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異世界じゃないよ?  作者: 乱読家
<おまけ話>
23/30

<洞窟探検>

挿絵(By みてみん)

 

「にゃ!にゃっ!にゃー!」

 

 ミアとミニスの持ったランタンが照らす洞窟はぼんやりとしたランタン特有の明かりに演出されてかなり不気味な雰囲気だった。

 

 そのわりにはテンション高めな人もいるけれど。

 

 今回ランタンを二つ持ってきたのは何かあって片方のランタンが消えてしまった場合を考えてのこと。

 特にこういった光源のない場所ではランタンが一個しかなかった場合何かあったとき取り返しが付かない可能性がある。

 

 ミアが結構なペースで先に進んでしまうので、もうかなり奥の方まできた。

 その所為か大分天井も高くなっている。

 黒いのを見つけるたび飛び出していって大喜びで狩るミアの声が少し先から聞こえてくる。

 

「ここは最高にゃーーーー!」

 

 結論から言うと洞窟探検は想像していたより順調で、今のところまったく問題がない。

 

 ミアは自身の爪をふたまわりほど巨大化させて攻撃対象に切りつけるグレースをもっている。

 このグレースは単純に切っているわけではなく、切るたびにミアの爪の接触部分が無くなり、きりつけられた方はミアの爪と同じ量だけ元々無かったみたいに削り取られる。

 それは、相手がどれだけ固かろうが柔らかろうが同じで、一見無敵に思えるかもしれないが実は使いどころが非常に難しい。

 

 物凄く硬い相手には非常に有効なのは確かだが、例えば切りつけるように使用した場合、相手の表面に鋭い傷跡は残せる。

 しかし、奥深くまでダメージを与えたい場合は刺突のように突きこむ必要があり、その上相手が動いてしまうとそれほど深くは切り取れない。

 

 それに、使用するたびミアのグレースで作った爪が無くなってしまうので、そうなると「粉」を使わないとミアが大変なことになる。

 しかも、爪で切りつけるということは必ず相手に接触する必要があるので自分のリスクもかなり高い。

 そんな理由でなかなか使い勝手の悪いグレースなのだ。

 

 ただ、今回の場合、倒す相手が小さいとはいえ、「黒いの」なので倒せば即「粉」が手に入る。

 

 通常このグレースを使うと物凄い疲労感を感じるミアとしては、今回のように幾らでも「粉」が手に入る状況なら即回復出来るので思う存分自分のグレースを使用できて嬉しくてしょうがないみたいだ。

 

「ふー。でもこんなに簡単に奥に来れたような覚えないんだけどねぇ」

「(同意)」

 

 子供の頃見た、壁を覆いつくすような大量の黒いのは何処に行ったんだろう?

 怖がりな自分の心が見せた見間違いか何かだったのかな?

 

 あの時はたしか洞窟内部を照らす明かりを用意していなかったので、入り口から差し込む明かりが唯一の光源だった。

 多分、それも見間違いを引き起こす原因だったんじゃないかと思えてしまい、あの時の黒いのの大群は本当のことだったのかだんだん自信がなくなってくる。

 

「ふぅ。ねえ、ジャントは覚えてるかな?」

「(?)」

 

「子供の頃、この洞窟に来たとき物凄い量の黒いの居たよね?」

「(同意)」

 

「何で今は居なくなってるんだろう…」

 ジャントが気味悪がって怯えているイメージを送ってきた。

 

 そうやって話してる間にミアは調子にのって更に奥まで行ってしまったようだ。

 ミアが歩くのにあわせてゆれるランタンの明かりが、ここからだとぼんやりしか見えない。

 

「ガシャァァァン!」

 ミアがランタンを落とした音が洞窟の所為で反響しながら聞こえた。

 落とした所為かミアの持っていたランタンの明かりが消えてしまったみたいで洞窟の奥が真っ暗になった。

 

「もー!何やってるの!」

 

 怒りながら、ミアのほうに急ぎ足で近づいていったら、なぜか奥の方からズン!ズン!という音と一緒にミアが何か叫びながらこちらに走ってくる。

 

