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雪子とバニラアイス

気分転換で書き始めた物です。のんびり書いて行こうと思います。挿絵は雪国さんが提供してくれました。

挿絵(By みてみん)


「神様!私を人間に生まれ変わらせて!」


 神様の家の扉を勢いよく開いた少女は思いっきり叫んだ。奥の部屋からはベットから落ちる音と「イタタタタ…」と声を出しながら老人が出てきた。


 「なんじゃ雪子か…朝からどうした」


 腰をさすりながらソファーに腰かけた老人が少女へ尋ねる。少女は老人の近くまで来ると昨日の出来事を話した。


 「聞いて神様!昨日116年振りに私の雪山に登山客が紛れ込んだの!その登山客が言ってたの」


 「無事に雪山を下山出来たら暖かいストーブの前でアイスを食べるんだ!って!」


 「なんじゃその死亡フラグは…」


 「フラグなんてどうでもいいのよ!肝心なのはアイスよ!」


 「アイスがどうかしたのか?」


 「私、アイスが食べたい!」


 「食べれば良いではないか?」


 「それが駄目なのよ…私妖怪でしょ?妖怪は食事という概念がないから味覚が存在しないのよ!」


 「まぁ確かに人間と違って妖怪は食事を必要とせんし、味覚もないのぉ…」


 「だからお願い神様!私を人間に転生させて!」


 「アイスが食べたくて妖怪やめるなんて初めて聞いたぞ?出来なくは無いが本当にいいのかい?」


 「覚悟は出来てるわ!そうそう、ちゃんと目的を忘れないように今の記憶を持った状態で人間に転生させてね!」


 「400年も雪女やってるお主がアイス食べるためだけに転生とは世の中わからんのぉ…」


 「私、思いついたら即行動しないと気が済まないのよ!」


 「人間に転生した後はどうするんじゃ?」


 「そんなのなってから考えるわ、早くアイスという食べ物が食べたいわ!」


 「ふむ…無計画か…仕方ない、わしの方で住む場所くらいは確保しておいてやるか。雪子とは長い付き合いだしな」


 「ありがと神様!ところでアイスってどんな食べ物なの?」


 「やれやれ、先が思いやられるわい…」


 こうして私はアイスを求めて人間に転生する事になった。


 ちなみに雪山で遭難した登山客は私が山のふもとの民家まで運んだから命に別状はないわ。きっと今頃ストーブと言う物の前でアイスを食べているに違いないわ。


 神様が奥の部屋に行って30分後、呼ばれた私は部屋の中へ入る。部屋の隅にはベットがあり中央の床には魔法陣のようなものがあった。


 「神様!神様!これが転生の魔法陣?」


 「うむ、それじゃあ転生の儀式を始めるぞ」


 神様が呪文のような言葉を言い始めると魔法陣が光り出す。徐々に光は強くなり魔法陣の中心に立っている私の体を包み込む。


 「うわっ眩しい…!」


 目を瞑って数秒、再び目を開けた時私は見知らぬ部屋に立っていた。


 「ここが神様が言っていた新しい家かしら?」


 一通り部屋を見て回る、キッチンに浴槽付きのお風呂と洗面所、トイレに和室と洋室が1部屋ずつあるみたいね。


 「思っていたよりも良い場所だわ!」


私が満足していると部屋の床に魔法陣が現れる。強い光を放ち徐々に光が消えていくとそこには神様が立っていた。


 「あら?神様もこっちに来たの?あの雪山を管理しなくていいの?」


 「雪子がちゃんとやっていけるか不安でな…こっちの町を管理してる神様と交換してもらったんじゃ、だから心配いらぬぞ」


 「随分ゆるい管理ね…そんな簡単に変わっても大丈夫なの?」


 「大丈夫じゃ!こっちを管理していた神様も交換の話をしたら「しばらく人里から離れて休養を取りたかったところだ…ありがとう…」と泣きながら喜ばれたぞ」


 「その神様に一体何があったの…?まぁ首突っ込んで巻き込まれるのも嫌だし神様が大丈夫って言うならこれ以上詮索はしないわ」


 「それにしてもここ良い場所ね、この建物って神様が作ったの?」


 「いや、月5万で借りただけだぞ?」


 「え…随分普通の方法なのね…もっと更地にドーン!っと力を使って建てたのかと思ったわ」


 「人の目が多い町でそんな事したら騒ぎになるじゃろ?穏便に済ませるにはこれが一番なのじゃよ」


 「そもそも神様ってお金あったの?そんなイメージ無いんだけど…」


 「うむ…それは問題ないぞ。わしら神様には神様通帳という物があってだな…管理してる土地の神社にある賽銭箱にお金が入ると自動で同額が貯まるシステムになってるのじゃ」


 「へぇ~そんな便利な機能があったのね。初めて聞いたわ」


 「当然じゃ、ついさっき作ったシステムじゃからな」


 「え…?」


 「人間社会に出る以上お金は必要じゃろ?だから急いでお金が貯まるシステムを作ったのじゃよ」


 「何でもありなのね…」


 「まぁいいわ!それじゃあ早速アイスと言う物を探しに行きましょう!」


 「待つのじゃ雪子よ!おぬしは転生して間もない状態、まずは変化を確認してみてはどうじゃ?」


 神様は懐から手鏡を取り出し私の方へ向けた。鏡に映った自分を見て気づく


 「あ…私の髪が白から黒になってる!どうして?」


 「それは雪子が人間になった証拠じゃよ」


 「でも瞳の色は前と同じ青いんだけど?」


 「うむ…それは雪子のわがままのせいじゃな。記憶を持ったまま転生したいと言うので記憶を残した結果、記憶と同時に幾つかの体質も引き継いだようじゃ」


 「この色結構好きだったから嬉しい誤算ね」


 「雪子よ、おぬしは人間に転生した事により味覚を得た。しかし、おぬしはどの味がどの味覚なのかまだわからん状態じゃ、まずは味覚の基本である五味を知ることから始めるといいぞ」


 「ゴミ?」


 「うむ 味覚には甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の基本味が存在する。ちなみに辛味は味覚ではなく痛覚に分類されるらしいぞ」


