テストの点数=戦闘力という事
入学して間もなく、私達の学校で学力検査が実施される。
教科は英語と数学。
そしてその成績から英語と数学のクラスを二つに分けるという。
「卯月って勉強出来る方?」
「弥生ちゃん、私の中学での二つ名はなんだったと思う?」
「二つ名?あだ名ってこと?」
「まあその認識で大丈夫かな」
「うーん、わかった!ウッチャン」
「ハズレ」
卯月は首を横に振る。
「ナンチャン」
「ボケがつまらない、マイナス二十点」
「わかりません、答え合わせお願いします」
「正解は菅原卯月でした」
「捻りがない、マイナス三十点」
「弥生ちゃん、正解だから。マイナスとかないから」
「なになに、大喜利大会?」
葵がお笑いの匂いを嗅ぎつけて二人に話しかける。
「いや、大喜利じゃなくてクイズなんだけど」
「わからなくてボケると謎の減点があるけどね」
「ふーん、じゃあ次の問題いこう」
葵はクイズで早押しをするように、手を素早く動かし始めた。
やる気は十分、なら見せてもらおうか、葵の実力を。
「葵、多分次の問題なんて卯月用意してないよ」
「えっ...」
葵が餌を取り上げられた猫のような表情でこちらを見つめる。
「ふふっ、第二問、先程の答え、私の二つ名菅原卯月ですが、その由来はなんでしょう」
「「うーん...」」
葵の先程の素振りはなんだったのか、ロダンの考える人のようになっている。それも椅子に座らず、空中で、エアで静止していた。
なるほど、ただ考えるのではなく、今の問題に向き合っているという事を全身で表現することにより、ほかの解答者を威圧する作戦か。
「葵、二十五点」
「え?なんで?なんで私は答えても減点されるのに葵は考えるだけで加点されるの...それが私と葵の差なの?」
「卯月、わかったよ。私はボケじゃない。私はクイズに正解することでカメラに映るインテリ文化人枠であってお馬鹿タレント枠ではないということが」
「弥生ちゃん、解答をどうぞ!」
「そもそもこのクイズは私がテストの話をしていたら卯月が急に始めたこと。つまり、菅原はテストに関係する。つまり、答えはただ一つ、学問の神様、菅原道真」
「ハズレ、マイナス三十点」
「そんな...。真剣に考えたのに」
うなだれる弥生と対照的に、葵はビシッと立っていた。
「わかりました」
「葵さん、解答をどうぞ!」
「テストに関するのは間違いない。ただし学問の神様ではない。つまり、そこから導き出されるのは、テストに関係するが、直接関係しないもの。そこから考え出される菅原と言えば一つ。答えは菅原文太」
「いや、なんでやねん!」
弥生が思わずツッコミを入れた。
「正解です」
「って正解かい!」
そこに再び弥生がツッコミを入れる。
そう、弥生はインテリ文化人枠ではなく、そこそこの学歴があるゲスト枠のお笑い芸人枠だったのだ。
「で、なんで菅原文太が正解なの?」
「それはね、デコだよ」
「デコ?」
「菅原文太ってトラック野郎に出てたじゃない?で、そのトラックがデコトラだ。そして私が中学生の時に使ってた筆箱が凄いデコってあって、それとデコトラ似てるよねってなって菅原卯月になったの」
「なったのって、ならないでしょ普通。一体何歳だよ卯月は...」
「まあ本当は私の作ったコロコロ鉛筆のテストの正答率が8割超えだったから学問の神様だーってことで菅原道真の菅原が二つ名になったんだけどね。ということで勝負に負けて試合に勝った弥生ちゃんには私特製のコロコロ鉛筆を贈呈します」
「普通に正解者でいいでしょ。そんな汚い手使って勝ったみたいに言わなくても」
「まあまあ、とりあえず明日のテストで使ってみな」
「いや、私普通にテスト自信あるし」
「まあまあ、とりあえず今回はコロコロしてみてよ。正答率に驚くよ」
「そこまで言うなら使ってみようかな」
テスト当日。
一科目目、英語。
(マークシートか、それじゃあ全問コロコロ鉛筆でいけるな)
コロコロ、コロコロ、コロコロコロコロコロ......。
「はい、時間になったので回収します。それと、鉛筆を転がしていた人、辞めてくださいね。次やったら没収です」
クスクス、クスクス、クスクス。
(は、恥ずかしい)
テストの返却日。
「それじゃあ平均点を発表する。英語62点、数学68点だ」
「弥生ちゃん、どうだった?って泣いてる!?」
「うっ...卯月ぃぃぃっ!」
「そんなに泣いてどうしたの?コロコロ出来なかった数学がやばかった?」
弥生の成績表を見る。
英語三点。
数学百点。
「その、ごめん」
「卯月は?卯月はどうだったの?」
そんな縋るような目で見られても...。
英語百点。
数学百点。
「うわぁぁぁあ!卯月の馬鹿ぁぁぁ!クラス分けがっ!クラス分けがぁぁぁ!神様なんていなかったんだぁぁぁ!」
弥生はホームルーム中にも関わらず教室を飛び出していった。
「白井さん、今のは一体?」
何事かと担任の先生が私に質問をした。
「えっと...神様がいなかったので?」
「そうですか。それではこれから伝える知らせを宮野さんにも伝えておいてくださいね」
荷物を教室に置きっぱなしで飛び出たのでしばらくすると弥生が教室に戻ってきた。
「弥生ちゃん、神はいたよ」
「笑いの神?まあ確かに他人からしたら笑いの神が降臨してたよね」
「いやいや、そうじゃないんだよ。確かに笑いの神も降臨してたけど」
「どういうこと?」
「モンペだよ。モンスターペアレント。クラス分けが行われるということは、隠していても自分の点数がクラス全体に大体分かっちゃうでしょ?もしそれでウチの娘がーって学校に文句の電話があったんだって」
「そんなことが...」
ありがとうモンスターペアレント。
私達は今日この日にモンスターペアレントの神が舞い降りた事を一生忘れないでしょう。アーメン。