冷徹姫 イロリ
一歩おくれてやってきたギンたちは、戦場の光景を見て何が起こったのか分からなかった。焦げ臭いにおいと、北の森の景色が一面灰色の世界へと変貌していたのである。
「いったいどういうことだ」
「灰? 何があったのかしら?」
「んもー モンスターなんていないじゃないのよっ!」
「……ねこちゃん寝てる」
クリスタがその灰の中ですやすやと寝息を立てている春眠を発見して指を指した。四人は気持ちよさそうに眠りこけているハルミに今だに信じられないと言う視線を向ける。
「あんなとこで堂々と寝てやがる」
「風邪引いちゃうわね」
「ダメ猫ねっ!」
「……かわいい」
「おいおいギンに嬢ちゃんたち、なんも見てなかったのか?」と一人の熟練の冒険者が此処であったことを説明してくれた。
いきなり現れた春眠が、見たことも無い雷のブレスを乱打し始めた。しばらくして、あまりのモンスターの多さに、雷のブレスでも無駄になっていた。すると春眠が良く分からない言動をしたかと思うと、乱打していた時とは比較にもならないほどの、放射状の雷のブレスでモンスターたちを一掃した。焼け消し炭になったモンスターの灰が、今の景色を作った。そして春眠がいきなりその場で寝始めて今に至る。
「うそだろ! じゃあこれをやったのは全部ハルミだってのはマジだったのかよ」
うそじゃねーよ。と冒険者は首を振って渋い顔をする。モンスターを蹴散らしてくれたのは幸いだったが。熟練冒険者は、自分が冒険者でいいのかと葛藤していた。圧倒的な春眠の魔法を見た所為だろう。自信を無くした様子だ。
「信じられないわ。ハルミちゃんはSランクなの?」
マイアの質問には誰も答えられなかった。一番親しそうなギンに向けて聞いたのかもしれないが、ギンも先日あったばかりで春眠のことはほとんど何も知らないのだ。
「んもう! そんなのダメ猫に聞けばいいじゃない!」
そう言ってミーアが春眠に近づいて行こうとした時だった。ミーアの服の袖を引っ張ってクリスタが制止させた。
「やめなんし! あの子に近づくと、悪いことが起こりんす!」
クリスタの口調が急に変わったことに驚くギンとは違い。ミーアは「えー」と文句を言いながらも、クリスタの言うことを聞いていた。
「え? クリスタちゃん?」
「今はイロリという名前でありんす。そう呼んでくれんせんか?」
「は はい」
頭がこんがらがってきたギンにマイアがフォローをいれる。
「クリスタとイロリ様は【二重人格】なんです。そしてイロリ様は私達【ブリザード】のリーダーで、【冷徹姫】って言われてるんですよ」
クリスタとイロリは二つの魂で一つの身体を共有している。春眠の【睡眠学習】と同じように【二重人格】は固有のスキルである。あるスキルに付随してきたものでしかないが、大きな役割を果たしている。普段はクリスタの人格をベースとして、戦闘時や緊急時にのみイロリへとバトンタッチするのだ。イロリのあるスキルは魔力や体力を大量に消費するので、休んでいるのだ。
「じゃあ。「今はいない」って言ってたのは」
「人格がクリスタだったからですよ」
「ふんっ! ダメ猫は気づいてたわよ!」
確かに春眠はすぐにクリスタの中に何かいることに気が付いていた。それにマイアのクリスタを窺う様子は何度も見られたので、ヒントが多かったのかもしれない。ただどうでもよかったのだろうか、昼飯を食べるのに夢中だったの知らないが。そのことに触れもしなかったのは事実だ。
「マジか。 俺だけ知らなかったのかよ」
「わっちの事は分からない方が普通でありんす。あの子がほんに変わっているんでありんすよ」
「イロリ様。どうしてハルミちゃんを起こしてはダメなんですか?」
イロリは自分の黒髪を懐から出した簪でまとめながら、ギンたちに言い聞かせる。
