ダイナマイト
「・・・」
私は廊下の奥の大きなガラス窓の前に立った。
私はずっと以前から、やるならここと決めていた。中心街の様々な飲食店の入った雑居ビルの三階の片隅にある盲点のような空間。
私は季節外れのよれよれのカーキ色のトレンチコートのポケットからタバコを取り出し、そして、その中から一本抜き取り、口に咥え火をつけた。
小学校五年だったか、六年だったか、学校行事で行われた七夕の短冊に、私は何の迷いもなく世界平和と書いた。それを見ていた隣りの席の女の子が、私にとても温かい好意的な眼差しを向けたのを今も思い出す。私はそんな小学生だった。
私はあの時、確かな何かを信じていた気がする。
「お客様、ここは禁煙になっております」
私がタバコに火をつけたその瞬間、その階に入っている居酒屋の制服を着た小太りの女が私の下に近づいてきてそう言った。高圧的な感じはまったくなかった。むしろ愛想のいい、丁寧な態度と物言いだった。
「おタバコはあちらに・・、うっ」
私は黙ったまま背中に隠し持っていた、自ら作った大ぶりの山刀を抜き取り、無言でその女の左の腹に刺した。
女は、「うっ」といったきりその場に倒れた。
「・・・」
私はその姿をやはり 無言で見下ろした。
「ぶっ殺してやるから、絶対に殺してやるから。絶対にあんたを許さない。絶対に殺してやるから」
何年前だったか、電車の同じ車両に乗った女が、俯き加減の妙に美しいストレートの長い髪のカーテンに隠れたその向こうの顔に、震えるほどに握り締めたスマホを押しつけ叫んでいた。
「殺してやるから」
女は怒りに震えながら泣いていた。
「殺してやるから、絶対に許さないから。卑怯者、卑怯者」
顔は見えなかったが、多分その服装と雰囲気から見て相当の美人だと思った。だが、結局その顔は最後まで見ることはできなかった。
私は再び窓に向き直り、窓の下を覗き見た。
「・・・」
そこには恐ろしいほどの群衆が蠢いていた。人人人。人の流れが広場や歩行者天国となった道路の作り出す広大な空間に滞留し、一つの巨大な生き物となってもごもごと揺れ動いている。
色とりどりに仮装した人々。私がなぜこの催しを選んだのか、私にもよく分からなかった。気まぐれなのか、何かを感じたのか・・。
ハロウィンという、意味もその意義もまったく分からない外国のその催しが日本で当たり前になったのは、いつの頃からだったろうか。バレンタインデーのような商業的な何か戦略故なのか、いい加減な国民性故なのか――。
結局、刺激を求めてやまない現代社会の辿り着いたある意味必然的帰結なのかもしれない。要は騒げれば何でもいい。私は、そんなありふれた結論に至り、それ以上は考えなかった。
ハロウィンの意味すら知らず、呑気に受け入れてしまっている国民の軽薄さをあざ笑いつつ、しかし、私自身がこの盛大に軽薄な催しに惹かれ導かれ、実際に今ここに立っている。私はそんな自分を不思議に思った。
私は山刀の柄の裏で、目の前のはめ込み式の窓ガラスを割った。大きな音がして、ガラス片が大量に下に落ちたが、それすらも大したことはないというように、大群衆の喧噪と熱狂の中に飲み込まれていってしまった。
私は持って来た大きな旅行バックのジッパーを開けた。その中には無造作に大量のダイナマイトが詰め込まれていた。その中から私は一本ダイナマイトを取り出した。そして、すぐに咥えていたタバコの火をその導火線につけた。ジジジジと音がすると同時に、私はすぐにそれを割れた窓ガラスから、下の蠢く群衆の中心に向かって勢いよく放り投げた。
なぜか私はこの街に惹かれた。初めてこの街を見た時に、瞬間的に私はこの街に興味が湧いた。私は決して都会趣味の人間ではなかった。だが、一体この街はなんなのか。それが突然堪らなく気になり知りたくなった。
華やかさの影に滲む堪らない寂しさと孤独。豊かさの影に潜む、貪るような飢え。秩序の中にあるカオス。
山から下りる度に私はこの街に入り浸った。金はあった。山奥でお金を使うあてもほとんどなく、私は同僚たちのようにギャンブルも酒もやらなかった。そして、危険で人のやりたがらない仕事であるがゆえにそれなりに金はよかった。
丁度いい具合に、火のついたダイナマイトが群衆の中に落ちた瞬間、それは群衆の作り出す熱気と喧噪を切り裂くような轟音を上げ、昔見た古い香港映画の爆発シーンみたいに、炎と共に人を宙に舞い上げ爆発した。それと同時に群衆から、金切声のような叫び声が怒号のように湧き上がり、人々は狂ったみたいに慌てふためき逃げ惑った。
しかし、この日、人が逃げるにはあまりに人が多過ぎた。
私は毎日毎日、あてもなく、目的もなく、街の中を彷徨うように歩き回った。私はそうやって街の様々な人や風景を見て回った。
