夕食だね
時刻は午後六時。
卯月は自室で今日届いた荷物の整理をしていた。
ヴヴヴ ヴヴヴ ヴヴヴ
「ん、メールだ。誰からだろう」
画面を確認する。
差出人は弥生のようだ。
弥生とは朝の悲劇の後に連絡先を交換した。ちなみに葉月、百合恵さん、吉澤さんとも連絡先を交換している。
内容はなんだろ。
『そろそろ夕食の時間だからフードコートに行かないか?』
六時過ぎか、少し早い気もするけどいいかな。
『わかった、今からフードコートに向かうね』
送信、と。
「あんまり待たせると可哀想だから急いで行こう」
本当にね、心が痛かったよ。
階段は疲れるのでエレベーターで移動する。
エレベーターのドアが開く。
中には先客がいた。
「あ、スラマッソレー」
「スラマッソレー、ってそれ気に入ってるの?紅」
「まあね、それに私って少し地味だからアイデンティティーっていうか、なんかそんな感じのが欲しくてね」
「あはは、そんな地味じゃないと思うよ」
一階に着く。
「そういえば卯月は一階に何の用?夕食とか?」
「そうなの、弥生ちゃんからメールで誘われてね」
「え!弥生が、自分からメール!?それに誘うって……」
え、なんでそんなリアクションなんですか。
まさか弥生ちゃんのメールに嫉妬とか?
「弥生ちゃんのメールが羨ましいの?それなら連絡先教えて……」
「いや、大丈夫だから。連絡先は私も知ってるし」
ならさっきのリアクションは一体……。
「そうか………成長、したんだな………」
なんか子供の成長にうるっとしてるお母さんみたいなんだけど。
「紅も夕食?だったら一緒に行こうよ、弥生ちゃんもいるし」
「ああ、ついでに葵と南もいいかな」
「いいと思う!食事は大人数の方が楽しいもんね」
五分後。
「なんで五人いるの?卯月しか呼んでないんだけど?」
弥生は五人を見回す。
「なんでって、私は紅に呼ばれたんだけど」
「私も………」
「私は卯月に誘われたからな」
「えっと、大人数の方が楽しいかなって、ね?」
「卯月が……誘った、へぇ…………」
弥生ちゃんなんかこわいよ!?
視線でなんか殺せそうなくらこわいよ!?
「葉月は?」
「私は卯月さんに誘われた気がして」
「お前誘われてないのかよ!?」
「ぶふぅっ……ぐふ……いひっ……ひぃ……」
その笑い方はどうにかなりませんかね。
「まあ大人数の方が楽しいよ?いいよね、弥生ちゃん」
「……まあ、卯月がいいならいいけど…」
弥生は渋々といった感じで了承する。
よかった、とりあえずこれで………
「弥生ちゃんが……ぼっち飯じゃないなんて意外…」
「んなっ!?」
ちょっ、南ズバッと何言ってるの!
どこのもんたなの!?少しは空気読んで!
「そんなことより料理頼もうよ!混んできちゃうよ!」
「そ、そうね……ほら、紅さん達も」
「お、おう」
「そんなことって………私だって好きでぼっち飯だった訳じゃないのに………ぐすん……うぅ…」
なんかごめんなさい。
朝に続いて夜も本当にごめんなさい。
注文をして、席に着く。
席順は長方形のテーブルで右から葉月、卯月、弥生。向かい側に紅、葵、南で座っている。
私はカルボナーラとサラダにスープのセットを注文した。
いやー、なんかいいよね。
サラダとスープなんてオシャレだよね。
となりから話し声が聞こえる。
葉月と紅が喋っているみたい。
二人の関係とか少し気になるかも。
「なんか葉月と一緒に食べるのも久しぶりね」
元々二人は一緒に食べてたのかな?
「そうですね、学校が春休みになる前以来でしょうか」
それって数週間前だよね、多分。
「それと、私が葵達と一緒にいるようになったからかな」
あら、これは少し気まずい感じっぽい?
「まあ私は今日から卯月さんと一緒に食べますからいいですけど」
「あれぇ、葉月は誘われてないみたいだったけど?」
「くっ、心が通じ合っているからいいの」
あれぇ、なんかこの二人仲悪いの?
「あら、お嬢様はすごいんだね。私と食べなくなってからメイドさんと二人で寂しそうだったのに」
「さ、寂しいなんてことはっ……紅さんなんて私に恐れをなして後輩と仲良くし始めたんじゃないの?」
「恐れなんてっ……私はただ交友関係を広げようと……」
なんかギスギスしてない?
と、とりあえず知らんぷりしよう。
弥生ちゃんはどうしてるかなぁ……。
「ぼっち飯……卒業、おめでとう…………」
「ぼっち飯……じゃない……ぐすん……時々百合恵さんとも……食べてたもん……ぐすっ……うぅ……」
まだ続いてんのかよぉぉぉ!
