今宵の踊りのお相手は2
パーティー当日。
このパーティーは大森家が日頃から贔屓にしている家の主催するパーティーということで、葉月は嫌でも出なくてはならないのだった。
「遂に、パーティーの日まで吉澤さんが秘密の用事で一緒にいれないとは...」
パーティーの会場は、主催者である鷺ノ宮家の経営するホテルだ。
葉月は関係者というか、家同士が特別仲が良いというか、色々あって準備中の会場にいた。
「葉月ではありませんか!あらあらあら!お久しぶりですこと!覚えていらっしゃいます?私のこと」
この声、この喋り方、忘れるはずはない。
「神無...さん」
今回の主催者鷺ノ宮家のご令嬢、鷺ノ宮神無。
「あらあらあら!お姉ちゃんと呼んで良いのですよ?ほら、神無お姉ちゃん大好きーって!さあ!」
「もうそんな歳ではないですし」
「そんな歳ですって?いくつになってもお姉ちゃんは変わらずお姉ちゃんなんですわよ?素直になりなさいな」
確かに昔はお姉ちゃんと呼んでいた。
なんなら大好きーって抱きついたりもしていた。
しかし、人は変わるのだ。それも子供の頃と思春期で同じ反応が出来るはずがない。
「一つ、聞いてもいいですか?」
「彼氏ならいないですわ」
「あ、はい。それで、何故私が呼ばれたのですか?」
「何故って、私が呼んだからですわ」
「そう...ですか」
「うーん...」
葉月の返答が気になるのか、神無は唸りながらジロジロと葉月の顔を見る。
「暗い、暗いですわ!折角の再会だというのに、それではつまらないでしょう?」
「元々、このような催しは好きではありません」
「昔はあんなにドレスを来たがっていたというのに、見栄を張っても私にはバレバレですのよ?」
「......」
葉月は神無に完全に心を読まれているような気がして、何も返すことが出来なかった。
「...まあいいですわ。そういえば吉澤の姿がありませんね」
「吉澤さんは、秘密の用事でここにはいません」
「秘密とは、私に対してかしら?それとも、貴女も知らないのかしら?」
「......」
「吉澤、転職でもするのかしらね?」
「転職!?」
「そうですわ。例えば、ご主人様を変えて別の家の使用人になるとか」
「そんな...まさか...。仕事に不満がある様子はなかったと思いますが」
「そう!仕事に不満はないの!つまり、環境に不満があるのですわ!」
「......」
そんな。
環境に不満?
小さい頃からずっと一緒だったのに、不満?
「なんて、冗談ですわ。私は準備がありますので、これで失礼しますわ」
神無はそう言い残して去っていった。
吉澤さんが、私以外の人に仕える?
いや、それは神無さんが言っただけで証拠もない虚言。
私が神無さんに素っ気ない態度をとった仕返し?
でも、神無さんの言ったことを虚言と断言できるだけの証拠はない。むしろ神無さんの言った言葉の方が正しい可能性も...。
考えれば考えるほどに分からなくなってくる。
「吉澤さん、何故私の隣にいないのですか?」
小さな声で呟いたその言葉が、届くことは無かった。
葉月は一人のまま、パーティーは開始の時刻になった。
「皆様、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます」
開会の言葉も終わり、ビュッフェ形式の食事で会場も盛り上がっていた。
食欲がイマイチわかない葉月はグラスを片手にさまよっていた。
「なにかお探しですか?僕が探してきましょうか?」
これで何回目だろうか。
さまよっていると男性がよく話しかけてくる。
今回は年下、小学生くらいだろうか。
「いえ、少し人によってしまっただけですので」
「なら座れる場所まで僕が案内しますよ!」
「いえ、一人で大丈夫ですから」
申し出を断って徘徊に戻る。
断った後、少年の表情が一瞬だけ目に入った。
泣き出しそうな顔だった。
それも、今の葉月は気に止めることは無かった。
「あらあらあら!一人でさまよっている暗い雰囲気の女性がいると思ったら葉月じゃありませんか!」
「暗くて、ごめんなさい」
「今日、貴女の弟は呼んでいませんわ」
「...っ!?」
「聞いていますわ。葉月、貴女が大森家と上手くいっていないことは」
「......」
「というより、貴女が勝手に壁を感じているだけのようですが」
「......」
「貴女が大森家に養子にいった後、大森家に待望の長男が出来た。聡い貴女は勝手に自分が要らない子になったと思い込み、離れて暮らすようになった。養子になる前の鷺ノ宮家を頼る事もせず」
「なにが、言いたいんですか?」
「私が憎い?養子にすることを決めた父親が憎い?生まれてきた弟が憎い?」
「そんな......」
そんなこと......。
私は、ただ......。
ただ.........。