……って体が動かねえな。
この宿主はそうとう魔力が強いらしい。好きにはできねえってことか。
にしても、死霊使いが死霊になっちまうとは、笑えねえ冗談だぜ。
あん? 俺に何か用か?
……魔王が殺された? 勇者に倒される前に?
ハッ、ざまあねえな!
たった四人しかいねえ幹部をの一人を、てめえのプライドのためだけに処刑するようなクズだ。
そんなんじゃ、長くは持たねえって思ってたけどな。やっぱりなあ!
手がかりだと? そんなもん知らねえな。
俺が知ってるのは、俺が死ぬまでのことだけだ。
死人に口無しって言うが、喋れるようになったからには、ちょいと昔話でもしてやろうか。
俺ら四天王は、魔学校の同期でな。気の合う仲間同士だったんだ。
正々堂々が好きなハウザーはちょいと苦手だったが、フーとは根暗同士話があったな。
それと、ミステル。ダークエルフのあいつは超かわいくて性格も良かったから、俺ら三人はみんな大好きだった。
ただ、暗黙の了解で付き合うとか、そういうのは無かったな。
四人の関係が崩れることはしたくなかったんだろう。
そのまま、魔王軍に士官して、それぞれ力をつけて、軍団長を任せられるようになった。
四天王とか呼ばれ始めたのは、その頃だったな。
人間界への侵攻もいい感じに進んでいて、魔王の野郎もご機嫌な頃だった。
そんなときだ、勇者の奴が現れたのは。
たった三人のパーティーのくせに、一個師団に匹敵する力を持ってるときた。
ずっこいなあって思ったよ。
ただ、戦って見ると、中々に爽快な奴で、楽しかった。
俺のようなクズを見逃してくれたしな。
ただ、魔王の怒りは半端無かった。
四天王でありながら、勇者に敗北するとは何事かってな。
処分が下されるってことで魔王の前に出向くことになった。
そのことを他の四天王に話したときは「仮にも軍団の長だ、命までは取られない」ってみんな言ってたよ。
俺たちの認識は甘かった。
魔王の部屋に入った俺は、言われるままに魔王の前に跪いた。
玉座に座ったままの魔王が、指先をこちらに向けた。
そのとき、魔王の指先から目にも留まらぬ速さの光線が飛び出し、俺の胸を貫いた。
本当に一瞬のことだった。あれが魔王のお得意の閃光魔法ってやつか。
俺の胸には槍で貫いたかのようなでっかい風穴が空いてやがった。
痛みと苦しみの中、俺は生き絶えた。
俺の話はここまでだ。その後のことは何も知らねえ。
何の参考にもならなかったろ?
あー、意識が遠くなってきた。そろそろ宿主が目を覚ます頃か。
最後に、ミステルのやつに会いたかったなあ……。
はにゃ。もう朝ですかあ? あと五時間……むにゃむにゃ。すやぁ。
■とある修道女の懺悔
ああ、神様、神様!
魔王様を殺したのは、私なのです。
魔王を殺したといっても、私は勇者ではありません。
魔族の、ダークエルフです。
魔王軍の四天王として、人間をたくさん、たくさん殺してしまいました。
やがて勇者が現れ、私は敗北しました。
……敗北しながら生きながらえていたことを、魔王様は許しませんでした。
魔王様の名に泥を塗った罪で、処刑すると――
私も、ホワイト君のように、命を奪われてしまう――そう思いました。
逃げ出したくなりましたが、魔王様の力は絶対です。
地の底まで追いつめられてしまうでしょう。
処刑のことをフー君に話したときのことです。
彼は「大丈夫、絶対に助ける」と言ってくれました。
でも、まさか、まさかあんなことになるなんて。
処刑の日、魔王様の前に跪いたとき。
あのときのことは、忘れもしません。
魔王様の指先から放たれた光線が、まるで壁に当たったかのように跳ね返り、魔王様自身を貫いたのです。
魔王様はうめき声を上げて、血を吐き出し、そのまま動かなくなりました。
何が起こったのかはわかりません。
きっと、フー君が何かをしたのでしょう。してしまったのでしょう。
私は怖くなり、その場から逃げ出しました。
逃げて逃げて、人間の街に逃げ込みました。あれほど殺した、人間たちに紛れて暮らすことにしたのです。
魔王様が死んでしまったのは、私のせいです。私が殺したのです。
魔族は戦争に負けるでしょう。いっぱい、死人が出るでしょう。
人間も、魔族も、私のせいで……。
神よ、どうか。どうか私に裁きを与えてください。
どうか――