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お風呂でもおねんね

白い湯気と柑橘系の匂いが満ちた青銅国第三都市ハイルンのとある銭湯で、何故か怒鳴り声が響き渡っていた。


「あ あ あ あんた 男だったの!?」


声の主はSランクパーティー『ブリザード』の一員であるミーアからだった。短めにそろえた青色の髪が逆立ち、絶壁の所為で巻いていたタオルをストンと下に落ちる。抑えていた手を離しハルミの全裸をそれも足の間辺りを指差して固まった。


「ん~? 男だよ~?」


寝ぼけながら着ていたパジャマをぬぎぬぎして、ハルミは生まれた時の姿になる。服を着ていたら完全に女の子にしか見えない。黒色の長い髪が要所を自然に隠してさらにハルミの女の子っぽさを引き立てた。


「は は は 初耳だってーの! てゆーかっ とっとと向こう側に行きなさいってーの!」


ミーアは自分が無理矢理に女湯へ連行した所為で、咎めるにも咎められなかった。自分もスッポンポンであることを忘れて、ハルミ脱いだ服をハルミに持たせ、男湯へと背中を押していった。男湯の方から野太い声の悲鳴が聞こえてきた気がしたがミーアはそれどころではなかった。はじけるほど心臓がどきどきして収まらなかったのだ。


「ほんっとダメ猫のせいだってーの!」


不機嫌になりながらも、顔を赤くして脱衣所から湯船へと入っていった。


一方、ハルミはミーアに押されるがまま男風呂の脱衣所へと入る。


すると、先客の着替えていた男たちが急に女風呂側から入ってきたハルミをみて悲鳴を上げたのだった。黒髪が要所要所を隠しているせいで女の子にしか見えなかった上に、青銅国第三都市ハイルンで復興作業している中でハルミは、Sランクの『ブリザード』に新しく入ったメンバーと勘違いされていたり、『眠り姫』とかあだ名が付いていたりと、男たちの間では有名だったのだ。


そんなことはつゆ知らず、ハルミは男たちの悲鳴を無視して湯船へと入っていった。


湯船には柑橘系の果物がふんだんに浮かべられて、とても心地よい匂いが充満していた。ハルミは実に眠たくなる匂いだと思った。


「ゆずかな~?」


ハルミは桶を手に取って湯船を掬い、肩からお湯を流していく。もとから艶のある肌が、お湯によって更なる透明感を醸し出す。先客で使っていた男たちは、そんなハルミの妖艶な姿に見とれていた。


お湯で体を流したハルミは、体を洗い始める。近くの蛇口の前に座り備え付けの石鹸を擦ってタオルを泡立てる。


「あわあわ~」


なんとも力の抜ける声を出して、鼻歌を歌いながら、全身をくまなく洗い始めた。ハルミは一番最初に洗ったのは、左肩からだった。単純に右利きなだけで他意はない。


身体を洗い終えると、今度は頭髪をしっかり洗う。長い黒髪は束ねればいつでも簡易枕へと大変身するのだ。ハルミは髪を洗うことに関しては一切手を抜かない。何度も丁寧に手櫛で髪を洗い流す。


髪を洗い終えたハルミはタオルで髪を結う。水分を含んだ艶のある黒髪を後頭部で結ったそのハルミの姿は、華奢な体格と合わさり見る者を魅了する。浴槽のふちに立ち、すらりと伸びた脚の先で湯加減を確かめると、ハルミは万遍の笑みを浮かべた。


「よーし! ねるぞー!」


お風呂を楽しむのではなく、お風呂で寝るのが楽しみだったのだ。脚から腰、そして肩までゆっくり浸かると頭を浴槽のふちにのせてハルミは脱力した。


「おやすみー」


もう周りの男たちは暴走寸前で桶で下半身を隠したり、鼻字を噴出していたり・・・ 

ハルミは相変わらず周りを一切気にしないで、うとうとしはじめる。しばらくするとハルミの可愛らしい寝息が男風呂に静かに聞こえてきたのだった。



数時間ほど湯船で爆睡したハルミが目を覚ますと、湯船では無かった。冒険者ギルドでここ数日借りている寝室だった。


「ふぇ? お風呂は?」


「何も覚えてないのね?」


「第一声がそれってマジでぶっ殺すわよこのダメ猫!」


マイアとミーアがベットのよこで仁王立ちしていた。どうも話を聞くと、浴槽で眠り始めたハルミに近づいて悪戯しようとした馬鹿な男共が何故かボコボコにされて男湯が阿鼻叫喚の地獄絵図になっていたという。そんな状況下でもハルミは一切目を覚まさずに浴槽での睡眠を堪能していたのだ。


「あれだけ私たちがいないところで寝てはダメだと言っているのに、どうして聞いてくれないのかしら? まああなたが男の子だったって知らなかった私達も悪いところはあるけれど、自重してくれないかしらね。 あなたのその睡眠スキルは本当に危険なのよ? いくら緩和するスキルも手に入れたからって危険には変わりないの。わかってる?」


マイアの説教が続くが、ハルミはあのヘカトンケイルとの戦いの後に【睡眠学習】を緩和するスキル【白昼夢】を習得していたのだ。能力としては【睡眠学習】の無差別破壊である【夢喰】の排除対象を殺すか半殺しにするか設定できるようになったのだ。排除対象が完全な悪意を持つものには死を、軽い眠りの妨げならば半殺しにしてスキルを簒奪する、知人など親切心を持つ者には【夢喰】を発動しないように出来るようになったのである。


「はーい 分かったからもうねさせてよー」


「今起きたばっかなのに!? またねようとするなってーの!」


ハイルンの復興も先が見えてきたことから、ハルミはブリザードのパーティーに連行されるように様々のクエストを受けさせられていた。二重人格のイロリの指示でハルミを野放しにしたら大変なことになってしまうので、管理するためにもハルミのギルドランクを上げて自分たちのパーティーに入れるためだった。

如何せんマイペースの権化であるハルミの管理には苦労が絶えない。現在イロリが居ないのもハルミの所為だったりする。受けたクエスト先でハルミが地形を変えてしまったのだ。その後始末にイロリは各所に頭を下げに行っているのだ。


「今日は、これから三つほどクエスト受けてもらうわよ? 起きなさい。 リリ殿下の護衛の指名依頼よ、拒否権は無いわ。さあ準備しなさい」


「いー やー だー」


ベットで駄々をこねるハルミをマイアは、親猫が子猫を咥えて移動させるように襟足部分を掴んで持ち上げる。この姿にもう見慣れたミーアはため息をついて準備を始めた。













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― 新着の感想 ―
[気になる点] ミーアたちがハルミの睡眠を邪魔してると思うんですが、怒ってないのが気になりました。
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