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動き出す恐怖 ②

ギルド長であり、風のアワタールであるマインツは、騎士団を虐殺し終えた場から離れたところで街の様子を、蜘蛛のモンスターの背に乗り傍観していた。リリアーデは馬車の中に寝かせたままに放置してきた。近くにモンスターがいないことは分かっているし、野盗も半年前のリザードマンの時以来この周囲には姿を現さない。

マインツはリリアーデを迎えに来るのが孫のギンであれば僥倖だとジジイの甘いところを見せたのと反面に、現在は得体のしれない何かが北の魔境より目が覚めたことを、街から離れたこの地で感じ取っていた。


「まさか…… 伝説は本当じゃったとは」


アワタールであるマインツですら予想だにしなかった事態だった。過去の勇者と多面百手巨人(ヘカトンケイル)の英雄伝は聞いたことがあるくらいだった。


「バハムートが居なくなったのは、そういうことじゃったか」


【闇ノ大森林】の主であるバハムートが、多面百手巨人(ヘカトンケイル)の怨念に飲まれて消え去ったと考察したが、マインツは大きな誤解をしていた。実際には、すべて春眠が引き起こした災厄でしかない。


「あの娘っこのパーティーじゃ、ちと厳しいじゃろうな。儂が出張るようなことは避けたいのじゃが……」


孫のギンにすら自信のアワタールという別の顔を隠している。ギンだけではないマインツは風のアワタールとなってその時から、誰にも教えていない。知られれば己の死もしくは知った者の死が盟約されている。もしも多面百手巨人(ヘカトンケイル)を【ブリザード】および街の冒険者では対処できずに、マインツが多面百手巨人(ヘカトンケイル)と闘うようなことがあれば、それこそハイルンの街だけでは無く、下手をしたら青銅国そのものを滅ぼさなくてはならないかもしれないのだ。


「たのむぞ……」


マインツはギリギリになるまで傍観することを心に決めていた。そして、もしも自分が出張った場合は、知った者の死ではなく、己の死を覚悟するのだった。


「あらあら? 古株の貴方ですら、心が揺らぐことがあるのね。 驚いたわ」


「何のようじゃ、鴉 此処はお前の管轄じゃないじゃろう」


蜘蛛型モンスターの影から這い出るように、一人の女が姿を現した。踊り子の衣装を身にまとった艶めかしい銀髪の美女だった。マインツと同じ世界の確変と均衡を齎す十の災厄のアワタールの一人。鴉のアワタールである。


「つれないわねお爺さん。 せっかく大きな怨念の塊を感じたから食べに来てあげたのに」


「余計なお世話じゃ 去れ!」


マインツは拒絶するのには理由があった。この美女は数年前に青銅国よりもランクの高い白金国を滅亡に追いやった張本人である。


「あらあら? 本当にいなくなっちゃっていいのかしら~? さっきねぇ だれーも護衛のついてない馬車で眠ってるお姫様を見つけたのよぉ 可愛そうじゃない? 手厚く保護してるのよ~」


ワザとらしく話し、妖艶に笑う美女にマインツが激昂する。


「貴様! 儂の管轄する土地に介入したのか!」


「安心してよ、お爺ちゃん。 手厚く保護してるだけよ~ 妾の下僕の元勇者ちゃんに護衛させてみたのよ 面白くなりそうじゃない? うふふ。 でも妾が合図だしたらいつでも首がとぶわよ~」


「……目的はなんじゃ」


「アレと闘わせてってことよ」


美女はそう言うとハイルンの北を指差した。赤い指輪がキラリと輝く。


「ならん」


「事後処理は貴方がしていいわよ。 得意なんでしょうお爺ちゃんは記憶を消すの。 息子とそのお嫁さんにも使ってたもんねぇ あら? 失敗して植物人間になっちゃったのかしら?」


「——っ!? どこでそれを!」


過去にマインツは息子アオとその嫁ジェーンに正体がバレてしまった。アオもジェーンも凄腕の冒険者だった。ある日マインツが風のアワタールとして暗躍していたのを夫婦は気が付いてしまった。ギンが生まれたばかりの頃だった。夫婦はマインツを問いただした。

知った者の死、知られたものの死の掟を破る訳にはいかなかったマインツは、二人に記憶消去の禁術を掛けた。しかしその禁術は失敗してしまった。アワタールである部分の記憶だけを消そうとしたが、夫婦の記憶の全てを消してしまった。禁術を終えると赤ん坊のように何もできないアオとジェーンの姿があった。


「あらあら? 妾が知らないことなんてないわよ~」


「おのれぇ」


マインツが歯ぎしりをして悔しがるのとは違い、美女は唇をペロリと舐めるとマインツにしな垂れかかる。


「や ら せ て ? 激しく乱れたいの~ じゃないとお姫様、死んじゃうわよ?」


しなだれかかる美女を払いのけ、マインツは顔を下に向けて苦し紛れに答える。


「……いいじゃろう。 ただし! 街のものを一人でも殺して見ろ、貴様の命はないぞ」


「うふふ 物わかりがいいお爺ちゃんは好きよ でもお爺ちゃんが動いたら、お姫様は首が飛ぶからねぇ」


再び美女は影の中に潜るように入ると姿を消したのだった。残されたマインツは握った拳の力を抜いてアオとジェーンをこの手にかけてしまったことを思い出し悔しくて頬に涙を流していた。


「ギンよ……すまん殿下をたのむ」








本日二回目

補習が何じゃい!って開き直って投稿しました。


ちなみにリーダーは英語のちょっと変わったテストです。


担任のハゲTに「お前は文系でも理系でもダメそうだな」とお墨付きを頂きました。あはははー うっせーハゲ!って言ってやりたかったよぉ

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