<地球滅亡>
<地球滅亡>(前書き)
本を読むのは大変すきなのですが、書く方の才能はありませんのでそういったものをお求めの場合はお帰りすることをお勧めします。
国家間の紛争を抱え、宇宙への進出に足踏みを続けていた人類がようやくその目線を他惑星の地球化へと向けることが出来た時には既に全てが手遅れの段階になっていた。
仮にどれだけ効率良く地球化を実施したとしても、対象の星に人が住めるようになるには最低でも100年単位の時間が必要であり、それだけの時間地球人類が生きのびる余裕はすでにこの時の地球には無かったのである。
しかし、一方で人類のナノテクノロジーは必要な材料さえあれば生命を電子的な情報から再構築出来るまでになっていた。
例えば死んだ人間の肉体という材料を再利用して、まったく同じ人間を作り、なおかつ記憶まで再現できるという一見すると不死を達成したかに思える夢のような技術であったが、勿論そんな都合のよい話ではなく、人体を構成する材料さえ用意出来れば外見上同一人物で記憶まで同じ人間を複数生産できてしまうという、どちらかというと悪夢に近い技術であった。
更に言えば、そうして作られた同一人物同士がもし対面してしまうような状況が発生してしまうと、ドッペルゲンガーの民間伝承ではないが、お互いの自己同一性が崩壊してしまい互いが互いを殺してしまうという問題まで引き起こした。
そういった実務的な問題も含め、倫理的にも道徳的にも法的にも蘇生された人物が本人であるという証明も不可能であり、この技術はある時点まではまったく日の目を見ることが無かった。
勿論法的にも使用は認められなかった。
そして、どうあがいても人類文明がすでに滅びることが確定した段階で、為政者達は自分達に民衆の怒りの矛先が向くのを恐れ、統治上の都合から分かりやすい民衆の希望になる「何か」が必要となり、地球化を目的とした恒星間宇宙船に、データ化した地球上の全生命の情報(高等生命の場合文化を含まないただのDNA情報に本来意味はないのだが・・・)と無作為に選ばれた人類代表ともいえる「誰か」の固有情報を乗せた、宣伝目的でしかない、ある意味今生きている人を救うのに何の意味も無い宇宙船団が建造され、地球を基点に銀河面に対して水平方向の放射状に、偽りの希望を乗せた宇宙船はそれぞれに出航して行った。
……例えば人道を排除し、人類の9割を間引くことが可能であれば人類文明を存続させ、地球化した未来の殖民星に人類版図を広げることも可能だったかもしれない。
しかし、個人を尊重する文化を推し進めていた人類文明は良い意味でも悪い意味でもそのような決断は出来ず、結果人類文明は滅んだ。
◇ ◆ ◇
それから長い時間が過ぎ、地球から数えるのも馬鹿らしいくらい離れた宇宙空間に、滅んだ文明が最後に行った悪あがきの結果の一つが漂っていた。
本来この宇宙船の目的は2つ設定されており、1つは銀河中心方向へ向かうという漠然としたもので、もうひとつの目的は選択可能な範囲内で出来るだけ地球化が容易な天体を発見し、可能な限り地球化を行うという今となっては一体誰にメリットがあるのか分からないものであった。
勿論そのようなことは宇宙船の人工知能が斟酌する案件ではなかったので、いつものように長距離を探査するためのセンサーマストを展開したまま外部からのエネルギー源を確保するための太陽光パネルを広げ航行する姿は、まるで広げた傘が持ち手の方向へ進んでいるかのようであった。
時は更に流れ……
トラブルが発生したのは確かだった。
しかし、それが「なぜ」起こったのかは宇宙船の人工知能には確認できなかった。
この宇宙には極めて真空に近い領域と、それ以外に何故存在するのかは不明だが暗黒物質と呼ばれるセンサーの働きを光学的にも電波的にも受け付けない領域が存在する。
そして、今回のアクシデントは観測不能な暗黒物質の彼方から極めて広い範囲に対して膨大なエネルギーが浴びせられる形で起こった。
可能性としては暗黒物質の中、もしくは向こう側で超新星爆発が起こったか、スターバースト現象でも起こったのかもしれない。
もしくはブラックホール同士が衝突してしまった可能性もあるだろう。
しかし、今問題なのは、ほぼ真空のはずの宇宙空間を揺るがすほどの衝撃波が「なぜ」起こったかではなく、「いま」どう対処するかの方が優先順位が高いのも当然で、そして船体のステータスチェックを行った人工知能にわかる範囲の損害は、展開していたセンサーマスト他、同時に展開していた太陽光パネルの大部分、恒星間航行用の主機であるイオン推進装置および発見した天体の地球化を行う際使用する降下艇の半数、船体制御システムの予備系統が修復不能なダメージを受けているという大変絶望的な状況だった。
しかし、幸いなことに高密度データ領域に異常はなく、データ化された大量の生物情報および惑星改造用ナノマシンのプラントも材料さえ用意できれば稼動可能であった。
宇宙船の人工知能は以下のような判断を下した。
1.銀河中心方向への航行はイオン推進装置が回復しない限り現時点より無期限で延期
2.遠距離探査機能を喪失したため稼動可能なセンサーで近傍の精密探査を行う
3.探査結果を元に残存姿勢制御スラスターと反動推進装置、搭載降下艇を用いて到達できる範囲で最も地球化が容易な惑星へのアプローチを開始
4.本船は大気圏離脱能力を持たないので地球化を開始した段階で静止軌道上に待機
5.地表の地球化を進める一方で周辺空間を浮遊する微小物質を回収し船体の修復に努める
宇宙船の人工知能が、生き残っている短距離センサーをフル稼働させて判断「2」に関する状況確認を行ったところ、先ほどの衝撃波の影響で近傍の惑星がその惑星の従えていた衛星と衝突し、結果一時的に惑星表面の地表のすべてがめくれあがり高熱のガスで地表が焼き払われている事象が観測できた。
スペクトル分析を行ったところ地表の下に大量の氷もしくは地下水が存在していたようで現在は気化した水が大気圏を構成している。
大量に巻き上がった土砂と高温の蒸気が落ち着くまで何千年もかかかるかもしれないが、条件としては地球化が可能と判断。
姿勢制御用スラスタで移動する場合の最適な軌道計算を開始した……