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動き出す恐怖 ⑤

多面百手巨人(ヘカトンケイル)が地面を引き裂いて山のようなその本体を現したその同時刻、ギン、マイア、ミーア、冒険者たちはピンチに陥っていた。





騎士団の後を追って街を出てしばらくすると、すぐに騎士団を発見することができた。しかし、それは全滅しているという最悪の形であった。


「何がどうなってんだ! ……ベルンフリートの野郎なにやってんだ!」


「何かに襲われたのが妥当でしょうね。でも騎士の鎧を貫通するようなモンスター聞いたことないわ」


「ひっどっ 即死してるじゃん」


ギン、マイア、ミーアは千人もの騎士の軍レベルがものの見事に全員即死させられている状況に不安がっていたが、現金な冒険者たちはそれぞれ死んだ騎士から金目になるモノはすべて回収している。


「いいんじゃねーの? 勝手にしんでくれてりゃーよ 俺たちは楽でよ」


「ラッキーラッキー こいつ等こんないい武器もってやがったぜ。猫に小判だっつーの」


「俺らが使ってやった方が、武器たちも嬉しいってよ。 ぎゃははは!」


さらに捜索は続け、ギンが王族専用の馬車を見つける。ちかくにベルンフリートらしき死体が目に入ったが、ギンはそれを踏み越えて馬車に駆け寄った。


「無事かリリ!」


「とまって!」


警戒を解かなかったマイアに止められなかったらギンは死んでいたかもしれない。後ろを振り返って止まったギンの一歩先で巨大な黄金色の大剣が地面に突き刺さったのだった。


「——っ!?」


すぐさまギンは剣を構えて後ずさると、そこには見たことも無いような黄金に煌めく全身甲冑の大柄の騎士が、自分の身長の数倍はある黄金の大剣の柄を片手で握っていたのだった。


そして、もう片方の手で青銅国第三王女リリアーデを抱えていた。


「黄金の甲冑に、背丈を軽く超える黄金の大剣…… どうして白金国の勇者がこんなところにいるのかしら?」


マイアはその正体を知っていた。【城壁斬り】の異名を持つ数年前に滅んだ白金国の勇者だったのだ。だが、白金国が滅んだ以上、勇者ではなく元勇者ということになっている。白金国と共にその命を潰えたと思われていた元勇者がなぜこんなところにいるのか。そして、リリアーデをどうするつもりなのか。


勇者はギンへ振り下ろした黄金の大剣を軽々と持ち上げると、その切っ先をマイアへと向ける。


「レイの命令だ。一つだけ言っておくが、騎士共を殺したのは俺ではない」


「そんなのみたらわかるってーの! どう見てもアンタの大剣じゃないってことぐらい」


ミーアが魔本を取り出しながら元勇者に無い胸を強調する。マイアはレイという人物に心当たりがないか記憶を探っていたが、聞いたことも無い名前だった。なぜならレイというのは、多面百手巨人(ヘカトンケイル)と闘っている鴉のアワタールの呼び名だったからだ。名を知れば死を意味するが、元勇者はそこまで賢くなかったのか、口を滑らしただけだった。


「この場から立ち去れ。この姫に何人たりとも近づけるなと言われている。死にたくなかったら失せろ」


「それは出来ない相談だな元勇者! お前こそリリを置いてどこかに行けばいいんじゃないかっ」


ギンは元勇者に走り寄って剣を黄金甲冑の隙間に突き刺すように加速したが、金属がぶつかる音がしたかと思うと、ギンの剣がぽっきりと折れてしまった。


「この甲冑を斬りたければ、ミスリル製の武器でも持ってくるんだったな、小僧」


「なに!? ぐわぁあ」


黄金の甲冑を纏った元勇者の膝が、ギンの腹にクリーンヒットした。放物線を描いてふっとんだギンは、痛みを堪えて着地すると口から血を吐いた。それほどまでに強烈な一撃だったのだ。


