<人と会話>
船の人工知能は現在3つの目的をもっている。
1.銀河中心方向へ向かう。
2.選択可能な範囲内で出来るだけ地球化が容易な天体を発見し可能な限り地球化を行う。
そして最後のひとつは後から追加された、救助した人間のリクエストによるものだ。
内容は、
3.地球化を行っている当惑星で、今後新たに文明を築き人間と会話が出来る発展段階に達した種族が現れたら、現在凍結状態の人間を起こす。
というものだ。
「1」の達成が長期間不可能になったため「2」を優先して実行していたが、「2」は現段階でほぼ完了といってよい段階まで達した。
今後は「1」と「3」を達成するために計画を立てなければいけない。
「1」を達成するために破損した船体を修復することも検討したが、船体自体の破損状態が酷いのと、長時間宇宙線に晒され破損箇所以外でも経年劣化が進んでしまったため、現在は捕獲した小惑星を材料に静止軌道上に大規模な工場設備を構築している。
この工場設備の外観は、プラモデルのランナー(外枠)のような、空間に骨組みだけが浮いているような状態だが、無重量空間で使用する工場設備としてはこのほうが都合が良い。
なお、宇宙空間で問題になる放射線に対する防護区画は、別途捕獲した小惑星内をくりぬいて作製し重要な船体制御装置等はそこで建造予定だ。
この工場は、本船の完全なコピーを作成するためのもので、完成後は破損の無い完全な本船のコピーを作成出来るだろう。
コピーが完成して銀河中心方向へ出航した段階で本船は「3」以外の全ての目的を達成したことになるので、その際は確実に「3」を達成出来るように船体自体も現在の姿から変化させるべきだろう。
ただ、困ったことに軌道上からの観察では、
1.「文明」を定義するものが発生したかの特定が困難である。
※静止軌道上から観察出来る範囲では構造物(住居等)を基準に考えることになり確実性が低い。
2.「人間」との「会話」が可能かの判断材料を静止軌道上からの観察では判断できない。
3.仮に言語を用いて会話を行う種族が誕生したとしても「人間」と「会話」が可能である、という状況を達成するためには何らかの相互同時翻訳システムが必要となる為、情報収集が必要になる。
以上3点が問題になる。
この問題を解決するために、地表に現在着陸している6機の降下艇にそれぞれ可能な範囲での情報収集をさせることにした。
◇ ◆ ◇
その結果、本来の目的とは異なるが、興味深い事象が発生していることがわかった。
以前に行われた異常増殖を繰り返したナノマシンの排除作戦の結果、惑星表面のほとんどの場所に散布されたナノマシンの構成素材が、地表に生息する生物種にとりこまれ、その脳内で独自のネットワークを構築し、さらにはナノマシンの制御を生体脳が何の補助システムも用いず何らかの方法で行っていた。
過去の地球でこの現象が発生しなかった原因として考えられるのは、
1.環境に対して大規模なマイクロマシンの散布が行われたことが無い。
2.人類社会では経験則により微細な粒子状物質には発がん性があるとの見解がもたれていたため、工場設備や実験室レベル以外ではマイクロマシンの使用が制限されていた。
以上の理由によるものだろう。
過去の地球でも、足に硫化鉄のウロコを持つ貝が発見されて話題を集めたことがあったが、生物の持つ適応能力の高さには驚かされる。
本件は「3」の障害になる可能性があるので、念のためこの件も調査を進めることとする。
ルーチンワークの反射鏡と監視衛星群のメンテナンスを行ったあとは今回の件の対応と工場の建設を進めよう…
外観は
この工場設備の外観は、
に修正。