美しいショッピングウィンドウ、派手に着飾った男女、様々な組み合わせのカップル、きれいなオフィス街を颯爽と歩くエリートたち、夜の片隅を這い回るバカデカいドブネズミ、駅前で眠る酔っ払い、喧嘩する男たち、その年ですでに人生に疲れ切ったように彷徨う少女、死んだ目をした子どもたち、通行人を睨みつけるようにギター片手に路上で歌を歌う若者――。
街路の片隅に座り込み、濁った眼を中空に漂わせているホームレスのじいさん。その前を、当たり前のように無関心に通り過ぎていく多くの人々。
それらを見ている私を不審げにジロジロと見る様々な視線たち――。
私はさらにバックからダイナマイトを取り出すと、火をつけ、下に放り投げた。それはまた逃げ惑いパニックになっている群衆の中心に落ち、その空間いっぱいに轟音を轟かせ爆発した。再び人が軽々と吹っ飛び宙を舞う。
固くそびえるような岩を砕いていたダイナマイトが今、街中の人の中心で爆発している。人が傷つかないよう細心の注意をはらい、ダイナマイトを爆発させてきた日々が身に染みついていた私のその感性と理性を、違和感と共に、しかし、どこか快感としてその爆発は吹き飛ばしていく。
私が本当にダイナマイトを爆発させたかったのはやはりここだったのだと、私はそれを確信した。
私は勢いに乗り、次々ダイナマイトをバックから取り出すと、それに火をつけ下の群衆に向かって投げた。
いつものように半年が経って、山を下りた私は、何の迷いもなくそのまま街に行き、何となしにスーパーに入った。別に何を買おうと思っていたわけではなかった。ただぶらぶらと私は店内を彷徨った。
山から下りた時はいつもすべてが新鮮だった。私は陳列されている商品を何となしに見て行った。半年で変わるものもあるし、変わらないものもある。しかし、やはり、街の変化は早かった。
精肉コーナーに入り、その陳列棚の前を通り過ぎようとした時だった。私は、ギョッとして立ちどまった。突然、そこに並ぶ肉が、とてつもなくグロテスクな動物の死体に見えた。私は衝撃を受ける。
「・・・」
そこに並ぶ肉は、食べ物ではなく、それはただの解体された動物の死体だった。
「・・・」
私はそのグロテスクな肉の塊たちの前で立ち尽くした。
私は次々と人混みの中に火のついたダイナマイトを放り投げていく。それはおもしろいように、私の想い通りに人の集まる中心にピタリと落ち、そして私の想い通りのタイミングで爆発した。
人間が本当に物体のように、無機質にその爆発という物理現象のままに吹っ飛び、宙を舞う。その姿が、今までにない人間という存在の新しい見方を私に与えてくれる。
そこには魂も霊も心も人格もなかった。ただそこには、人間という物質的な肉があるだけだった。
私は人が殺したかったわけではなかった。世間に恨みがあるわけでもなかった。そんな趣味も嗜好もない。心理学者が訳知り顔でよく言う、何か幼少期のトラウマがあるわけでも、先天的な人格異常があるわけでもなかった。知能も問題はない。
ただ、この場面がある日浮かんだのだ。はっきりと、昔見た映画のワンシーンのように鮮明に、私の目の前に浮かんだのだ。それは天啓のように私に新しい何かを見せた。
そして、繋がった。昔何となしに読んだ津山三十人殺しの犯人、都井睦夫と――。
戦後、世界的にも一人で殺した人の数としては恐ろしく高く、近年になってアメリカなどで銃の乱射事件が起こるようになるまで、何十年と、ずっとその殺害者数は世界一位だった。そう読んだ本のあとがきに書かれていた。
都井陸雄。たった一人で一晩に三十人を殺し、自ら自死。頭に鉢巻きを巻きそこに懐中電灯を差した異様な姿で、銃と刀を持ち、次々と村の家々を襲撃していった。
私はその男になぜか強く惹かれ、一時期貪るように彼の関連本を読み漁った。そんな男と、私はどこかで知らずに繋がってしまった――、のかもしれない。
ふと下を見るとさっき刺した女が、まだ床で呻いていた。小太りの、仕事はできそうで人もいい、しかし、多分、さほど幸せではないこの女の人生は、一体どんなものであったか――、私は瞬間的に察し想像する。
多分、友だちもほとんどいないだろう。恋人もいない。自分を押し殺し、他人に都合のよい人のよさを身につけなければ生きて来れなかっただろう。華やかな青春も、その後の人が羨むような人生もまったくなかったろう。地味でさして特別幸福でもない人生を、なぜ私は生きているのだろうと疑問に感じながら、しかし、それでも必死でこの生きづらい社会に適応しようと一生懸命健気にその報われない人生を生きている。その決して、男からは激しく愛されないであろうその容姿から、そんな人生が透けて見えた。
「ううっ」
女は小さく呻いている。多分苦しいのだろう。死ぬ寸前に、その苦しみから天国へと連れて行ってくれるという脳内麻薬はまだ出ていない。痛みと苦しみと死への恐怖に今、彼女は、極限状態の中で苦しんでいる。多分、それは人間の感じ得る最大の苦しみだろう。今彼女はその領域にいる。
