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異世界じゃないよ?  作者: 乱読家
<おまけ話>
20/30

<神の恵み>

 自身が認識できる限界がその生物にとっての世界の全てである。

 

 この世界(星)に住む生き物は生まれた時から特殊な力を持ち、それをそうとは意識せず使っている。

 

 はるか昔一匹の蟻が獲得した不思議な力、ナノマシンネットワークとニューロンネットワークが相互作用を及ぼした結果、近い距離に居る親しいものとなら音声以外の方法でのコミュニケーションを可能にした。

 

 内容的には単純に、進め、戻れ、危ない、逃げろ等の漠然としたイメージが伝わるというものでしかないのだが、音を出したくない時には非常に重宝するうえ、発声器官(持たないものもいる)の違いで本来ならコミュニケーションが取れないような種族間でもある程度の意志の疎通が可能という優れものだ。

 

 それ以外にもこの能力のおかげで互いの位置がある程度感覚的につかめる。

 

 しかし、ナノマシンの制御に関しては、体内の保有ナノマシン量と本人の感覚的なナノマシンを制御する才能によるところが大きいので誰でも同じことが出来るわけではない。

 

 勿論彼ら(彼女ら?)自身ナノマシンを制御しているという意識は無いだろう。

 

 体感的には頭の中で強くイメージしたものを誰かがそばで聞いていてそれに手を貸してくれるような感覚らしい。

 

 その感覚の所為もあり、この能力はグレース(神の恵み)と呼ばれている。

 

 また、一度に大量のナノマシンを失うと重度の欝状態になってしまうので注意が必要だ。

 

 彼ら風に言うと、「グレースの使いすぎには注意しろ」ということになる。

 

 ◇     ◆     ◇

 

 宗教的な理由により、あまり仲のよくない犬人間と蟻人間の集落の丁度真ん中くらいに小さな野原がある。

 

 その野原の脇に普通に歩いていては見つけられないような窪地があり、そこにぽっかりと口をあけた洞窟の小さな入り口があった。

 

 狭い洞窟の入り口を外から、少しだけ差し込んでいる日差しを頼りに中を覗き込んでいる犬人間の子供が一人。

 

 子供はその場で振り向いて、後ろからおっかなびっくり付いてきていた同じく子供の蟻人間にもっとそばに来るように頭の中で指示をだした。

 

 本来交流することもあまり無いはずの「御神体持ち」の犬人間と「持たない」蟻人間の子供は、子供ゆえの偏見の無さでたびたび一緒に遊んでいた。

 

 ただ、今日はいつもの遊びとは違い、ちょっとした目的があって袋と、何かをつかむための棒切れを手にしていた。

 

 ◇     ◆     ◇

 

「御神体持ち」とは、この世界に複数存在する「神の祝福を受けた人間をかたちどった物体」(ぬいぐるみ降下兵が自壊した後、残された外装のこと)を差し、犬人間の御神体は当然犬のぬいぐるみの姿をしている。

 

 しかし、蟻人間達は高度な社会システムと文化を持っているが、種族をかたちどった御神体を持っておらず、神に祝福されていないとして御神体持ちの種族からは一段階下の扱い、または人間扱いをされないことが多い。

 

 その境遇を嘆き、蟻人間達は自分達の御神体を手に入れる。という悲願を持っている。

 

 そのために一定年齢になると巣から旅立ち御神体を探すという使命を女王から受ける個体がいるくらいだ。

 

 ◇     ◆     ◇

 

 今、2人が入ろうとしている洞窟は、村のはずれにある入り口の小さい洞窟で、大人はもとよりある程度育った子供でも入るのは困難なほど入り口が狭い。

 

 そこにあると知らなければ見つけることは困難だろう。

 

 多分近隣でも自分たち2人以外ではここを知っている人間はいないと思う。

 

 数ヶ月前の長雨の後、いつものように村はずれでこっそり合流した2人が野原に遊びに行く途中、犬人間の子供がぬれた葉っぱで足を滑らせてくぼ地に落っこちた時に偶然ここを発見した。

