動き出す恐怖 ③
「俺はリリを探しに行きます」
ギルドマスターのマインツを探している暇なんてないと言わんばかりの勢いでギンが飛び出して行ってしまった。マイア達がギルドでリリアーデと騎士団がいないと言うことを伝えると、ギンだけでなく聞き耳を立てていた冒険者たちも立ち上がった。
「まてよギン! お前はいけすかねーやつだけど、騎士団はもっといけすかねーからよ……手伝ってやる!」
「いいねぇ! モンスター共とあんまり戦えなくって力が有り余ってたんだよ! あのクソ騎士どもぶん殴れるんだったら協力してやるぜ!」
「……お前ら」
冒険者たちは七光りであるギンを嫌ってはいたが、それよりも騎士団が大嫌いだった。何かと上から目線で冒険者をバカにしてくるのが許せなかったのだろう。
「血気盛んになるのは良いけれど、騎士団を相手に戦うってどういうことか分かってるんですか?」
「ばっかじゃないの? 国に喧嘩売るってことだてーの!」
マイアとミーアは冷静だった。というよりも過去に騎士団と何かいざこざでもあった。それでマイアもミーアも慎重になっているだけだった。しかし、暴走気味の冒険者たちを止めることはできなかった。マイア自身も止めようと思って発した言葉ではない。
「そんなこと分かってます。 でも、俺はリリを助けたい。リリは絶対この街を見捨てるようなことはしない! 第一都市から此処に飛ばされたころからずっとリリはこの街を豊かにするために頑張ってたんだ。たとえリリを助けることが国に喧嘩を売ることになったとしても、俺は……」
最後まで言おうとしたところで冒険者たちが雄たけびをあげた。
「「うぉおおおおお!」」
そのうちの一人がギンにニヤニヤした顔で歩み寄って肩に手を置く。
「ノロけなんて聞いてたら戦意がとんじまうだろーが」
「え!? そんなつもりはっ」
「そうなんだー ギンさんは殿下が意中の人なんですね。 ハルミちゃんじゃなかったんだ」とマイアがニヨニヨする。実はマイアは恋愛話とかが大好物だったりする。
「そんなことよりさ。時間無いんじゃないの?」
呆れたミーアの一言で、慌てて冒険者たちが動き出した。マイアとミーアもギン達に同行することにした。
それぞれの馬や騎獣に跨って騎士団の後を追いかける。冒険者の中には斥候を得意とするものも多く、道路に残った騎士団たちの馬車の跡を見つけ、全速で追いかけるのだった。
一方、一面が灰の景色となった北の防衛線では――
スキル【二重人格】持ちのイロリが、すやすやと眠る春眠を膝枕して寝かせていた。イロリは自分と同じ、艶のある長い春眠の黒髪を手櫛で撫でていた。ただしイロリの鋭い視線は常に、春眠の雷撃によって灰を被った森を見つめていた。
「……そろそろでありんす」
Sランクの【冷徹姫】と呼ばれるイロリは、北の森の地下から微かに感じる恐怖の塊の胎動に気が付いていた。自分か、もしくは、今眠りこけている春眠から感じるなにかでなければ太刀打ちできないだろうと思い。マイア達をこの場から離れさせたのだ。
「いったい何が潜んでいるんでありんしょうか? 倒せるならわっちが倒してしまえばいいんでありんす」
「あらあら? 貴女じゃ無理だと思うわよ」
気配の察知を張り巡らせていたイロリの真後ろに、急に反応があった。ありえない反応の仕方にイロリが、驚いて後ろを振り向くと、踊り子衣装を着た銀髪の美女が立っていた。ただその美女から感じるのは嫌な気配で、イロリは懐から鉄扇を取り出して臨戦態勢を取る。
「何者でありんすか?」
「それを知っちゃうと貴女はこの世にいられなくなっちゃうわよ? いいのかしら?」
「……」
冗談ではないと言うことはイロリは、美女の目と声色から嫌というほどわかった。そしてイロリは自分では絶対に戦っても敵わないことも肌で感じた。
「お利口さんはきらいじゃないわ。妾の前で許される行動は沈黙が正解よ」
「すー すー」とやはり寝ていても空気を読めない春眠に、イロリは無言のまま額から汗を流す。無理に春眠を起こすのは嫌な予感がしてならない。
「あらあら? 妾の前で惰眠をむさぼるなんていい度胸ね」
美女の注目が春眠へと向けられた時だった――
とうとう地下深くで怨念を溜め込んでいた多面百手巨人が大地を引き裂いて姿を現した。
補習を終えて久々に参上!!! 流石に5つも補習を受けると今日までかかってしまいました(>_<) でも5つ赤点とってお友達のなかで最速で終わらしてきました! ほめて!!!
短めになってしまってごめんなさい。