それを見た冒険者たちはしり込みする、実力で言えばいけすかないがギンがこの街で一番強い。そのギンが相手にもならない元勇者の強さに畏怖したのだ。


だがマイアとミーアは動じていなかった。


「さすがは元勇者ですね。 隙が多すぎる大剣をカバーする防御力、ハッキリ言えば逃げ出したいところですけど……」


「こちとら生憎Sランクなのよ! この程度の力の差なら何度も越えてきたってーの!」


今度はマイアが駆けだした。ロングソードを両手に急加速する。


「フォローおねがい!」


「任せて!」


ミーアは魔本をペラペラと捲り、早口で詠唱をする。魔本から赤く輝く光のオーラが飛び出して、走り出したマイアに吸い込まれた。するとマイアのロングソードが熱を持ったように赤くなった。

ミーアが使ったのは【付加魔法】でも最も攻撃上昇のレベルが高い技【狂戦士ノ一撃】と呼ばれるものだった。付加された対象は、立った一撃だけどんな硬いモノでも打ち砕く破壊力を手にすることができる。


「はあ!」


「遅い攻撃だ。本当にSランクなのか?」


元勇者は自分の身体の数倍はある黄金の大剣を片手で軽々と持ちあげると、その大剣をマイアの横薙ぎに合わせるように一閃した。


響きあう金属音。力は拮抗したように見えたが、マイアのロングソードに罅がが入る。さらに黄金の巨大な大剣が振られたことによって生じた爆風がマイアを襲う。


「くっ」


「うそでしょ! 【狂戦士ノ一撃】で強化したマイアが力負けするなんてありえないってーの!」


ミーアはすぐに新しい【付加魔法】をマイアへと重ね掛けにする。赤、青、黄、緑、様々な色のオーラが魔本からマイアへとかかっていく。【狂戦士ノ一撃】【魔剣士ノ飛撃】【聖騎士ノ絶技】【戦竜人ノ天賦】どれも付加魔法における最高の技である。


「ありがとミーア」


「俺にもたのむ!」


「ちょっとアンタ…… もう! 死んでも知らないから!」


マイアが元勇者に再び駈け出したのと同時に、ギンも飛び出した。手には殺された騎士の剣を握っている。口から吐血した血を拭い、決死の覚悟で元勇者に攻撃を仕掛けたのだ。


「俺たちも続けぇえええ!」


「「「おおおおおおおお」」」


それまでしり込みしていた冒険者たちが、ギンの雄姿に負けられないと意気込んで各々が元勇者を囲むように攻撃に転じたのだった。


「その覚悟が我が国にもあれば、滅びなかったかもしれんな…… 手を抜いては失礼に値しよう、本気を出そうではないか」


脇に抱えていたリリアーデを無造作に地面に落とすと、元勇者は自分の身の丈の数倍はある黄金の大剣を両手で握りしめた。空に突き刺すように高々と持ち上げると、本気の一撃を繰り出そうとする。【城壁斬り】と呼ばれるようになった、最強の一撃だ。どんなものであっても真っ二つにしてしまう、剛剣。


空を斬り、視界に写る物を切り払うように振り下ろされた黄金の大剣は、方向を変えて元勇者を駒の中心にした。回転斬りで攻撃に転じた、マイアやギン達を一網打尽にしようとしたその時だった。


『おおおおおおおおおお』


回転の軸となった元勇者は大地を踏みしめなければ、その剛剣を生み出すことはできない。振り回しマイア達を捕えるその刹那、第三都市ハイルンの北の防衛線で復活を遂げた多面百手巨人(ヘカトンケイル)が、本体を地上に現したときの衝撃が、地震となって元勇者の踏み絞めている地面揺らしたのだ。


軸が揺らされた元勇者の黄金の大剣の一撃は大きくそれてしまった。マイアやギンの頭上を大きく空振りする。


「神は俺を恨んでいたのだろうか」


それが裏切り続けられた悲惨な勇者の最後の言葉だった。マイアのロングソードが黄金の甲冑を砕き、ギンや冒険者たちの武器が、元勇者の身体を貫いたのだった。



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