 

 その時知ったのだが、この洞窟には大人の握りこぶしサイズの小さくて弱い黒いの(異星起源のナノマシンのこと)が沢山いたのだ。

 

 大人たちには子供が洞窟のような危険なところに勝手に入ってはいけないといわれていたので今日までは近づくのを我慢してきた。

 

 しかし、ある理由で2人はここに来ることを決意した。

 

 勿論、暗闇の中で黒いものを見つけるのは容易ではないし、子供にとっては最小サイズの黒いのでも大変な脅威なのだが、得られるメリットを考えると十分つりあいは取れていると思う。

 

 通常、黒いのを倒すと後に黒い粉が残る。

 

 この粉を摂取するとなぜかグレースの能力が上がったり、グレースの使いすぎで半分死んだような状態になっているものに与えれば回復するということで何処の種族でも黒い粉は非常に高い価値を認められている。

 

 また、生まれたばかりの赤子にこの粉を与えるとその子が病気をせずにすくすく育つといわれている。

 

 実は数日前、犬の村で赤子が誕生したのだ。

 

 本来なら赤子の無事な成長を願って粉を与えたいのだが、小さな村の経済状態では高価な粉は望んでもなかなか手に入らない高級品であった。

 

 そして、折角見つけた黒いのがいる洞窟は入り口が狭いため村の大人では入れそうに無いが、村に生まれた子供は皆の大切な宝物だ。

 

 自分も何かをしてあげたいと思って思い出したのがこの洞窟のことだった。

 

 それに、地上で黒いのを倒した場合は粉末が風に飛ばされたり地面の土と混じってしまったりで回収が困難なのだが、地下はなぜかつるつるの硬い一枚岩のようになっているので倒した後でも回収が容易なのだ。

 

 それ以外にも、今回は取って置きの作戦と秘密の道具もあるのだ。

 

 大人に相談すれば絶対に行かせてもらえないことは分かっていたので、こっそり自分だけで行くつもりだったのだが、いつも一緒に行動していた友達にはすぐにばれてしまい、こうやって一緒に行動することになってしまった。

 でも、一人で行くことに不安もあったので犬人間の子供は内心少しほっとしていた。

 

 ◇     ◆     ◇

 

 彼らは知らないが、これはこの星に衛星が墜落した際に起こったすさまじい爆発により、墜落地点で核融合反応が起って発生した膨大な電磁パルスと熱量の所為で地下の氷の層が蒸発し、その際氷の部分が空洞になり周囲の洞窟部分がガラス化したうえ、ガス化して体積を増した水蒸気が出口を求めて荒れ狂った際、地表に向かって沢山の穴が開き、今回のような入り口を作り出した。

 

 入り口の大部分は、その後の舞い上がった土砂の降下により埋まってしまったが、雨水による浸食作用で再び地上と繋がった箇所もある。

 

 そしてクレーターは巨大な外輪山を形成し、中心部にはいまだに当時墜落した隕石の核に当たる部分が半分水没した状態で残っている。

 

 出来上がった地下の空洞部分はクレーターの中心部からの浸水で水没している箇所が多いがそれでも広大な地下迷宮を形成しているのだ。

 

 ◇     ◆     ◇

 

 洞窟の入り口をくぐってすぐ、目的の黒いのがさっそく居た。

 犬の子供は蟻の子供に袋の口を広げて持っていてくれるようイメージを伝え、自分は二本の棒切れを構えて黒いのに近づいていった。

 

 そして、器用に二本の棒切れで黒いのをつかむと、蟻の子供が持っている袋の入り口に放り込み、そのまま袋の口を縛って振り回し、袋ごと黒いのを洞窟のつるつるで硬い地面に叩き付けた!