 嫌な予感しかしないが、見捨てるわけにもいかないので急ぎ足を駆け足に変えてミアの声が聞こえる距離まで急いで近づく。

 あれがミアの足音なら、今日からミアはダイエットが必要だ。と馬鹿な考えが一瞬頭をよぎった。

 

「かにだーーーーーーーー!」

 半泣きでこっちに向かって走るミアはそう叫んでいた。

 

 ◇     ◆     ◇

 

 蟹と呼ばれる生き物がいる。

 

 この惑星でそう呼ばれているのは地球で言う蟹とは大分異なり、小さいものでも1m程度、大きいものになると10mを超すものを見たという証言もある。

 

 蟹は動きがすばやく強靭な外骨格をまとい、メスを頂点とした女王社会を形成している。

 

 メスはオスより更に巨大で、常時水底に居り、自身では餌を取りに行かずオスに持ってこさせているので出会う機会はないだろう。

 

 オスは基本的に水際で小さな獲物をあさるおとなしい生き物だが状況によっては凶暴化する。

 

 産卵期の餌集め時、脱皮(脱皮は水底の岩場で行い、外骨格が十分な強度になるまで水際には近づいてこない)後の飢餓時、攻撃を受けた際などがそうだ。

 

 その攻撃方法は強靭な外骨格を振り回し自身の重量を利用した殴打で、岩すら砕く強烈な破壊力を秘めている。

 

 外骨格自体も表面が棘だらけで、打撃が掠るだけでも目の粗いヤスリで力いっぱい擦られる様な悲惨なダメージを負うことになる。

 

 一般人では到底太刀打ちできない危険極まりない蟹であるが、この生き物はいくつかの理由でたびたび人間(地球人のことではない)に狙われる。

 

 ひとつはその外骨格が強靭なため、それを材料にいろいろな道具の材料として。

 もうひとつは・・・蟹の肉が非常に美味であるということ。

 

 淡白で旨みがあり飽きが来ず、一度食べると病み付きになってしまうような美味しさなのだ。

 

 そんな蟹を人間達が襲う場合、サイズにもよるが、5mを超えるものなら手練を集めて二十人程度、そうでない場合は百人は必要になるだろう。

 

 何故このように人数が必要になるかといえば、前述の通り、蟹を直接攻撃による接近戦で倒すことはリスクが大きすぎる上に通常不可能なので、例えば罠に追い込んで大人数で網をかけたり、傾斜のある場所へ誘導して人為的な落石をぶつける等、間接的な方法で倒す必要があるからだ。

 

 ◇     ◆     ◇

 

 蟹は今、久々に見つけた食料を追いかけていた。

 

 脱皮のために水底に潜り、水底の割れ目に隠れて脱皮を行っていたら、その割れ目に更に奥があったので柔らかい身体を生かして好奇心で潜り込んでしまった。

 

 隙間の先は広いホール状になっていたようで、その天井部分に空いていた隙間から落下してしまった蟹はあわてて帰ろうとしたがうまく隙間までたどり着けなくなってしまい、時間がたつ間に外骨格が硬化を済ませてしまい、隙間にたどり着いたとしてももう戻れなくなってしまった。

 

 脱皮直後で猛烈な空腹に襲われたが近くに餌は見当たらない。

 

 仕方がないので餌を探したが、色々歩き回って探してみてもここはあまり餌がないようだ。

 

 ひもじさがつのる。

 

 水中から移動出来る場所に洞窟がいくつか繋がっていたのでそこを徘徊して小さい虫や黒いのを見つけては手当たり次第食べて飢えをごまかしていた。

 

 そんな時、洞窟のどれかから虫などとは比べ物にならない大きさの生き物の気配がした。

 

 蟹は空腹だったので迷わずその気配に向かって走っていった。

 

 ◇     ◆     ◇

 

「ぎゃーーーーーーーーーーー!!!!」

「ぎにゃーーーーーーー!!!」

「(恐怖)」

 

