第57話 街角であなたと
非番の日。直哉は領都ザッフェルバルで、ウィリアの誘いに乗せられてデートに来ていた。
……デートっつーか。
イデアの話を色々聞かせてほしい、とキラキラした目で熱心にせがまれて、断る理由は直哉は持ち合わせていなかった。
知らない、まったく縁のない相手というわけでないのも、オーケーせざるを得ない理由の一つだった。
「楽しみです。あたし、お店でご飯食べるのも初めてなんですよ」
初めて会ったときの殊勝さはどこへやら。数度話しているうちにすっかり打ち解けた様子のウィリア。どうもこの雰囲気が彼女の素らしい。
「ほぉ。だとしたら、今日行くとこは美味すぎてひっくり返るぞきっと」
総督府の使用人だという彼女が普段食べているものとの落差が大きすぎるのではと若干申し訳ない気持ちにもなったが、ザッフェルバルで安全が確保できる店はI.D.E.A.の管理下にある食事店しかない。
ブライトワンドでの翻訳も、通信基地局が整備されている範囲でないと精度ががた落ちになる。消去法でやむなくだった。
「あ、いいですね。是非ひっくり返ってみたいですよ。普段は粗食なもので」
ウィリアは全面的に乗り気だ。まぁ、せめて今日の食事は存分に楽しんで帰っていただいたらいいだろう。
……その後は悪いが知らんぞ。
いや、逆にもしかするとハマりすぎて週一で通わされるのでは、との可能性に思い至り、ちょっと気が重くなってきた。
……あれ、俺ひょっとしてやばくね?
とりあえず考えても仕方のないことと割り切って、領都の通りを歩く。
「この辺も随分綺麗に整備されたんだぜ」
「そうなんですか? あたし、領都なんておっきな街に来たの、はじめてで。こんな感じに綺麗なのが普通なのかと」
I.D.E.A.の面々がよく行き来をする、空港と総督府間の通りの整備が必要だが、そちらばかりピカピカになっては市民の反感を買う……という理屈で整備された中央大通りの再整備は、領都の市民からは好評だと聞いている。
実際、荒れが目立っていた石畳は周辺の職人を集めて集中整備し、今ではほとんど元の美しさを取り戻している。
街のあちこちに点在する広場には花壇が作られ、ベンチが並び、周辺の都市からの荷物を運ぶ荷馬車もよく通り、活気が溢れていた。
通りには、新鮮な野菜や果物、衣類や革製品を売る小さな店も数多く並んでいた。質実剛健が地域柄のザッフェルバルとはいえ、領都ともなればさすがに賑わいにあふれている。
ウィリアもそれらの商店をひやかしながら嬉しげに辺りを見回している。
「いいですね。なんだか、歩いてるだけで楽しくなります」
くるり、とウィリアの笑顔とともに質素な生地のスカートが翻り、直哉はまあ、休日に出てきただけの甲斐はあったかな、などと思うのだった。
*
……よし。うまくやれてる。
ウィリアは内心で自分を奮い立たせる。相手の反応は上々。自然に会話ができている。
このままひたすら相手をもてなし、かつウィリアの身の上話などを交えながら、まずは相手の信頼を得る。
可能であれば話の流れで、少しでも情報を引き出したいが、今はそこまでは望まない。
「私のいた村はちっちゃい村だったんですけど、ナオヤさんの生まれ育った場所って、どんな感じだったんですか?」
「俺は――なんていうかな、君には説明が難しいかもだけど」
「難しくてもいいです。教えてください」
「そうだな。……ここよりもっと整って清潔だったけど、ここよりずっと狭くて息苦しい場所、かな」
「……なるほど」
そういう概念的な話でなくて、と愚痴りたくなる心を抑え、ウィリアは相槌を打つ。
じゃあ、と頭をひねり次の質問。自然に、あこがれの異人に、好奇心が抑えられない普通の女の子の目線を意識しながら。
「イデアの人たちのこと、総督府ではかみさまって言う人もいるんですけど……本当のところ、どうなんですか?」
「かみさまではないよ。君たちと同じ人間だ」
「じゃあ、あたしを助けてくださった巨人は、どうやって操っていらっしゃるんですか?」
「どうやって、か……たくさんの人間が協力して、俺の意志に従って動くように組み立ててあるから、かな」
「…………なるほど?」
どうにもうまくはぐらかされる。もしくは、相手とこちらの前提知識が違いすぎると見られていて、説明しようがない、というべきか。
「わかんないよな。俺も正直あのデカいのがなんで動いてるのかなんてわっかんねぇ」
「あははっ。なんですかそれー!」
……いや、この人があんまり何も考えてないだけか……?
