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第二章 プロローグ 

とある男は突然やってきた不幸に人生を狂わされていた。長年付き添っていてくれた妻も、愛情を注いで育てた息子も娘も、男の前からいなくなってしまった。殺人というレッテルが男の家族にまでも害をもたらしたのだ。

外とは根絶された孤独な檻の中で、男は精神を削られていった。


「どうして俺がこんなめに合わなければいけないんだっ! あの日は普通に過ごしていただけだってのによ! くそっ!」


刈り上げられた頭をガリガリと爪で擦り、額には血が滴っていた。


「全部、あいつの所為だ! 俺は何も悪くねぇんだよ!」


檻の隅に蹲り男は何度も何度も、アイツを思い出しては憎しみを闇へとぶつけていた。


次第に男の表情は般若のように憎悪で満ちていく。 


優しそうな垂れた目や眉は吊り上り、眉間にはいくつもの皺がよっていた。涙が枯れきってしまった瞳は、充血し人とは思えないものへと変わっていた。力任せに歯ぎしりをした末に、歯はボロボロとなり、唇は横に大きく裂けてしまった。


獄中で此処まで人相が豹変するとは監視していた者が、恐怖するほどだった。









ある、真夜中の出来事だった。男はいつものように憎しみで眠れずにいた。


『貴様はそんなにも復讐がしたいのか?』


何処からともなく、声が聞こえてきた。寒気がするほどの嫌になる声だった。だが、男はその声に応えていた。復讐という言葉に魅かれたののかもしれない。


「許せない。だが、アイツはもう死んだ。復讐ができないんだ!」


『死んだ相手をそれほどまでに憎むか?』


「ああそうだ! もう一度アイツをこの手で殺したい!」


『ほう? それは面白いな。 一度殺しているのに、まだ憎いのか?』


「まだ憎い? 当然だろうが! アイツを殺した所為で俺の人生が狂ったんだ! 出来る事ならアイツをよみがえらせてでも、もう一度この手で殺してやりてーんだよ!」


『かかか 貴様は合格だ』


闇より聞こえていた声がカラカラと笑う。男はその笑い声がどこか、自分とつながる何かを感じ取った。


「……何もんだてめえ」


『貴様の憎悪によって目覚めた。と言えばいいか? そんなことなどどうでもよい。 それよりもだ。 貴様は知っているか? 貴様のいうアイツは、地球とは違う異世界でノウノウと至福を満喫しているってことを』


「なんだと!?」


突拍子もなく本当かどうかも分からない眉唾な話だったが、男の気を引くには十分な内容だった。ギリギリと歯ぎしりをして顔が醜悪に歪む。


『ここで提案だ。 貴様はこの世界で死を迎えてでも、この世界の全てを捨ててでも、アイツに復讐がしたいか?』


「当然だ! アイツをこの手で地獄に叩き落してやる! 出来るのか? 俺をアイツのいる異世界に行けるってのか?」


『出来るぞ。 だがな……』


闇から聞こえるが、言い淀んだ。


「なんだ! 早くいえ!」


『今の貴様をアイツの元に送り届けたとしても、返り討ちにあって終わるだけだ』


男は言い返すにも言葉が出なく、ギリギリと歯ぎしりをする。


『だがそれを可能にする方法はあるがな。かかか、人をやめることだ』


「人をやめる?」


『これを貴様にやろう。それで魂を喰らえ』


そう言うと闇からの声は二度と聞こえなくなった。そして檻の隅の闇から、一振りの刀がキラリと光った。漆黒の鞘に収まった禍禍しい刀だった。男は迷わずにその刀を手に取った。


「刀?」


漆黒の鞘から刀の刀身を引き抜いて男は、渡された理由を理解した。己の憎悪と刀が要求するものがシンクロした瞬間だった――


「そうか…… 魂を喰らうか…… くくく あははは あははは」












翌日、地球では大事件が取り上げられた。高校生をトラックでひき殺した運転手が、刑務所で惨殺事件を起こす。そして男は最後に惨殺に使った刃物で自害したと言うニュースだった。












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