ピクニックと遠足症候群
パーティーで色々とあった翌日、葉月は卯月とテラスでお茶会をしていた。
「葉月さ、私とお茶してていいの?」
「ええ、婚約者ですから」
「それは吉澤さんが緊急で葉月の相手を探していたから一時的にそういうことになっただけなんだって」
「わかっています。つまり、たった今、その一時的なものが永久なものになったのですね」
「全然わかってないことがわかったよ」
「あの後、パーティーの後、明音さんと話してきました。しばらくは今のままですが、お見舞いには行くつもりです」
「そうなんだ。お見舞いには私も行くね。葉月に会う前に明音さんと結構仲良くなったんだよ」
「凄いですね、流石卯月さんです」
「えへへ、もっと褒めてもいいのよ?」
「流石私の婚約者です!」
「んー?あ、そういえば次の土曜日にピクニック行こう」
「ピクニック、良いですね」
「もう弥生ちゃんには言ってあるんだけど、どうせなら紅とかも呼ぼうよ」
「そうですね、私は二人で構いませんが」
「葉月さま、卯月さま、遠くで弥生さまがこちらの様子を窺っていますが、こちらに呼びますか?」
「あ、お願いします」
「かしこまりました」
すると吉澤さんはすごい勢いで植林エリアへ走っていった。
「え、あんな遠くに弥生ちゃんいるの?」
「吉澤さんがその方向に走っていったのです。いると思いますよ」
なんというか、吉澤さんも弥生ちゃんも変人だし、それを当たり前に受け入れてる葉月も変人だなぁ。
約二分後、吉澤さんが弥生ちゃんを抱えて戻ってきた。
「吉澤さん、なんで弥生ちゃんを抱えているんですか?」
「逃げるので」
「逃げるので?」
「はい」
それ以上に伝えることはないという意思表示なのか、弥生ちゃんを下ろすと定位置に戻っていった。
「あの、弥生ちゃんはなんで抱えられてたの?」
「捕まった」
「捕まった?」
「うん」
よく分からないがこれが普通らしい。都会おそるべし。
「それで、なんで私は二人のお茶会に呼ばれたの?別にお茶会くらい頼まれなくても参加するぞ?」
「弥生さん、誘ってませんよ?」
「え?じゃあなんで私はここに運ばれたんだ?」
「それはね、次の土曜日にピクニック行こうって言ったでしょ?どうせなら大勢の方がいいと思ったから葉月誘ったの。それで、今からピクニックの作戦会議するところ」
「私の卯月さんが大勢がいいと譲らないので仕方なく、仕方なく弥生さんもOKなんですからね?」
「いや、私が先に誘われてない?」
「ごめん弥生ちゃん。実はその前に葉月と約束してて...」
「と、いうことで、この作戦は私と卯月さんが考えますから、弥生さんは「はい」とだけ答えていればいいんですよ?」
「はい」
「いや、冗談だからね?そんな素直に従わなくていいのに」
「卯月、葉月に逆らうと自費でピクニックだよ?」
その言葉にそーっと葉月の顔を見ると、にっこりと微笑んでいた。
「卯月さんは特別ですから、安心してください」
「は、はい」
これが都会で生きていくということなのか。
「それで、葉月はどこ行きたい?」
「そうですね、ピクニックといっても歩き回るのは嫌ですし、私の別荘の近くまで車でいって、草原を少し歩いて食事にしましょう」
「別荘かぁー、それなら日帰りじゃなくて一泊二日で行けるね」
「卯月さんがいいならそれで構いません」
「私も賛成します」
「じゃあ決定だね」
「...はっ!卯月さんと一泊二日で一つ屋根の下。つまり、婚前旅行」
もう訂正はしない。
しても葉月には届かないことは立証済だ。
「え、婚前?葉月と卯月結婚すんの?へー」
このロリっ子はなぜ普通に受け入れているのか。
いや、既に洗脳済みなのか。
「じゃあ私とも結婚しような、卯月」
いや、アホなだけだった。
「正妻は私ですからね」
「わかってるって」
結婚ってそんな軽いものだったっけ?
それに私の意思は?
「それでは、準備はこの吉澤が責任をもって行います」
「お願いしますね」
次の土曜日。
集まったのは卯月、葉月、紅、葵、南、吉澤さん。
「ねえ、弥生ちゃん知らない?」
全員が首を横にふる。
「あ、そういえば弥生さんは学校の遠足や修学旅行を毎回熱で休むか、我慢して途中でダウンしてしまうのを思い出しました」
どこまで残念なんだ、あのロリっ子は...。