とはいえ変に突っ込んでいって怪しまれることは避けたい。
まずは、彼と対等に会話をしてもらえるように。そのためには、
「……えいっ」
ウィリアは、ナオヤの腕に両腕でしがみついてみた。
「のわっ!? 何だ急に」
驚きのけぞろうとしたナオヤの腕をがっしり掴み、胸を押し当てつつ、上目遣いでウィリアは言う。
「お腹がすいたので早く連れて行ってください。ナオヤさん」
「……お前、意外といい性格してるよな」
悪態をつくナオヤ。だが、ウィリアが表情を伺う限りでは、本気で嫌がるそぶりは見えない。照れているだけだろう。
「ふふ。お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてねぇ」
「ほらほらー。あたし、場所わかんないんですって」
「あーもう、くっつくな歩きにくい!」
こうしてウィリアは、ナオヤの顔色を伺いながら、道中はしばらくナオヤにじゃれつきながら歩くのだった。
*
「おぉ~……」
領都ザッフェルバルの中央大通りに面した飲食店。その一席に腰掛け、目の前に運ばれてきた料理を前に、ウィリアは思わず感嘆の声をあげていた。
ナオヤの勧めで、サンドイッチなる食べ物と飲み物の組み合わせを注文したが、小綺麗な皿に整った料理が載せられており、どれも美味しそうだった。
給仕の女性らしき人間の所作も、肩肘張らない程度に適度に洗練されており、店内の小綺麗な雰囲気とあわさって一貫した雰囲気作りの哲学を感じる。
……意外に手がかかっている。
自分たちが総督府の偉い方へあれこれ気を回しているほどではないものの、その辺の屋台や酒場とは一段違ったもてなしに、ウィリアはただならないものを感じる。
ナオヤの口ぶりでは、彼らの中でも酒場よりは上等な部類に入る店のようだが、テーブルマナーを求められなかったり、使用人の身分で入ることを許されるところを見ると、貴族階級向けというほどでもない。
イデアの階級区分についてはまだ十分に情報がないが、都市の市民であれば利用可能な程度の店ということなのだろう。
しかも、
「美味しい……!」
「だろ?」
この“サンドイッチ”なる食べ物。普段口にしている食事とは天と地ほども違う。
「これって、どうやって作ってるんですか? お肉と、野菜と……」
「そうそう。ハムとレタスと、挟んでるのはパンだ。あ、そっちのは卵を挟んでるやつな」
「パン……? これが……?」
言われて目を疑う。向こうの翻訳がおかしいのだろうか。
総督府で食べている黒くて硬い帝国麦を焼いた塊とは天と地ほども味わいが違う。柔らかくほのかな甘みすら感じる、口当たりのいい生地。
「ああ。俺らのとこの、って感じかな。多分帝国にあるパンとはちょっと違うんだろうな」
「ははあ……あむ……んぐ、美味しい……」
口の中で繊細な味が踊り狂い、ウィリアの思考を押し流していく。
……あ、ちょっと泣けてきた。
正直、いま人生で一番美味しいものを食べているのではないかとウィリアは自分の生涯を振り返る。
訓練で空腹の時に、師匠から与えられたたっぷりの干し肉、のような、環境や場面を抜きにした単純な“味”では、おそらく一番。
……ろくなもの、食べてこなかったから。
ウィリアのこれまでの生涯は、生まれの家から棄てられ、師匠に拾われ、過酷な訓練の日々を経て、そのままこの任務だ。
総督府のまかないでもかなり上等な食生活をしていると思っていたが、
……別格……! こんなの、別格過ぎる……!