 「へぇ~よくわかんないけど、まずはどの味覚がどんな味なのか知ればいいのね?」


 「そのとおりじゃ…そこでわしが持ってきた5つの物を食べてもらうぞぃ。最初は角砂糖じゃ、これは甘味に分類されるぞぃ」


 一口サイズの四角い塊を口へ放り込む。最初は固かったけど口の中の熱で柔らかくなるとジャリジャリと音を立てて角砂糖を噛み砕いた。


 「これが甘味ね覚えたわ!」


 「よし次は塩味じゃ」


 小さなスプーンで袋の中の塩をすくうと私の手のひらの上に乗せた


 「さっきのと違ってサラサラしてるわね。とりあえず食べてみるわ」


 雪子は手のひらに載った塩を口の中に放り込む。するとさっきとは違う刺激が口の中に広がる。


 「なにこれ…口の中が変な感じ…」


 「それが塩味、まぁしょっぱいって味覚じゃのぉ…」


 「神様この水貰うね」


 雪子はテーブルの上にあった瓶を手にし一気に口に流し込んだ


 「あ!それは水じゃないぞ!!」


 「ブゥーーー!!」


 口に流し込んだ瞬間、あまりの刺激に口の中の液体を噴き出す。噴き出した液体は神様の顔面に直撃し神様は悶絶した。


 「目があぁぁぁー!!!」


 床を転げまわる神様を無視して私は流し台に走り蛇口から出る水を沢山飲んだ。


 「ハァハァ…酷い目にあったわ…」


 「わしもえらい目にあったわい…。ちなみにさっきのは酢と言って酸味に分類されるぞい。次は苦味じゃな…」


 「まだ続けるの?何だかトラウマになりそう…」


 神様が取り出したのは茶色い粉末だった。


 「これは焙煎したコーヒー豆を粉砕して粉状にしたものじゃ。さっきみたいにならないように一つまみだけ食べるんじゃぞ?」


 「その言い方だとその苦味ってのも酸味と同じく美味しくなさそうね…見た目も土にしか見えないし…」


 文句を言いつつも私はコーヒーの粉を口へ運んだ。予想通り口の中へ刺激が走る


 「香は良いのに味はきついのね…」


 「まぁどれも単品で食す事は珍しいからのぉ。どれも調味料としてほんの少し料理に入れるくらいしか使わんし、コーヒーに関してはこのまま使わずお湯を入れて飲むものじゃ」


 「正しい使い方で味覚を教わりたかったわ…」


 冷めた視線で神様を見ていると目線を合わせずに説明を続ける


 「最後に旨味じゃが…これは説明が難しくてのぉ…とりあえずこれを食べてみるのじゃ」


 「何これ?木の皮?」


 「これはスルメと言ってな、海に居るイカと言う生物を内蔵と目を取り除いて天日干ししたものじゃ」


 「すごく固いんだけど…これ本当に食べれるの?」


 「まぁ噛んでればわかるぞ、そろそろじゃな…」


 「ん?あれ…?段々柔らかくなってきたら味が出てきたわ!?」


 「うむ、スルメは噛めば噛むほど旨味が増す食べ物なのじゃ」


 「確かに…噛むほどに味が出てきてるわね…何本でも食べれそうだわ」


 「これで五味の味を知ったわけじゃが、また食べたい味を「美味い」もう食べたくない味を「不味い」と表現するのじゃ」


 「ねぇ神様?私が食べたいアイスって物はどんな味なの?」


 「そうじゃな…味は色々あるが「甘くて冷たい」と言ったところかのぉ」


 「そう…良かったわ、それなら食べれそうね」


挿絵(By みてみん)


 私は一安心した。しょっぱい味や苦い味、酸っぱい味だったら正直食べる気力が減っていたかもしれない


 「味覚も覚えたし、そろそろアイスが欲しいわ!どこに行けば手に入るの?」


 「人間達は「店」というところで物を売ってるんじゃ。そこで必要になるのが「お金」という物じゃ」


 「神様がさっき言ってたやつね?」


 「うむ、雪子は今所持金0じゃからな、わしのポケットマネーを分けてやろう」


 「この紙切れがあればアイスが手に入るのね?それじゃあさっそく店とやらに行きましょう!」


 「雪子一人では不安じゃからな、わしも同行しよう」


 神様がおもむろに頭の上にある輪っかを掴むと「ぽんっ!」と取り外して輪っかを懐にしまった。


 「それ取り外せるんだ…400年生きてて初めて知ったわ…」


 私は驚きつつ神様の後を付いて行った。玄関を出て初めて自分達が居たのが2階建てアパートだと気づく。左右には同じドアがいくつかある。私のドアには202と書かれたプレートが貼ってあった。


