動き出す恐怖 ⑦
大きな顔の半分を黒い何かに飲み込まれた多面百手巨人はまだ生きていた。全身の半分を失っても、紫色の酸の血をまき散らしながら奇声をあげていた。だがその奇声は怨念の集まった化物のものでは無く、春眠に恐怖を覚えているかのようだった。
イロリが呆けていると、春眠から再びアナウンスが流れてくる。ただれがいつもと少し違うことなど、初めて聞いたイロリには判断できなかった。
『安眠妨害因子の排除未完了。 スキル【夢喰】を一時停止します』
『ハルミ・マクラは、多面百手巨人、レイ・アクネラの討伐に失敗しました』
『ハルミ・マクラはレベルアップしました ハルミ・マクラはレベルアップしました ハルミ・マクラはレベルアップしました ハルミ・マクラはレベルアップしました ハルミ・マクラはレベルアップしました ハルミ・マクラはレベルアップしました ハルミ・マクラはレベルアップしました ハルミ・マクラはレベルアップしました ハルミ・マクラはレベルアップしました ハルミ・マクラはレベルアップしました』
『ハルミ・マクラは、スキル【夢喰】により、スキル【呪術】【死術】【猛毒体液】【怨念吸収】【不死身】【無限再生】【闇属性魔獣魔法】【封印術】【舞術】【邪法】【影支配】【亜空間魔法】【眷属化】を転写しました』
『スキル【夢喰】の許容レベルの上限の拡張を推奨します』
『スキル【夢喰】を再構築します。再起動までカウント30秒』
『【睡眠学習】施行中および【夢喰】を再構築中の、ダメージは全て無効になります』
「この妾に死を覚悟させるなんて、数百年ぶりよ……」
死神の声が続く中で、なんとイロリの影からレイ・アラクネが美女が這い出るように姿を現したのだった。
鴉のアワタールで有るだけあったのかレイは春眠の黒い何かに飲み込まれる寸前に、イロリの影へとスキル【影支配】を使って何とか潜り込むことで絶対の死を免れていたのだ。だが、レイの右肩から先が無くなっていた。綺麗な金髪も妖艶な踊り子の衣装も乱れている。呼吸は荒く、このまま戦いを続けるのは誰が見ても不可能だと一目瞭然だった。
「知った者の死、知られたものの死は我々アワタールの掟よ 覚えておきなさい眠り猫 妾は必ず貴女を殺しに行くわ…… 童の元勇者ちゃんもやられちゃったみたいね、生き返らせるのが面倒だわ」
寝ている春眠を睨みそう言い残すと、【夢喰】のカウントが終わる前に影に潜って姿を消したのだった。
影に消え去ったレイの残した言葉に驚くイロリ。だがそんなことで気をとられていては死んでしまうとヘカトンケイルを睨み見る。
そしてカウントが十をきる直前に、動き出したのは多面百手巨人だった。いつの間にか失ったはずの半身を再生させていた。頭に生えた大量の手で春眠に攻撃してきたのだ。多面百手巨人はどこか投げやりに見える。
『おおおおおおおおおお』
「残りはたった数秒でありんす! わっちもなにかするでありんす 旋風結界!」
百を超える多面百手巨人巨腕は、イロリの魔法によって阻まれた。右手を伸ばして垂れるようにもった鉄扇を開くと、イロリと春眠を守るように風の結界が発動した。まるで竜巻の中心にいるようで、イロリと春眠には何の影響もないが、迫りくる多面百手巨人の腕は全て強風によって弾かれた。
「さすがに質量があり過ぎでありんす」
巨腕一本一本はかるくイロリの捻り潰せるほどの大きさで、イロリはたった数秒旋風結界を発動して攻撃を阻止するだけで精一杯だった。
だがその踏ん張りはこの戦いで一番の功労者と言っていいだろう。、【夢喰】のカウントが0を伝えた。
『カウント0 スキル【夢喰】を再構築しました。再起動します』
先ほど春眠から立ち上った時とは比べ物にならないほどの黒い何かが蛇のように蠢いてその闇を拡大させていく。太陽の光を遮るように空を覆った。
『おおおおおおおおおおおおお』
多面百手巨人の視界は一瞬のうちに黒い何かで埋め尽くされた。そして怨念の集合体は、封印を打ち破ってこの大地に姿を現した事を後悔するまもなく消え去ったのだった。
イロリは二度目は呆けずにしっかりとその目で春眠の【夢喰】を目に焼き刻んだ。一切の感情すら許さず敵と認定した物を消滅させるその力にイロリは、驚愕を通りこそしていた。
「ほんになんなんでありんしょう? この魔王すら飲み込む春眠の力は……」
『安眠妨害因子の排除完了 スキル【夢喰】を停止します』
『ハルミ・マクラは、多面百手巨人の討伐に成功しました』
『ハルミ・マクラはレベルアップしました ハルミ・マクラはレベルアップしました ハルミ・マクラはレベルアップしました ハルミ・マクラはレベルアップしました ハルミ・マクラはレベルアップしました …………』
『ハルミ・マクラは、称号【魔王喰らい】【北の大地の覇者】【眠りの魔王】を得ました。ステータスに補正が付きます』
『ハルミ・マクラは、スキル【夢喰】により、スキル【魔王ノ威圧】【生命吸収】【生命創生】の簒奪に成功しました』
『ハルミ・マクラは、スキル【白昼夢】の習得しました』
死神の囁きはここで止まると、イロリは完全に脱力して傍で寝ている春眠に寄り添うように横になった。服が汚れるとかもう気にしないで、すやすや寝息を立てる春眠を抱き枕にして寝てしまった。
「「すーすー」」
荒れ地と化した街の北側には、二人可愛らしい寝息が静かに聞こえていた。
やっとヘカさん死亡w 美女レイさんはしぶといっすw そしてハルミがちょーパワーアップ! イエイ! 白昼夢は後程発動するので、乞うご期待w