ちらりとナオヤの様子をうかがえば、目の前の男は特に感動した様子もなく、慣れた様子でナイフとフォークを使い、サラダをぱくりと口に運んでいた。
イデアではこういうものが普通に食べられるのだろうか。
……なんだろう。少し、悔しい。
そんなもやもやも抱えつつ、ウィリアは一口一口を大切に味わっていった。
*
一通り食事を終えて、“コウチャ”なる飲み物を味わいながら、衝撃的な食事からなんとか立ち直ったウィリアはおもむろに口を開く。
「ナオヤさんは、こういうところ、よく来られるんですか?」
さっきは食事に意識を持って行かれたが、食べ終わってしまえばこっちのものだ。
……ここからが本番。
「んー? いや、最近はさっぱりだな。訓練ばっかで船の中に引きこもってばっかりだから」
「訓練って、どんなことをされてるんです?」
「身体を鍛えるとか、あの巨人を動かす練習とかだな」
「すごいですね……! やっぱり、兵士さんって、常日頃から鍛えているから、いざというときに頼りになるんですね」
……訓練の積み重ねがものを言う世界なのは、この人も一緒なのか。
かくいうウィリアも地獄のような時間を師匠とともに過ごし、今この場にある。それはわかる気がした。
「ははっ。うちは上官が化物だからな。人間の身じゃついていくのがやっとさ」
上官、という言葉をウィリアは聞き逃さなかった。
「化物って、その上官さんはどんなお方なんですか?」
「なんつーかな……見えてるものが違う。おんなじものを見てるのに、あの人は俺の何十倍も情報を読み取ってる。しかもあの人は理屈じゃなくて才能と勘でやってるから、本人にやり方を聞いてもどうにもなんねぇ」
それに、とナオヤは続ける。
「あの人は何をやるにも精度も段違いだ。普通、死ぬほど特訓してやっと十回に八回成功するような技を、涼しい顔で十回とも綺麗に成功させる」
「それは……化物ですね」
ウィリアは思わず同意した。
人間何かしら失敗はつきものだ。上がそれを理解しているかどうかは、仕事のしやすさに直結する。
師匠からもそう教えられた。人間は、竜人は、翼人でさえ、常に正しい行動ができるわけではないと。
だから、他人は失敗するものだと思って使え、と。悪意ある誰かだけでなく、悪意なき誰かに足を引っ張られる可能性も忘れるなと。
「そういうひとって、失敗したらすっごく詰めてきたりします……?」
「いいや。基本は何考えてるかわからん顔で『次は頑張りましょうね』って言われるだけ。たまに『本番は失敗できませんからね』って言われるけど」
「……それはそれでつらいですね」
今のウィリアにとっての総督府の使用人業のような、腰掛けの仕事ならそういう扱いは楽だろう。だが、密偵のような自分の人生を賭けるような仕事でそういう言い方をされると地味に堪える。
「ああ。だから余計失敗できねーんだよな。最近は本番もちょいちょいあるし」
「本番って、私を助けてくださったような?」
「おう。本番は、一手判断が遅れたら人が死ぬ、少し手が滑れば民間人を巻き添えにする、なんてのは普通にあり得るからな」
「大変なお仕事ですよね。尊敬します」
そう言ってウィリアは微笑む。不覚にも、本心に近い言葉だった。
場所は違うとは言え、失敗の許されない高度な仕事に就くもの同士の共感、というのだろうか。
「まあな。でも、それを言えば君のとこの仕事も大変だろ」
「……えっ」
ナオヤの言葉に一瞬虚を突かれるウィリア。