 階段を下りて道なりに進んでいると遠くから音が近づいてくるのがわかる良く見ると巨大なイノシシのようなものが道を走り去っていった。


 「か…神様!今でっかいイノシシみたいなのが通ったわ!」


 「あれは車と行って人間が移動する時に使う乗り物じゃよ。車は車道という場所を、歩く場合は歩道を使うのじゃ」


 「歩く場所が限られてるって不便ね」


 「じゃがその不便を守らないと命を落としかねないからのぉ面倒でもルールは守るんじゃぞ?」


 「わかったわ。せっかく生まれ変わったんだもん命は大事にしたいわ」


 交通ルールについて説明を受けながら近くのスーパーまでやってきた。先ほど見た車という乗り物が沢山並んでいた。


 「車って結構数があるのね、私が居た雪山には1つも居なかったのに」


 「おぬしの雪山は車では入っていけない雪道じゃからな…車なんて通らんじゃろう」


 店内に入ると沢山の人が手にカゴを持って商品を見て回っている。近くの山で見たことある山菜から見たことない海の生き物が店内に並んでいる。


 店内を歩いていると周りの人達が私達をチラチラ見ていることに気付いた。私は小声で神様に尋ねた。


 「ねぇ神様…なんか周りが私達の事見てない?」


 「よくぞ気付いたな雪子よ…実はな、わしらのこの服装は非常に目立つのじゃ」


 私は着物を、神様も袴を着ている。他の人達と明らかに服装が違う事に気付いた。


 「なんで出かける前に教えてくれなかったの?」


 人の視線なんてほとんど感じた事が無い私には周りの視線が気になって仕方ない。


 「そりゃあ今の服装の雪子が可愛いからのぉ。それにわしもこの服が気に入っておる。それに…」


 「わしらこれ以外の服持っておらんじゃろ?言うだけ無駄じゃ」


 「そうだった…私何も持たずにこっちに来たんだった…」


 神様の言葉に返す言葉がない…私は無計画すぎる自分の行動にほんのちょっとだけ反省した。


 「無い物は忘れましょう!今はアイスを手に入れる事が最優先よ!」


 そしてすぐに気持ちを切り替えいつもの自分へ戻った


 「ポジティブじゃな、それでこそ雪子じゃ」


 「あそこに居る店員に聞いてみたらどうじゃ?」


 神様が指さす先には一人の男子店員が居た。男の子は品出しをしているらしくお菓子コーナーの棚にお菓子を補充していた。


 「そこのあなた!」


 「は…はい!?」


 突然声を掛けられた男の子は驚きこちらに振り返る。私達の服装を見た彼も周りの人達同様に不思議な者を見る目でこちらを見ていた。


 「着物?今日って近くで何かお祭りでもありましたか?」

 

