痴漢クイズ
「最近痴漢だの痴漢冤罪だのといったニュースが増えてきましたね」
卯月はなぜか情報番組の司会風である。
「痴漢専門家の葵さん、ズバリ原因はなんだと思いますか」
「あの待ってください、このノリなんなんですか?ゆりのささやきのノリなんですか?」
桜の発言には誰も耳を傾けない。
「そうですね、原因としてはやはり男性でしょうか」
「男性、なるほど、しかし世間では男性が可哀想という意見も出ていますが、そこの所はどうなんでしょうか」
「元々痴漢冤罪というのはありました。しかし、ニュースに取り上げられる原因になったのは、男性が線路に逃げるという行為なのです」
「確かにそうですね、しかし、男性側は冤罪で訴えられたらほぼ負けるというのが世間の認識です。男性が逃げるのも仕方が無いのではないでしょうか」
「怪しい男が悪い」
「はい、辛口コメントありがとうございました」
「しかし、これは女性側にも問題があると考えます。そこで、今回は痴漢研究家の弥生さんに話を聞いてみたいと思います」
「待ってください、専門家と研究家ってなにが違うんですか?そもそも二人とも普通の女子高生ですよね」
「桜さんの出番はこのあとなので少し発言を控えてください」
「私も出番あるんですか!?」
「私が思うに、これは実際に触られているか、見抜く力が女性には必要なんです」
「確かに見抜ければ冤罪はなくなりますね」
「という訳で、今回は痴漢の見本と冤罪が起こるまでを実践していきたいと思います」
「まずは一般的な反応からです、桜さん、こちらに背を向けて腕を片方上げてみてください。もう片方の腕は荷物を持っている設定で下にお願いします」
桜は弥生の指示通りに動いた。
「これ実際に触られるんですか?」
「ここで更に、満員電車では下を見れませんから、視線を固定する意味も含めて目隠しをします」
「え!?目隠しまで?」
「はい、ではここで桜さんにクイズです。痴漢かそうでないかを判断してもらいます」
制服に目隠しで右腕をピンと上に伸ばし、左手は下という無防備な桜の両脇に南と弥生が立つ。
「ひゃぁっ!えっ!?痴漢!?痴漢ですか!?」
「横に立っただけですよ」
「あの、目隠しは外していいですか。ちょっと敏感になるといいますか・・・」
桜の進言は無視された。
「では続けます」
痴漢研究家の弥生は、いつの間にか手に持っていたマジックハンドをカシャカシャと動かしていた。それも、ロボットの手のような輪っかではなく、手のひら型である。
「なんか音しませんか?」
「はい」
弥生はこれが答えだと言わんばかりに桜の胸にマジックハンドをくっつけた。
「胸になにか当たってます。バッグ・・・じゃないですよね?」
弥生がマジックハンドをカシャカシャと動かす。
「ち、痴漢ですよ!揉まれてます!」
間違いない!と桜は目隠しを外して胸に当たっていたものを掴んだ。
「あれ?」
手に掴まれていたのはプラスチック製の玩具。
「残念。間違えた桜さんには罰ゲームを受けてもらいます」
「こんな玩具持ってる人が電車乗らないですよね!?わかるわけないじゃないですか!?」
「罰ゲームの内容は、実際に痴漢を体験しよう。です」
「嫌ですよ!」
「大丈夫です、私たちが触るので」
「・・・なら、頑張ります」
「頬を赤くして、満更でもない感じですね。まさかムッツリだったとは」
卯月が桜のことを実況しはじめた。
「ムッツリってなんですか!?罰ゲームだから仕方なく、仕方なく受けてあげようって事ですよ、恥ずかしいだけですから、いやいやですから」
「はい、ということで四人で囲みました」
「近すぎませんか、完全に密着してますよこれ」
桜の背後に弥生、左に南、右に葵、正面に卯月のフォーメーションだ。卯月は桜と向かい合っている。両サイドは桜の腕を固定していた。
卯月は片足を桜の両足の間にねじ込もうと動かす。
「ちょっ、下はやめてください!下はやめてってぇー!」
「何をしているんですか!」
痴漢現場を先生に見つかった。
そのまま五人(被害者含む)は生徒指導室でみっちりと叱られたのだった。
痴漢ダメ絶対。
痴漢と痴漢冤罪問題、難しいですよね。