「君の仕事は、総督府全体のお世話係みたいなやつだろ。客分の俺らも含めて、みんなの面倒を見てくれていつも助かってるよ。ありがとうな」
お世辞にお世辞を返されるのは、真っ当同士で同士のやりとりの中でなら 当然生じるはずのやりとり。
なのに。
ウィリアの中で閉じ込めていたものが、
「――そうなんですよ、もう」
不意にあふれて、
「人手は多いのに仕事しないやつばっかりで、結局ほっとけない性分の子たちばっかりが無駄に働かされるし、メイド長のくそババアは仕事しない割にしょうもない失敗を見つけてはぶちぶち言ってくるし、仕事しない連中は仕事しないから失敗もしなくってほったらかしだし、結局頑張っていっぱいいっぱいになって失敗しちゃう子だけ詰められるっていう――」
あっ、と思ったときには既にナオヤはぽかんとした表情を浮かべていた。
「……えっと、まあ、その、何というか……みんなお仕事大変ですよね、っていう……」
あはは、と照れ笑いを浮かべながらごまかすウィリア。
……ああ、もう。なんでこうなるのかしら……。
使用人の同僚でない人間に自分の仕事をねぎらってもらえたのが初めてで、つい口が滑ってしまった。
……とはいえ、密偵仲間に愚痴るわけにもいかないし。
潜入先では、偽装の職責も含めて日々の生活そのものが仕事だ。変に愚痴れば今以上に信頼を損なうかもしれない。
ただでさえ、メネットとかいう先輩には目を付けられているようだし。
「すみません。私のことはお気になさらず……」
「いいや、いいんじゃないか。愚痴上等。そういうの、抱え込むと身体によくないぞ」
あまりにも自然に受け入れられてしまい、ウィリアはまたぐらりと心が揺らぐ。
……ぁああ! だめ、揺れるなあたし!
つい、その誘惑に乗ってしまいそうになるが、ウィリアはぐっとこらえ、どうにか話を戻す。
「そ――れより、ナオヤさんのお話もっと聞かせて欲しいです。それこそ、愚痴とかないんですか?」
「愚痴かぁ。さっきの頭おかしい上官の他はあんまりないかな。なんだかんだで楽しくやってるし」
「じゃあじゃあ、楽しいお話を聞かせてください。イデアの人たちって、普段どんな遊びをされてるんですか?」
「…………。俺はだいたい休みの日は自主練だなぁ」
「……それ、さっき聞きました」
「いやほんと。楽しいぞ。昨日の自分を超える瞬間とか」
「わかりますけどね!?」
……駄目だこの人。
「ま、その辺は本当として……。俺らの楽しい話っていうと、例えばこの間あけぼしの甲板で焼き肉やった話とかか?」
「あ、そうそう! そういうのです 聞かせてください」
*
ウィリアは適度にナオヤをおだてながら、雑談を続けた。
彼らの生活の様子を興味津々な様子で聞きながら、イデアの文化や風習の話など、自然な話の流れを意識しながら未収集の項目と裏取りが必要な項目を埋められるよう、意識しながら色々と聞いた。
そこから少しずつ、ナオヤの生活習慣から普段暮らしている場所に話を繋げていき、ついに空船――“かげつ”の話にたどり着いた。
ナオヤは領都郊外に鎮座する“あけぼし”ではなく、その中に積んできた“かげつ”に乗っているのだという。その空船は、ザッフェルバル領内を警戒し、必要に応じて武力を行使して危険を排除する役目を負っているのだという。
「まあ、たまに訓練で“おおとり”に行くことはあるけど、だいたいかげつだなぁ」
さらには“おおとり”。その名が出た瞬間、ウィリアの心臓が跳ねた。
……来た!