「起こしてはいけんせん、嫌な気配を感じるんでありんす。わっちの感覚が正しければ、敵意が無ければ大丈夫でありんすが……触らぬ神に祟りなしでありんす」
そして、自分以外は絶対に春眠の近づくことを許さないと言い残し、春眠の傍に腰を下ろした。
マイアとミーアはイロリの不可解な行動に慣れたようにギンと今後の打ち合わせをする。簡単に言えば事後処理をどうするかだ。ギルドマスターであるマインツと、騎士団長ベルンフリート、そして第三王女リリアーデにことを伝えなくてはならない。
「ならハルミは起きるまで放置したほうがいいってことっすね。爺ちゃんにもみんなにもそう伝えておきます」
「お願いします。私たちは今から御呼ばれした騎士団の詰所に顔を出しますね」
「めんどくさー!」とぶーたれるミーアを引きずってマイアたちはその場を後にした。ギンもマイアもこの時は騎士団がリリアーデを連れ去ったことは知りもしなかった。
モンスターの襲来も被害がほとんどゼロに収まり、第三都市ハインツは勝利のムードへと入っていった。無事に街の中に戻ってきた冒険者や街の住民はさっそく宴の準備へとかかっていた。陽気な音楽が街に流れ始めた。
この時は、イロリの判断が後々で街だけでは無く国を助けるであろうとはだれも思いもしていなかった。
ただ一人、【冷徹姫】のイロリだけは勝利ムードにはならず。すやすやと眠りこけている春眠の傍で、灰色に染まった北の大地に鋭い視線を向けて眺めていた。何かが胎動するのを察知してのことかもしれない。
◇北ノ魔王 『多面百手巨人』
多面百手巨人はモンスターの怨念の塊が、とある人間に寄生して生み出された最悪のモンスターである。その強さはSランクの強さを持つ人間が束になっても傷を負わせることができないほどだった。
過去の勇者は、北の大地を破壊しつくす多面百手巨人をその身を人柱として封印した。絶対に人の手が届かない魔境の地下深くに眠らせることに成功したのだった。そして勇者はその地を守るように、相棒のグランカッソに全てを託しこの世を去っていった。
多面百手巨人は虎視眈々と復活することを狙っていたが。二度と復活することなどあり得なかった。それほどまでに勇者の封印とバハムートの存在が大きかった。
長い時が流れて人々は、その勇者の存在も、多面百手巨人の存在も、そしてバハムートが北の魔境の主となっていることも忘れてしまったのだった。
しかし、多面百手巨人はここにきて好機を得る。数千年の間、自分を見張ってきたバハムートが忽然と姿を消した。二つあった驚異の内の一つが居なくなったことをいいことに多面百手巨人は動き出した。
直接は動くことができないが、地下深くから数多のモンスターを呼び寄せる呪いを放ったのだった。そして北の大地の存在するモンスターたちが終結する。
多面百手巨人はそのモンスターたちを人間の手によって殺させ、その怨念を吸収し勇者の封印を打ち破るつもりだった。ただし北のモンスターはすぐにやられるほど弱くは無い。たとえ何百年かかったとしても封印を破こうとしたのだが――二度目の好機が訪れた。呼び寄せたモンスターが一瞬で消し飛ばされ、予想以上の速さで大量の怨念を吸収することに成功したのだった。
歓喜に震える多面百手巨人は、得たばかりのその怨念の力で無理やり勇者の封印を打ち破った。
定期テスト返却結果w
・数学 88/100 いえい!
・国語 75/100 やっぽー!
・保体 90/100 うっふん♡
・家庭 78/100 ちょろいぜ!
・日本史 45/100 ぐぅ…
・英語 30/100 あああああああああああああ
・リーダー 29/100 あああああああああああああ
・世界史 28/100 ぎゃあああああああああああ
・生物 16/50 がはっ
・化学 2/50 チーン
我が高校のレッドポイントは30点以下っす・・・5科目で死亡w
補習だらけだー あはははー