 「そんな事どうでもいいのよ!それよりアイスってどこにあるのかしら?」


 「えっと…アイスのコーナーは店に入って左の壁沿いに進めばありますよ」


 男の子が遠くの方を指さして教えてくれた。しかし雪子は男の子の手首を掴んで言う。


 「私、アイスがどんな物なのかわからないの案内して」


 手首を掴んだまま指さした方へ歩き始める。


 「ちょ…お客さん!ちゃんと案内するんで手放してもらえますか?」


 目立つ服装で男の子を引きずり歩く姿に周りの客の視線がさらに集まる。男の子は顔を赤くして抵抗するも雪子はその手を離さず目的の場所まで引っ張った。


 「ここがアイスコーナーね。でアイスはどれ?」


 「はぁ…はぁ…ここにある全部がアイスですよ…」


 「ここに…あるの全部が…アイス!?」


 箱に入っている物から袋に入っている物など様々な物がショーケースに入っている。外装には確かにアイスと言う文字が書かれている。


 「どれを選んでいいかわからないわね…一番のおすすめって何かしら?」


 「えーっと…この中だとハイパーカップのバニラが人気ですね」


 男の子が手に取ったのは手のひらサイズの紙のカップだった。私も同じカップを手に取ってみる。


 「あ!凄く冷たい!」


 「そりゃあアイスですから冷たいのは当たり前かと…」


 私の横で不思議そうに見つめる男の子にアイスを差し出す。


 「これを2つ頂くわ!」


 「えーっと、レジの方まで来てください」


 案内された場所には何人か人が立っていて手に持った機械で次々と商品を捌いていた。私は小声で神様に話しかける。


 「神様ここってどんな場所?」


 「ここは商品とお金を交換する場所じゃ。ここを通さず商品を持ち出すと捕まるので十分注意するんじゃぞ?」


 「ここで等価交換が行われるのね…」


 私は唾を飲みその様子を見守った。


 「108円が2点、合計216円になります」


 レジの店員がアイスを袋に詰めてくれた。後ろに居た神様が私に1枚の紙切れを渡してきた。


 「これで支払うのじゃ」


 渡された紙切れをレジの店員に渡した。こんな紙切れでアイスが買えるのか少し不安だ…


 「一万円からでよろしいですか?」


 「あ、はい!」


 意味もわからずとりあえず返事をした。するとレジから紙幣と硬貨を取り出した。


 「9784円のお返しです」


 「か…神様!大変…紙切れが増えたわ…しかも紙以外の物も付いてきたわ…」


 「とりあえず貰っとくんじゃ、お金については後で説明するから今はアイスとお金を受け取るのじゃ」


 言われた通りお釣りを受け取り店の出入り口へ向かう。さっきアイスを教えてくれた男の子が品出しを続けている。


 「さっきはありがとね!また色々聞くかもしれないけどその時はよろしくね」


 「えっと…どういたしまして…」


 私はすれ違い様にお礼を言い店を出た。


 「やったわ…ついに念願のアイスを手に入れたわ!」


