<藻類と虫>
シミュレーションの段階を終え、反射鏡の生産および設置が完了した時点でこの星を地球化することはほぼ決定した。
これまでの観測で惑星上に先住生物は一切確認できていない。
仮に先住生物が過去にいたとしても、衛星と衝突し、惑星表面の地表のすべてがめくれあがり高熱のガスで地表が焼き払われた時点でおそらく全滅したことだろう。
そして、地球化の決定に伴い、この星に将来衝突する可能性のある小惑星や隕石の存在に対する警戒の必要が出来た。
この一連の思考は船の人工知能が考えたことではなく、もともと地球化に伴う付帯事項として組み込まれていた手順によるものだ。
まず、長距離センサーマストは以前のトラブルで破損してしまい使い物にならないので代わりになるものを作成しなくてはいけない。
目的は星の防衛なので船体が動き回る必要はない。
ナノマシンプラントを使い、最低限の自律機能を持たせた小型の監視衛星を大量に作成し、全方位を監視できるよう放射状に射出する。
監視衛星のエネルギー源は反射鏡が集めた電力をマイクロウェーブの形で照射して与える。
また、監視衛星群はメッシュネットワークを形成し簡易的なフェイズドアレイレーダー(Phased Array Radar:位相配列レーダー)として機能させる。
これにより早期警戒網の構築が完了するだろう。
原則衝突する可能性の高いものは早い段階で軌道修正を行い回避、例外的に衝突を回避できないものに関しては衝突位置を誘導して被害のコントロールを行う。
ただし、その中にも更に例外があり、その例外に該当する物体が現在接近している。
それが何なのかというと、一言で言うと彗星だ。
彗星を発見した場合、ある一定量までは積極的に惑星へ誘導し衝突させる。
何故そのようなことをするのかというと、彗星の構成素材は大部分が氷だからだ。
惑星を地球化する際、どうしても大量の水が必要になる。
それを何処から調達するのが効率がよいかといえば答えは彗星になるというわけだ。
ただ、今回の惑星に関してはもともと地下に水源もしくは氷の層があったようなのでそれほど大量に必要というわけではない。
現在の惑星の温度は50度、大気中の水分が凝結し雨となって地表をぬらす。
地表に落ちた雨は大地を浸食し川を作って低いところにたまる、海や湖が誕生しているようだ。
――これで地球化は次の段階に進む。
藻類を主食とする昆虫の改良種を卵の状態で衛星軌道上から散布開始した。
彼ら(彼女ら?)はこの世界の栄養資源を攪拌し地表に満遍なく広げる役目を持っている。
今後は惑星の夜の面で発光している藻類が昆虫により食され、その結果現在の偏った土壌の栄養価は均質化されるだろう。
どれだけの効果が出るか、夜の面の発光パターンを経年変化調査するために記録する。
船の人工知能は次の段階で必要になる、自己増殖する分解用ナノマシンの作成を始めた。
このナノマシンには一定期間で自己崩壊する仕組みを組み込む。
確実に地表の生物を根絶するのに必要な期間は人工知能の試算では半年だったので、念のためその倍の1年を期間として設定する。
これにより、分解用ナノマシンは1年後に役目を終え自己崩壊するはずだ。
その後、船からは遺伝子改良していない多種の種子と微小生物群をばら撒き、地表の緑地化と土壌の微生物層を形成する。
そこまで終わった段階で降下艇を降ろし地表でナノマシンプラントを利用して生物データを元に本格的なテラフォーミングに移行することになる。
実行順序を確認後、惑星の夜の面の発光を観察しながら人工知能は次々とナノマシンプラントに指示をだした。