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動き出す恐怖 ④

大地を裂き地響きを立てて現れたのは、巨大な大量の手だった。灰が一面を覆った森の底から、新たな木々が咲き乱れるように肌色の巨腕が現れた。


「あらあら? 命拾いしたわね子猫ちゃん」


既に寝ている春眠への興味は失せたのか、銀髪の美女は自分の影から取り出した一振りのダガーを手にしていた。


「柔らかそうですし、コレで十分かしら?」


そして、イロリにはとらえきれないほどの速さ……それは突然出てきたりいなくなったりするほどだ。美女はいつの間にか、地面から突き上げた巨大な手の一本を切り落としたのだった。切り落とされた腕は紫色の鮮血をまき散らす。しかし、切り落とされた腕はすぐに再生した。断面の肉が蠢いたかと思うとほんの一瞬で巨腕が元に戻ってしまった。しかも美女の持っていたダガーがブスブスと溶解していた。


「あらあら? これでも伝説級の武器だったのになぁ」


「わっちも戦うでありんす」


イロリも参戦しようとして、膝の上で寝ている春眠を優しく退ける。武器の鉄扇を開いて魔法を使おうとしたが、戦闘に集中していると思われた美女から脅しが入る。


「貴女、邪魔したら消しちゃうわよ?」


「——っ!?」


イロリがそれでも手を出そうとした瞬間、大量の巨腕が動き出した。美女に切られたことなど気にもしない様に、歪に蠢いたのだ。そして巨腕の手の平一つ一つに怨という字をそのものに表現したようなモンスターや人間の顔が浮かび上がり、うめき声を立て始めたのだった。


『おおおおおおおおおおおお』


「あらあら? 多面百手巨人(ヘカトンケイル)もやっと本気になったのかしら」


美女の呟きにイロリが過剰に反応する。


多面百手巨人(ヘカトンケイル)!」



物語の話だと思っていた北の魔王と呼ばれる化け物が、今復活を遂げたこと。イロリは信じられなかったが、本当の事だとも理解できた。美女のレベルは分からないが、Sランクぼイロリが勝てる気のしない相手。さらに、そんな美女の攻撃をものともしない巨腕。

ただイロリはどこかで安堵している。美女と多面百手巨人(ヘカトンケイル)と闘って消耗してくれれば、多面百手巨人(ヘカトンケイル)をイロリ自身の手で倒すことができるかもしれない。そして、何よりは……春眠の存在だった。寝ている春眠から感じたものは、美女よりも多面百手巨人(ヘカトンケイル)よりも恐ろしかったからだ。無理に起こそうとしなかったのも、その春眠の何かを恐れたからだ。イロリは、とにかく戦いを見守った。今の状況で手を出せるものでは無かったのだ。


美女と多面百手巨人(ヘカトンケイル)の攻防が始まった。


巨腕のモンスターや人の顔が一斉に美女へと向けられたのだ。大量の巨腕が美女へと襲い掛かる。腕そのものが美女を押しつぶそうとしたり、手の平のモンスターの口からブレスを発射した。


しかし、美女は踊るように多面百手巨人(ヘカトンケイル)の攻撃を躱し続ける。空中をも舞うその姿はまさしく踊り子のようだった。しかも攻撃を回避しながら影から取り出した武器で巨腕を切りつける。


多面百手巨人(ヘカトンケイル)を切りつけた武器は一度使うと溶けてしまい武器として使い物にならなくなってしまった。美女はそんなことを全く気にする様子も無く、影から次々に武器を取り出していた。


「これじゃあキリがないわね」


切った途端に再生する多面百手巨人(ヘカトンケイル)の巨腕に効く有効打を躱しながら模索していた。地面から木のように生えている多面百手巨人(ヘカトンケイル)の本体はきっと地下にあるのだと思い。地面を砕くことのできる武器を影から取り出した。大きめのハンマーを攻撃を躱しながら地面にフルスイングした。


ハンマーが地面に衝突すると轟音を立てて地面が砕き割れて陥没する。


すると、大量の巨腕が攻撃の手を止めてその場にのた打ち回るようにうねうねし始めた。


「弱点見っけ」


美女はそれを見逃さずに何度もハンマーを地面にたたき下ろす。何度か打ち付けると、今度は多面百手巨人(ヘカトンケイル)が反撃にでた。地面に本体を置いていても美女に攻撃を喰らうなら、地上に出して攻勢に出た方がいいと考えたのだろう。先ほどの巨腕が現れた時とは比べ物にならないほどの、振動が地面の奥深くから伝わってきたかと思うと、本体が一気にその姿を現した。


「あらあら? これはちょっと気持ち悪いわね」


それは過去に多面百手巨人(ヘカトンケイル)を封印した勇者の顔だった。日本人の高くない鼻に黒目が良く分かる。しかしそのサイズは山をも越える大きさで、髪の毛の代わりに巨腕が大量に生えていたのだ。過去の勇者が多面百手巨人(ヘカトンケイル)を封印した方法が、己を人柱として封印したことによって、復活した多面百手巨人(ヘカトンケイル)はこんな異形な姿形となってしまった。


『ころすころすころすころすころす』


「大した怨念の塊ね」


再開した鴉のアワタールの美女と、北の魔王・多面百手巨人(ヘカトンケイル)の闘いは――始まることは無かった。ハンマーが地面を叩く衝撃に加え、多面百手巨人(ヘカトンケイル)が本体を出現させるのに起こした地響きが、イロリと、そして春眠のところまで伝わってきてしまった(・・・・)からだ。



安眠妨害因子(スリープレス)を確認。排除のため、スキル【夢喰(ナイトメアイーター)】を発動します』





MJ復活!!! これから頑張るぞー 


と意気込んだのはつかの間・・・今度は土日に学習塾主宰のテストが・・・


もういや・・・

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