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幼児退行、補足の話

【吉澤さんの幼児退行記録(マル秘)】


「あそぼー!」


葉月様のクールな万能メイドとして有名な吉澤さんが、まるで子供のような振る舞いをしていることに、私、フリーズしていました。

申し遅れました、別荘の管理を任されているメイドの塩沢と申します。


「ねえねえあそぼー、さっきやったにらめっこまたやろー!」


このように、「さっきやった」という言葉が頻繁に出てくるのですが、私にはまるで覚えがありません。

私が買い出しから戻ると、吉澤さんは既にこの状態でした。


「おーい、きこえてるのー?」


そんなことを言いながら私の服の裾をちょこちょこと引っ張ってきます。


「はい、じゃあにらめっこしましょうか」


とりあえず可愛い...もとい埒が明かないのでにらめっこをすることにします。


「にらめっこしましょ、笑ったら負けよ」


「「あっぷっぷ!」」


「ぶふーっ!あははははー!」


掛け声とほぼ同時ではなかったでしょうか。

変顔をする瞬間に吉澤さんが吹き出してしまいました。


「負けちゃったねー、じゃあひみつをばくろするねー」


ひみつをばくろ?

秘密、暴露?


「ちょっと待ってください」


「どーしたー?」


「吉澤さんはいったいなんの秘密を暴露するのですか?」


「わたしのひみつー」


それは、聞いても良いのでしょうか。


「ストップストップ!何故自身の秘密を暴露するのでしょうか?」


「その方がなかよくなれるでしょ?」


確かに、互いに秘密があるよりさらけ出している方が仲良さそうな気もしますが。人間関係というのはそう単純なものでは...。


「わたしのパンツはうすーいきじがおおいよー」


なんて考えているうちに吉澤さんが爆弾を投下しはじめました。

その後もにらめっこやじゃんけん、にらめっこなど、というかほぼにらめっこでしたが、ひたすら吉澤さんの秘密を聞いてしまいましたがここでは割愛させていただきます。

そして吉澤さんの様子がおかしい理由が判明しました。

近くに落ちていた吉澤さんの携帯を見つけて、中身を確認すると、メールが途中まで書いてありました。

※以下メールから一部抜粋

今回の幼児退行は呪いによるもの。

年齢が幼いほど症状は遅れてくる。

呪いは時間経過で薄れていく。

記憶は保持しない。


つまり、吉澤さんは幼児退行の呪いでおかしくなっていたというわけです。

何故メールに書き残していたかは宛先やその他のメール履歴からすぐ分かりました。

私は吉澤さんの名誉を守るため、書きかけのメールを補完して、送信しました。

さて、記録はこのくらいにして、私は吉澤さんとファンシーショップに向かいましょうかね。



その後、やけにテンションが高いメイド服を着た女性二人組がファンシーショップで目撃されたという。




【幼児退行が終わった直後のゆりのささやきの一幕】


「あれ、なんで私カフェテリアにいるんだっけ?」


卯月の疑問の声とともに女子高生たちの奇行は止まっていた。


「なんか口元べとべとしてるんだけど、これは一体...」


卯月はぬらぬらとした口元を触りながら首を傾げる。


「......全裸...何故?」


自ら全裸となった南だが、記憶が無いので困惑していた。


「ちょっと、葵が上半身裸でノビてるんだけど」


自身も上半身裸なのに気づいていない紅は葵を抱き起こして葵に声をかけた。


「おーい、丸見えだぞー、って、南なんで全裸なの...?」


「......紅も...丸見え...」


南は指摘しつつ顔を赤らめた顔を隠す。


「うわっ、本当だ...というか南、顔より先に隠すべきところがあると思うんだけど」


「......顔が......一番...恥ずかしい...」


「そ、そうなんだ」


葵を起こしつつ周囲を見渡すと、自分の服が脱ぎ捨てられていた。


「謎だ」


「......とりあえず...服...着よう...」


「寒いしね」


葵以外は脱ぎ捨ててあった自分の服を着た。


「あ、卯月は服脱げてた?」


紅の質問に卯月は首を横に振った。


「その変わり、口元がべとべとで...」


「一体何があった」


「気が付いたらこの状態で倒れてたから分からないなぁ」


「それは私達と一緒なのか」


「うーん、なんだろうね」


そこへいつにも増して笑顔な百合恵さんがやってきた。


「あらぁ、ようやく気が付いたのねぇ」


「ようやくということは、私達はずっとここで気絶していたんですか?口元べとべとで?」


「半裸で?」


「...全裸で......?」


私達それぞれの疑問に百合恵さんはノータイムで答えた。


「そうよぉ」


その答えに三人は頭を抱える。


「百合恵さん、一つ聞いてもいいですか?」


紅は恐る恐る質問をする。


「どうぞぉ」


「私達は、一体何をしていたんですか」


「そうねぇ、まず南さんが暑い暑いと服を脱ぎだしてぇ...」


「「えっ!?」」


卯月と紅が若干引き気味に南を見る。


「騙してたの?」


紅は「信じてたのに」といった感じの瞳で南に確認をとる。


「......いや...覚えてない...」


「だよね。しかし、覚えてないけど、脱いだのは事実。一体これは...」


「脱いだ勢いでぇ、紅さんを無理矢理脱がせてぇ」


「アウト」


「......記憶に...ありません...」


南を責める紅に、百合恵さんが一言付け加えた。


「でもぉ、紅さんも満更でもない表情というかぁ、一言で表すなら、雌の顔、してましたよぉ」


「......」


「......」


紅と南の間に微妙な空気が流れる。


「あの、じゃあ私の口元がべとべとしていたのは?」


「キスした時のぉ、唾液かしらぁ」


「ん...ん?」


ん?

あれ?キスって一人じゃ出来ないような...。

そこに葉月がやってきた。


「みなさんおそろいで、何をしているんですか?」


葉月の口元は、ぬらぬらと光っていた。


「ごめん、私部屋戻るね」


卯月は何も見なかったと暗示をかけて自室へ戻っていった。



その後、葵が目覚めた時には誰もいなかったという。



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