領都の人間から、『“おおとり”の準備にイデアの人間が駆け回っていた』とか、『誰々が“おおとり”に用事があって不在』という噂話でのみ存在が示唆されていた“おおとり”。
ウィリアは動揺を悟られないよう、自然にナオヤへ問いかける。
「……おおとり、って。たまにイデアの方が話されているのを聞くんですけど、どんなところなんですか?」
「ああ、おおとりな。簡単に言えば、かげつのでっかい版みたいなやつだよ」
かげつのでっかい版。つまり、空から地上を見張る船、その大型のものということだろう。
おおざっぱなナオヤの表現から、ウィリアは慎重に次の情報をたぐり寄せるよう、問いかけを重ねる。
「かげつはたまに地上に降りてこられますけど――ほら、あけぼしの中に入っていくの、見たことあるんですよ。ああいうのって、ないんですか?」
「あー、でかすぎて無理。少なくともまともに地上に降ろせる代物じゃないぜ。というか正直整備とかどうすんだろうなって俺も思ってる」
「そんなに大きいんですか……」
「単純に比較はできないけどな。あけぼし並か、それ以上じゃないか」
「とんでもないですね……」
かげつと同じ役割を与えられた、あけぼし並の空船。
しかもナオヤが『どうやって降ろせばいいか』と言う以上、通常は地上に降ろすつもりはないということだ。
「そんな大きな船、どこから用意されたんですか?」
「ああ、西の海を渡った向こうにまた別の大陸があってな。そこで組んでたみたいだ」
「西に……?」
さすがに、ウィリアも素の驚きを隠せなかった。
自身の想像を遙かに超えた言葉に、呆気にとられたと言うべきか。
……そんな場所があるなんて、帝国の、本国でも、誰一人だって知らない。
「ま、俺も行ったことないけどな」
「……わたしは、行ってみたいです」
「お、工場とかとか興味あんの?」
「いえ、そういうわけではなくてですね」
無論、密偵としてのウィリアは“工場”なる場所に入れるならば詳細に記録を取って本国に送りたいのだが、そこはいま演じている“村娘にして下女のウィリア”として否定する。
「なんというか、私が育った村って、そこだけですべてが完結していたんです。きっと、あの事件がなければ、一生村から出ることはなかったんだろうって、今もたまに思います」
事前に作成された人物像をその身にまといながら、ウィリアは語る。
「次々に新しい場所を見て、知らない人に会って――目が回りそうになるときもあるけど、私の生命って、これからはそういう風に使うべきだって、神霊のお導きがあったのかなって、今は考えています。だから」
だから。村娘と密偵、ふたりのウィリアの望みの自然な一致点を口に出す。
「ナオヤさんの言葉も学んでみたいし、ナオヤさんの故郷にも行ってみたい。まだ見たことない、西の土地にも」
「……なるほどね」
「よろしくお願いしますね。ナオヤさん」
「無茶言うなぁ」
「いきなりどこか連れてってください、とかは言わないですよ。まずは、言葉を教えてほしいです。そうすればきっと、ナオヤさんたちのこと、もっと知れるかなって」
「……あー、まあなんだ。……期待はすんなよ?」
「ふふっ。楽しみにお待ちしてます」
ウィリアは自然に、心からの笑みをナオヤへ向けていた。
*
気づけば日が傾き、今日はそろそろ、とはじめてのお茶会はお開きとなった。
ナオヤに総督府まで送り届けられたウィリアは、浮き足立ちそうな心を抑えながら、廊下を歩いていた。
取れ高は上々。ウィリアは確信をもって頷いた。
得られた情報は様々。新しいものも山ほどある。他の情報との照合、精査は必要だけれど、敵の輪郭を掴む糸口になるはずだ。
そして、もう一つの目的。敵の戦士階級――巨人の操り手との関係構築。その目的も、十二分に果たせたと言っていい。
情報収集は長期戦。情報源からの信頼を得られなければ戦いの舞台にも上がれない。根気強くやっていくしかないのだ。
……信頼。そう、信頼。信頼を得るため。
美味しかった、楽しかった。心の表層に浮かぶその感情は間違いではない。相手と楽しい時間、感情を共有すればこそ、より強く相手から信頼を得られるのだから。
それは自然な反応。だからこそ、その楽しさに引きずり込まれない強さが必要なのだから。
……できる。あたしは、やれる。
ウィリアはもう一度小さく深呼吸。そして帰り着いた自室の扉を開いた。総督府の下女のウィリアとして。