南やめて、天然は時に人を殺すんだよ!
「卯月、なんかごめんね。私達が来たからなんかギスギスしちゃって…」
助かった、葵がいてよかったー!
「いや、葵が気にすることじゃないよー」
「まあ別に仲が悪い訳じゃないんだよ、今日はたまたまね、タイミングとかさ」
「うんうん、なんとなくわかるよ。そんなことより早く料理こないかなー、なんて」
「それな、卯月はなに注文したの?」
「カルボナーラのセットだよー」
「あ、私も一緒だよ。気が合うね」
「そうだ……」
「私もカルボナーラのセットですよ、気が合いますね、卯月さん」
おう、いきなりびっくりした。
「私もカルボナーラのセットだよ、卯月とは気が合うね」
バチバチ
なんか対抗してるし。
「あ、私も……カルボナーラのセット、だよ?」
南も話に加わってきた。
「すごいね、みんな気が合うねー。友達って感じだよね」
はっ!?
となりから負のオーラが………。
「私………ステーキだ…………友達、はは…………ステーキはすてきー、ははっ、あはは………」
弥生ちゃんんんんん!?
ごめん、料理なんて関係ないよね!
本当にごめんね!
「ぶふぅ……くっ、ステーキはすてき……ぐふっ…ひぃ………」
やめてぇぇ!
そんなギャグ拾っちゃダメだよ!
墓を掘り返しちゃダメなんだよぉぉ!
「す、ステーキ美味しいよね!私も迷ったんだよね!」
「迷っても………結局選んだのは、カルボナーラ……だけど……」
だからやめてぇ!
南が天然なのはわかったから少しは空気読んで、マジで。
「私は……迷ってすらなかった……ステーキ、一択……ぐすん……」
「ぶふぅ……一択……いひっ…ひぃ……」
「りょ、料理はまだかなー(棒)」
もうダメ、今日は弥生ちゃんの厄日なんだよ。
きっとそうだよ。
だから私にはどうにもできないのは仕方がないの。
「あら、料理がきましたよ」
全員の料理が配膳される。
一人だけステーキなのは気にしない。
気にしたら負けだ。
なにに負けるのかは知らないけど。
「美味しそうだねー」
「ここのカルボナーラは美味しいよ、外からのお客も結構頼むし」
「へぇ、じゃあ食べようか、いただきます」
「「「いただきます」」」
う、うまい。
カルボナーラなんて冷凍のしか食べたことないからかもしれないけどすごく美味しい。
なんていうか、濃いね。
それでいてしつこくない。
都会、おそろしや。
「そういえば葉月、さっき学校って言ってたけどどこの学校?」
「白百合中央高等学校ですよ」
「あ、私と一緒だ!って、高校ってことはもしかして葉月って先輩?」
「そうですね、今年から二年生ですから先輩になりますね」
先輩だったのか。
なんか失礼な態度とかとったりしてないよね?
大丈夫だよね、過去の私!
「じゃ、じゃあ葉月先輩って呼んだ方がいいかなあ?」
「いえ、そのままで大丈夫ですよ。それに、先輩といえば紅さんも白百合の二年生ですよ」
紅も先輩だったの!?
そういえばさっき後輩がどうこう言ってたかも。
そうなると葵と南は私と同学年かな?
「私も今年から白百合だ、もしかしたらクラス一緒になるかもね。その時はよろしくね」
「私も………今年から、白百合………だよ?………その、よろしく……ね…」
やっぱりそうか。
しかしこの流れ、まさか……。
「わ、私………」
た、たのむよ?
「私……………」
私、私の次は?
「私………も、白百合、一緒………よかった、うづぎよがっだよぉぉぉぉ」
マジでよがっだよぉぉぉぉ!
これで違ったらもう弥生ちゃんが可哀想過ぎて転校しようかと思ったよ!
「弥生ちゃんも一緒でよかった!友達だもんね!親友だもんね!」
「う、うん!親友!うふっ……」
弥生ちゃんが笑顔になって私はもうお腹がいっぱいです。
「なんだ、みんな同じ高校なんだ。じゃあ卯月、連絡先とか交換しない?」
「あ、いいね。ってそうだ、紅って先輩だから敬語の方がいい?」
「いや、そのままで大丈夫だよ。学校でもよろしくね」
「よ、よろしく」
「じゃあ私とも」
「私……も…」
こうして新たに三人の連絡先を手に入れた。
高校生活が始まる前から友達ができてよかった!
やっぱり大人数で食事はいいよね!
「私、二人の連絡先知らない………」
あっ………
この後無事弥生ちゃんは二人の連絡先を手に入れたとさ、めでたしめでたし。
めでたしめでたし!