 

 こうすれば黒いのを倒した後粉をかき集める必要もないし、取りこぼすことも無い。

 

 通常、肉球の手のひらで二本の棒を使いこなすのは大変困難なはずだが、実はこの犬の子供のグレースは手に触れている物体をまるで握り締めているかのように固定してしまうという形で発揮されるのだ。

 

 この子にしか出来ない方法だったが、このサイズの黒いのを捕まえるには非常に向いている能力であった。

 

 さすがに素手で直接黒いのに触ろうとすると、黒いのは基本的に身体のほとんどが口で構成されているのでいつ怪我をしてもおかしくない。

 

 こうやって棒を利用してはさむと言うのは子供なりに考えた素晴らしいアイデアといえよう。

 

 調子にのってその後も何匹か同じ方法で捕まえては床に叩きつけていた2人だったが、気付くと辺りが暗くなっていてよく見えない。

 

 入り口から奥に入りすぎて光がたりないのかと思い足元を見ると足元ははっきり見える。

 

 嫌な予感がして目を凝らしてよーっく見てみた。

 

 廻り…というか洞窟奥側と左右の壁が暗い、というか黒い。

 

 そしてその黒いのはだんだん近づいてきている気がする。

 

 ゆっくりゆっくり。

 

 それは沢山の黒いのが壁に張り付いて近づいて来ている姿だった。

 

 黒いのは身体に比して大きすぎる口を開閉させながらゆっくり近づいてくる。

 

 床や壁が行進する黒いので波打っているように見えるほどの数だ。

 

「ぎゃーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 悲鳴を上げて2人は逃げ出した(発声器官が無い蟻の子供は恐怖のイメージを送ってきただけだが)

 

 慌てていてもしっかり袋は握り締める犬の子供。

 

 幸いにも、ここに居た黒いのはあまり足が速くなかったようで、どうにか洞窟から逃げ出すことに成功したが、村に泣きながら帰って何があったかばれてしまい大人達にたっぷり怒られた2人であった。

 

 後日、もって帰った粉は赤子に与えてもまだ十分な量が残った。

 

 これから生まれてくる子供たちにもこの粉は祝福を授けることになるだろう。

 

 そして、この件以降、この犬の村と蟻の村は宗教の壁を超えてすこし仲良くなった。


それをそうと

 それをそうとは

それに

 それ以外にも

実は犬

 実はこの犬

ある程度の距離内であれば親しいものとなら

 近い距離に居る親しいものとなら

こうやって一緒に行動することになってしまい、でも、内心少しほっとしていた。

 こうやって一緒に行動することになってしまった。

でも、一人で行くことに不安もあったので犬人間の子供は内心少しほっとしていた。

秘密道具もあるのだ。

 秘密の道具もあるのだ。

数ヶ月前の長雨の後、いつものように村はずれでこっそり合流した2人は野原に遊びに行く途中、ぬれた葉っぱで足を滑らせてくぼ地に落っこちた時に偶然ここを発見した。

数ヶ月前の長雨の後、いつものように村はずれでこっそり合流した2人が野原に遊びに行く途中、犬人間の子供がぬれた葉っぱで足を滑らせてくぼ地に落っこちた時に偶然ここを発見した。

彼らは知らないが、これはこの星に衛星が墜落した際に起こったすさまじい爆発により、墜落地点で核融合反応が起こり、発生した膨大な電磁パルスと熱量で地下の氷の層が蒸発し、その際氷の部分が空洞になり周囲の洞窟部分がガラス化した結果このような不思議な地形が完成した。

 彼らは知らないが、これはこの星に衛星が墜落した際に起こったすさまじい爆発により、墜落地点で核融合反応が起って発生した膨大な電磁パルスと熱量の所為で地下の氷の層が蒸発し、その際氷の部分が空洞になり周囲の洞窟部分がガラス化したうえ、ガス化して体積を増した水蒸気が出口を求めて荒れ狂った際、地表に向かって沢山の穴が開き、今回のような入り口を作り出した。


入り口の大部分は、その後の舞い上がった土砂の降下により埋まってしまったが、雨水による浸食作用で再び地上と繋がった箇所もある。

 

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