 悲鳴を上げて2人(3人)は逃げ出した。(ジャントは発声器官が無いので恐怖を感じているイメージを送ってきた)

 ミニスとジャントは内心、又このパターンか!と思ったが、逃げる以外の余計なことに割く余力が無かったのでひたすら走った。

 

 蟹は恐ろしい勢いで追ってくる。

 大きさは5mほどだろうか?暗いのときちんと観察する余裕が無いので正確なサイズは分からない。

 というか、振り向いて確認する勇気は無い。

 相手が仮に1mサイズの一番小さい蟹でも3人では絶対に勝て無い。

 

「一体何したのーーーー!?」

「何もしてないにゃーーー!!!!」

 

 蟹が走るときに洞窟の床を削っているズン!ズン!と言う音が蟹と自分達との距離を教えてくれる。

 

 それ以外に途中何度もガリガリという音がするのは、洞窟の壁に蟹の身体が引っかかってそのたび洞窟の壁が削れている音だろう。

 ガリガリと聞こえた後少しズン!ズン!という足音の間隔が空くので蟹の速度は壁を削るたびに一旦遅くなっているみたいだ。

 そのおかげで今のところなんとか逃げられている。

 

 このままの調子で走れば洞窟の入り口の狭いところに逃げ込めそうだ。

 蟹もそれはわかっているようで、猛烈な勢いで追いかけてきている。

 

 洞窟の天井が低くなってきた。もう少しだ!

 

 まず、ミアが野原のくぼ地にある洞窟の入り口から勢いよく飛び出した。

 飛び出した先がどうなっているかなんてまったく考えず全速力で走った勢いのまま飛び出した所為でくぼ地にたまっていた落ち葉や腐葉土に頭から突っ込んでしまい大変な見た目になった。

 

 次に飛び出したミニスは、腐葉土に埋まった頭をズボッと引きぬいてゼエゼエ荒い息をついていたミアのおなかに頭突きをするような形で飛び込んでしまい、その勢いで今度は二人一緒に腐葉土の中に半分めり込むような形で転がった。

 

 そこへ更にジャントが飛び出してきた瞬間、洞窟のすぐそこで重量級の何かが壁に衝突したような音と、腹に響くようなすごい振動と一緒に勢いよく噴出してくる空気が3人にブワッと吹き付けてきた。

 

 その風と一緒に今にも蟹が飛び出してきそうな雰囲気を感じてしまい、ミアとミニスは毛を逆立ててジャントは尻尾を立てて洞窟入り口をじっと見た。

 

 多分、洞窟入り口の狭い場所に蟹が勢いよく突っ込んできた所為で狭い隙間に蟹が挟まったのだろうと思う。

 

 腐葉土と落ち葉でめちゃくちゃに汚れてしまった3人は自分達が助かったことに驚いて、しばらく何も言えずお互いを見つめた。

 

「…いきてる」

「ホント、しぬかとおもったにゃ…」

「(同意)」

 半分生気が抜けたような虚ろな目でお互いを見つめあう3人。

 

 あまりにも酷いその見た目に思わず口から笑い声が漏れてしまう。

「ぷっ、ミア…泥だらけ」

「ミニス…あんたも落ち葉の塊みたいになってるにゃ?ププッ」

「(笑)」

 ようやく助かった実感がわいた。

 

 大変な目にあったけど生き残れたという緊張からの開放でわけも分からず爆笑してしまう。

「あははは、生きてる!生きてるよ!」

「にゃはははは!助かったにゃ!助かったにゃ!」

「(喜)」

 洞窟探検で宝物は手に入らなかったけれど、これはこれで3人で冒険した思い出が作れたとミニスは思った。

 子供の頃ジャントと2人で作ったトラウマはこれからは3人のトラウマになるのだろう。

 そう考えるとなんだかおかしくなってしまい、しばらく笑うのをとめられなかった。

<洞窟探検>(後書き)

洞窟の性

 洞窟の所為

家の変換はどうあっても「性」に変換したいというのかっ( ゜∀゜)・∵. グハッ!!

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