 「はしゃぐのは良いが早く帰らないとアイスが溶けてしまうぞ」


 「そうね…ここで油断したら駄目ね…気を引き締めて帰るわよ!」


 そして何事もなく家へ着いた


 「さぁ家に着いたわ!早速アイスを食べましょう!」


 「そうしたいんじゃが…少し溶けとるのぉ…ここまで来るのに何度も手で触ってたのが原因じゃな。これは少し冷凍庫で凍らせないといかんな」


 「そ…そんな…不覚だったわ…アイスを守るために掴んでいたのが裏目に出るだなんて…」


 「守るどころかアイスにダメージを与えていたぞぃ。まぁ待ってる間にお金についての説明でもするかのぉ…先ほど貰ったお金を出してみぃ」


 私は言われた通り貰ったお金をテーブルの上に置いた。


 「紙やコインに書かれてる数字がそのお金の価値って事で良いのね?」


 「うむ、そうじゃこっちの紙には5千、こっちの紙には千と書かれている。こっちの千円が5枚でこっちの5千と書かれた紙1枚分の価値があるのじゃ」


 「最初に神様が渡した紙は?」


 「あれは一万円札と言ってな流通してるお金の中では一番高い紙幣じゃ。一万円があればさっき買ったアイスが90個くらい買えるぞ」


 「あの紙切れでアイスが90個も…!?」


 「ふっ…やるわね一万円…紙切れ一枚と侮っていたわ」


 「硬貨の説明も似たようなものじゃ。書かれてる数字がその硬貨の価値になるぞぃ」


 「へぇ~かなり細かい設定になってるのね」


 私がコインを眺めていると


 「そうじゃった!」


 突然の神様の大声に私は飛び跳ねた


 「いきなり大声出さないでよ!びっくりするじゃない!」


 「引っ越しと言えば隣人への挨拶を忘れておったわい。粗品を持って挨拶せねば!雪子もう一度スーパーへいくぞぃ!」


 「アイス食べたかったのに…でも挨拶は大事よね、これからお世話になるかもしれないし」


 こうして私達は先程訪れたスーパーへ足を運び麺つゆと素麺やうどんを買って戻って来た。挨拶用の品の他にも美味しそうな食材や料理本を買ってきた。お金はもちろん神様のお財布から出た。


 「2往復はさすがに疲れるわね…まぁいいわ!早速渡しに行きましょう」


 粗品を手に持ち玄関の前に出る。隣には203と書かれたドアがあるが空き部屋のようで電気メーターも動いていない。


 反対の方へ行くと201と書かれたドアがある。ドアの下には新聞紙が挟まっていて生活感が少しだけ感じられた。しかし呼び鈴を鳴らしてみたけど反応が無い…留守のようだ。


 仕方ないので買い物袋に粗品を入れてドアノブに引っ掛けておいた。中には手書きで「202に引っ越してきましたこれからよろしくお願いします」と書いた手紙を入れておいた。


 1階の102は大家さんの祖母が暮らしていた。素麺セットを渡したら笑顔で受け取ってくれた。凄く耳が遠いらしく耳元で話さないと聞こえないらしい。101には大家さんが住んでいた。明るくとても優しそうな人だった。


