<宇宙開発>
もう地球は駄目かもしれんね。
国連がようやく調整をつけ、世界中の資金を集めて赤道直下に軌道エレベータを建設した時、さあ、これから人類は宇宙へ旅立つんだ! と大勢の人は思っただろう。
勿論私も見たことの無い宇宙という世界に希望を感じてしまった一人だ。
それから数年後、貧困にあえぐ国は相変わらずそのままで、先進国と呼ばれる国は宇宙開発という希望に満ちていた。
苦しい生活を強いられているものにとって地球上のほぼ何処からでも見える巨大な軌道エレベータはどういう風に見えていたのだろう?
先進国の富の象徴に見えていたのかもしれない。
宇宙開発で一番コストがかかるのは地球から宇宙への物資の輸送だ。
旧来のロケットを使用しての方法だと1トンの資材を宇宙に上げようと思うだけで頭がおかしいんじゃないか? といわれるほどのコストがかかることはご存知だろうか?
その点、軌道エレベータならその名の通りエレベーターなので比較にならないほど安価に資材を宇宙へ運ぶことが可能になった。
まあ、エレベーターと名前は付いているが実際に乗るのは列車のような物なのだが。
しかし、宇宙開発が軌道に乗れば間違いなくますます経済格差は開くと思われ、当然のようにそれを快く思わないものたちも居た。
そして結果としてテロが実行され、軌道エレベータを宇宙へと固定しているカウンターウェイトが切り離されてしまった。
どのような警備体制の隙を付かれてこの事件が起こったのかはすでに知る方法が無い。
なぜなら何もかもが軌道エレベーターと共に粉々になってしまったからだ。
カウンターウェイトを失った軌道エレベーターはその身をくねらせながら、地球の自転に巻き込まれる形で墜落した。
本来なら倒壊が始まった瞬間に最小の部品単位まで自己崩壊し被害を最小に食い止める安全機構が組み込まれていたはずだが、テロリストが何かをしたのかそれとももともと手抜きでもあったのか、安全機構は作動しなかった。
軌道エレベータの残骸は赤道方向に対してぐるっと地球に巻きつく形で破壊を撒き散らし、海に落ちたものは大津波を引き起こし、エレベータの下敷きになった島々は壊滅的なダメージを受けた。
特にカウンターウェイトと接続されていた部分、つまり、地球から一番遠くにあった部分の加速は物凄く地球に接触した時点で核兵器以上の破壊を撒き散らした。
比較的被害が少なかった国もさすがにもう一度軌道エレベータを作る余力も作りたいという意思も持てず、現在までに軌道上に上げた資材で今は何か別のことをしているようだ。
人間が人間を信じることが出来ないこの世界、もう行き着くところまで多分行き着いてしまったのだろう。
厭世的といわれるかもしれないが、最近の暗いニュースを見ているとどうしてもそういう方向に心が向いてしまう。
明日の人間ドック行きのことを思い出して、いまさら健康に気をつけてなんになるのかね? と苦笑してしまった。
気分転換にVRのゲームでもしてすっきりしますかねー。
何か新作でも出てないかな?
そんなことを考えながらネットを見ると、人類の希望として他の惑星を地球と同じように改造してそこに第二の地球というようなものを作る計画が発表されたようだ。
コレが多分軌道エレベータで上げた資材の行き着く先なんだろう。
「ほー」
久々の明るい話題だったので、これはいつごろ完成してどうやったらいけるんだろう?
と思って調べてみると、ばかばかしいことに生身の人間はそもそも無理らしい。
というのも、まず、対象にしている星が少なくとも太陽系外であり、どんなに短く見積もっても片道の移動時間だけで残りの人生以上かかってしまうというばかげた計画だったからだ。
じゃあ、どういうことなの? と思って読み進めていくと、データ化した地球上の全生命の情報をナノテクノロジーによって地球化完了後現地で再生するということだった。
「あほか。現代版ノアの箱舟かってーの」
あまりにあほらしい話だったので思いっきりスルーしてしまった。
――翌日
予定通り定期の健康診断で人間ドックへ行った際、医者から今回は追加でひとつ検査項目が増えたといわれた。
それはVR技術に関する適応性の確認という、よく分からないが仮想的に構築された特殊な環境をどう受け入れるかを調べるための検査だという。
今後、地球環境が好転することはまず無いので、人は仮想現実をはけ口にしてストレスを解消するようになっていた。
仮想の世界なら豊かな自然や澄んだ青空、今では動物園くらいでしか見かけない動物達とも触れ合えるからだ。
仮想世界に家を持ちそこにペットを飼う様な利用者も多い。
ただ、仮想現実に浸りすぎると現実との齟齬を受け入れることが出来なくなるケースがあり、その場合重症者はそのまま仮想現実から帰ってこずに接続したまま衰弱死してしまうというケースも発生していた。
今回の検査はそういった予兆が無いかを深層心理を検査することによって事前に調べ、必要ならカウンセリングを行うというものだそうだ。
この検査は全ての人に対して行っているものではなく、過去にVR環境を利用したことがある人間の中から無作為に少数の人間に対して行っているということだ。
まだ試験段階の検査でもあるので費用に関しても発生しないということだったので特に断る理由も無く検査を受けることにした。
VR環境を使ったことがない人間なんていまどきいるのかね? と思ったが、赤ん坊くらいならいるかもな? とも思った。
それが、覚えている最後の記憶だった。