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プランB


卯月の部屋はランジェリーショップのようになっていた。

複数体のマネキンに透けたランジェリー。専用のハンガーにも沢山のランジェリー。


「ご苦労さまです。では、卯月さんが目覚める前に、私たちも下着姿になりましょう」


自分たちも下着姿になることにより、相手の警戒心を解く狙いだ。吉澤さんは指示通りに、素早くメイド服を脱いで黒い下着姿になった。装飾はあまりないが、それがより大人の雰囲気を醸し出していた。

一方葉月は、本人の趣味なのか、黒を基調に白のフリルが主張するビスチェと、それに合わせた黒のストリングショーツという少し刺激の強い下着姿になった。


「吉澤さん、わかっていると思いますが、卯月さんが試着したものはすぐジップロックですよ」


「はい、さり気なく保存しておきます。映像については、着替えのシーンのみ映さないようにしました」


「流石に、裸を保存するのはいけませんからね。脳に焼き付けることにします」


「程々にしないと卯月さまに嫌われますよ」


「合意の上、合意の上での行為ですから、大丈夫です」


葉月はふんすっ!という効果音がピッタリの興奮具合だ。


「卯月さん、起きてください」


ベッドで寝ている卯月の布団を剥いで、その仰向けの身体に葉月は躊躇いもなく馬乗りになった。

葉月はぎしりぎしりと音を立てながら身体を上下に揺らして卯月の起床を促す。


「・・・うぅ・・・ん?重い・・・」


卯月は少し苦しそうに両手をばたつかせた。


「重くなんてありません。目を覚ましてくだ・・・ぁんっ!」


空中でばたつかせていた卯月の両手は、勢いよく葉月の胸に当たった。


「小さい・・・」


「いつまで寝ぼけているんですか!?小さくありません!普通です」


「あれ・・・葉月?」


葉月の大きな声の訂正で、ようやく卯月の脳は覚醒状態になったようだ。


「なんか少し変な格好だけどどうしたの?てかなんで私の上に乗ってるの?」


「変ではありません。これも一つの正装です」


「そうなんですか吉澤さん?」


側で控えている下着姿の吉澤さんに聞いてみた。


「葉月さまに命令されましたので」


「吉澤さん、あとでそれより過激な下着を身に付けて写真を撮りましょう。吉澤さんのお姉さんに送りますから」


「そ、それだけはやめてください。私にも羞恥心というものが・・・」


吉澤さんにしては珍しく焦りの表情で、葉月に懇願していた。


「羞恥心とかあったんだ」


卯月の何気ない発言。

いつもの吉澤さんならスルー案件だが、余裕がないのでつい反応してしまった。


「ありますよ。葉月さまの命令なのでいやいや従っているだけで、本当は人前で肌を晒すなど・・・あっ」


気付いた時にはもう遅かった。

こぼした本音はご主人様の耳にしっかりと届いていた。


「とりあえず、上、脱ぎましょうか」


いつもの柔らかい葉月の声からは想像出来ないような低く冷たい言葉に、吉澤さんは驚きを隠せないでいた。


「あの・・・失言でした。本当に申し訳ございません」


深く頭を下げての謝罪である。


「脱ぎなさい、私が命令しているの。脱ぎなさい」


「あ、あのさ!葉月、少し言いすぎじゃない?今のは言葉のあやっていうかさ、別に葉月が嫌なわけじゃないっていうか・・・」


「卯月さん、ここに置いてある下着、好きなものをあげますから、部屋の外に行ってもらえませんか」


「は、はい」


反論する気すら起きない言葉の圧に、卯月は負けた。

自分の部屋なのに、そんな気持ちを口に出すこともなく、いくつか近くにあった下着をもって部屋の外へ出た。下着姿で。


「これで二人になりましたね。もう恥ずかしいこともないでしょう。脱げますね?」


その微笑みに、普段の葉月の優しさは無かった。


「・・・・・・はい」


ブラジャーから解き放たれた吉澤さんの胸は、まだ若々しく、つんと上を向いた綺麗なものだった。


「綺麗な身体・・・」


葉月は人差し指で吉澤さんの胸にぎゅっと押し付けた。

押し付けた人差し指で変形した胸、つい手で隠したくなるが、葉月がそれをさせない。


「手は頭の上で組みなさい」


「葉月さま・・・・・・」


吉澤さんは既に耳まで真っ赤に染まっていた。

目尻にうっすらと涙が見える。


「卯月さん、呼びましょうか?ついでに百合恵さんも」


そんな吉澤さんに一切の手加減をしない。


「・・・ぅぅ・・・」


視線を足元に落として、両手を頭の上で組んだ。

身に付けているものはショーツのみ。


「露出に慣れるには露出をするのが一番ですから、しばらく耐えなさい」


ここから小一時間、葉月は吉澤さんに調教をすることとなった。


同時刻、紅の部屋には下着姿で更に大量下着を抱えた卯月がやって来ていた。


「どうしたの?てか今下着姿で入ってきたけどその格好で歩いてきたの?」


「色々と事情がありまして・・・」


なぜ下着姿で紅の部屋に来たのか、原因を紅に話した。


「なるほど、あの葉月が吉澤さんにガチギレねぇ」


「はい、私怖くって・・・口挟んだら下着持たされて締め出されちゃって。私の部屋なのに・・・」


「まあ葉月ってさ、お嬢様じゃん?私たち普通に接してるけどさ。やっぱり住む世界が違うんだよね、私はそういう葉月のお嬢様っぽいところも好きだけどね」


「今までも葉月は吉澤さんにキレたことあるんですか?」


「んー、分かんない。もしかしたら私たちの見てないところで結構あるのかもしれないけど、多分今日の葉月は少し機嫌が悪いんだよ」


「そんな風に見えませんでしたけど?」


「いやー、実は私が少しやらかしちゃって・・・」


「えー!じゃあ紅が原因ってこと!?吉澤さんに謝らないと!」


「それは・・・大体、私がやらかしたのも卯月が私のを脱がすからであって・・・」


「・・・この話はやめよう。吉澤さんなら大丈夫。多分明日あった時は普通に戻ってるから」


「そだね、とりあえずその手に持ってる高そうな下着、試着してみようか」


こうして当初の予定とはまったく違う道のりだったが、結果として卯月の下着の試着という目的は果たされたのだった。


少し遡って卯月が下着姿で紅の部屋に入る時、それを目撃した人物がいた。


「今の見た?」


「・・・見た」


葵と南だ。


「なんで卯月は下着姿だったんだろう」


「・・・・・・変態」


「それは間違ってないな」


「・・・でも・・・行動するのも大事」


「お、おう?」


後日、下着姿の南が紅の部屋に侵入したとかしないとか。


葉月の調教から一日経った頃。


「百合恵さん、露出に興味はありませんか?」


吉澤さんの表情からは冗談を言っているように見えなかった。


「そのぉ・・・露出、ですかぁ。ストレス発散にはいいかもしれませんね」


「そうなんです。なんとその露出。ストレス発散から癖になって続ける女性も多いんですよ。そこで多いのが ハメを外しすぎて失敗することなんです。ですから私が安全な露出のやり方を教えたいと思います。まず・・・」


「・・・な、なるほどぉ」


吉澤さんと百合恵さんがしばらくオープンショーツで生活したことは誰も知らない。




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