 一通りの挨拶が終わった頃には空はオレンジ色に変わっていた。私はキッチンで買ってきた料理本を読んでいた。


「この本によるとアイスはデザートというジャンルらしいわね。食事の最後に食べるのが一般的な流れね…ふむふむ」


本に書いてある通りに作ってみる。私が味覚をチェックする時に食べた物も調味料として使ってみた。どのページを見ても調味料単体で食べる料理は載ってなかった。


 「やっぱり単体で食べる物じゃないのね…」


 作り始めて数十分、部屋に良い匂いが漂う。匂いに釣られた神様が洋室から出てきた。


 「おお!良い匂いじゃのぉ、その料理は何じゃ?」


 「本に書いてた名前だと「肉じゃが」って言うらしいわ」


 テーブルに料理を並べながら神様の質問に答える。家に炊飯器が無いのでレンジで加熱するだけのパックを買ってきて温めた物をテーブルに出した。


 「雪女の時は感じなかったけど食欲って無視できないものなのね…凄くお腹が空いたわ」


 「わしは食べる必要は無いがせっかく雪子が作ってくれたんじゃ。食べてみるかのぉ」


 「それじゃあ、いただきます!」「いただくぞぃ」


 「我ながら良い出来ね!」


 「うむ…かなり美味しいと思うぞぃ」


 言葉とは裏腹に私の手が度々止まる。心配した神様が私の顔色を窺う。


 「どうしたんじゃ?お腹が空いたと言っていた割に箸が進んでおらんのぉ?」


 「ええ…本にはこう書いてたの…満腹になると何食べても美味しく感じないんですって」


 「私…初めて食べるアイスは絶対美味しく食べたいの!」


 「なるほど、満腹になるとアイスが美味しく食べれないから箸が進まんのじゃな」


 「ジュルリ…そうよ…」


 「よだれ垂らしながら料理を眺めるなら食べれば良いのにのぉ…今日の運動量から見ても食べても問題ないぞ?


 「モグモグ…そうなの?…モグモグ…」


 「もう食っとるのぉ…ちゃんと噛んで食べるんじゃぞ?」


 神様の忠告を素直に聞き良く噛んで料理を食べた。テーブルに出ていた食器を流し台で洗った後冷凍庫から例の物を取り出した。


 「フフ…フフフ…ついに…この時が来たわ!」


 「食後のデザートじゃな」


 「ええ…このために私は転生したのよ!」


 私は冷凍庫からハイパーカップを取り出しテーブルの上に置いた。


 「このひんやりした手触り…あの雪山を思い出すわ!」


 アイスの蓋を撫でながらその冷たさを体感する。


 「早く食べないとまた溶けるぞぃ」


 「わ、わかってるわよ!同じ過ちは繰り返さないわ!」


 アイスの蓋を外すと中にもう一枚蓋があり、それも外すと薄い黄色のアイスが出てきた


 「こ、これがバニラアイス!?」


 スプーンでアイスをくり抜き口元へスプーンを運ぶ、大きく開けた口の中へバニラアイスを放り込んだ。


 「ウッ…」


 一口食べた雪子はテーブルにうつむく。


 「なんじゃ?口に合わなかったか?」


 心配そうに顔を覗き込むそこにあった雪子の顔は「満面の笑み」だった


 「うまぁぁぁぁああああああいいぃぃぃ!」


 「なにこれ!口の中に広がる甘い香りと舌の上でとろける食感!!」


 「遭難した登山客が呟くのも納得の美味さだわ!こんな美味しい物を知らなかったなんて400年も生きてて知らなかったなんて人生損してたわ!」


挿絵(By みてみん)


 ハイテンションでアイスを食べる雪子を見た神様は胸を撫で下ろす。


 「そうか、転生して良かったのぉ」


 「ええ、全くだわ。全部神様のおかげね、私の事を心配して付いて来てくれて、色々アドバイスもしてくれて、神様が居なかったら私はアイスまでたどり着けなかったわ、ありがとう神様!」


 満面の笑顔でお礼を言われた神様も照れて顔が赤くなる。


 「まぁ…転生生活はまだ始まったばかりじゃ、しばらくはこっちに居るから困った時はわしを頼るが良い。出来る限り力になるぞぃ」


 「ええ!期待してるわ。主に金銭的に!」


 「なんじゃい…わしは財布扱いか…」


 「財布&保護者よ!これからもよろしくね神様!」


 こうして私の転生人生の幕が上がった…

 

見ていただき有難うございました。のんびり投稿ですが次回も良ければ見ていってください。

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