中学の同級生だった高木君は、クラスメイト全員から無視をされていた。それがいつから始まり、理由が何だったのか、それは分からなかった。ただ彼は、気づくとそういう立場になっていた。
彼はいつも一人だった。休み時間も、教室の移動の時も、学校の行事の時も、彼は常に一人きりだった。だが、彼は絶対に学校を休むことはなかった。
ある日の休み時間のことだった。私は、教室の片隅の席でいつものように一人座る彼の横をふらりと通り過ぎた。その時、私は何かの異様さを感じ、すぐ横の彼を見た。
「うううっ、うううっ」
小さな呻き声が聞こえた。彼は一人、机に座りながら俯き、顔面が赤くなるほどに力を込め、小さく、本当に小さく、拳を固く握りしめながら周囲に聞こえるか聞こえないかくらいの声で唸っていた。それは本当に小さな呻きだった。
私はその光景を見た瞬間、なぜかゾッとするような不気味さを感じた。彼のその俯きながら一人何かに耐えるように唸っているその姿は、何かの呪いにも似た恐ろしさがあった。
その時の光景は、あまりに異様で、あの時の彼の不気味さを、私は今もあの時に感じた背筋が凍るような気味悪さと共に、鮮明に思い出すことができる。
彼は、結局中学の三年間を一度も休むことなく、皆勤賞で中学を卒業していった。
人混みはパニックになり、何がどうなっているのか、私がここからダイナマイトを投げていることすらが分かっていないようだった。であるが故に、わざわざ私の前の方にまで人が大量に流れて来ていた。
パニックになった群衆は、巨大な圧力と化し、次々と人々をなぎ倒しあらぬ方向に流れていく。倒れた人間はその巨大な人混みに無力に押しつぶされ踏みつけられていった。ダイナマイトの爆発だけでなく、いやむしろ人の圧力で死んでいる人間の方が多かった。そのことが、まるで神が人間を見下ろすように上からだとよく見えた。
私は山の仕事をしていた。そこはこの街とは対極の場所だった。そこには自然しかなかった。山で岩壁をダイナマイトで崩していく。私は、何となしに始めたその仕事を、なぜか肌があったのか何年も続けていた。そういった仕事はきつく、何ヵ月も山に籠らなければならないし、仕事場は寂しい刺激のない山奥であるし、すぐに辞めていく者も多かった。だから私は二年余りで、その職場でベテランになり、会社からの信頼も厚くなった。気づけば、ダイナマイトなどかんたんに持ち出せる立場になっていた。そして、そういった業界にありがちな、杜撰な管理と上司の怠慢とやる気のなさがさらに私を助けた。
爆発の巨大な炎と共に血が、肉片が、脳髄が、手足が飛び散る。無数の焼け焦げた人間の体が転がる。そして、鼻を突くその匂い。
それらと共に、群衆に押しつぶされ圧死した死体がそこかしこに転がっている。気づけば、歩行者天国となった広いエリアを埋め尽くすようにいた群衆の変わり果てた姿が、逃げ惑う人間の群れと共に広大に広がっていた。
「・・・」
何人死んだろうか。私は世界で一番になったのだろうか。私はそんなことを考えていた。別にそんなことを求めていたわけでもなかったのだが、私はなぜかそんなことを考えていた。
山での仕事は退屈との戦いでもあった。私は酒を飲まなかったし、同僚たちのように賭け事もやらなかった。暇つぶしにテレビを見ても、スマホを見ても退屈でしかなかった。仕事が終わった後の寝るまでの膨大な時間がそのまま余っていた。その余った時間私は、山刀を作っていた。別に何に使おうと思っていたわけでもなかった。たまたま昔その職人だったというじいさんが同僚にいた時に、何となしに興味を持ち教えてもらったのが、思ったより実際にやってみるとおもしろかったというただそれだけだった。
同僚たちはそんな酔狂とも言える趣味に興じる私を見て、半分訳が分からんというように笑っていた。
夕食後、暗い静かな山奥で一人、山刀を研いでいると、心が研ぎ澄まされていくような奇妙な感覚があった。そこには、どこか宗教的な精神性があった。
――小学生の時だった。それは日曜日だった思う。ある朝、いつものように起きてから下の階に下り、まず顔を洗うため洗面所に行こうと、玄関の前を通る。そんな本当にいつもの朝だった。
ふと、床を見ると、飼っていた金魚が何の拍子か水槽から飛び出し、玄関の床に転がっていた。口をパクパクと動かし、何とか酸素を体に入れようとその丸い身をひたすら大きく目いっぱい膨らませては縮こませていた。
私は慌てて水槽に戻したが、その金魚はその日の夕方にはもう、その丸い腹を上に向けて死んでいた。
ライオンに食われた男。そんな記事をネットで読んだのは、いつのことだったろうか。ライオンに襲われたその男は、その体を生きながらに食われていく。当然、目を覆わんばかりの凄惨な状況だ。誰もが想像するに、痛みと苦痛で地獄の中にいる。誰もがそう思うだろう。しかし、生還したその男の話はまったくの逆であった。
男は言った。俺は天国にいたと――。
床に倒れる女の意識が遠のいているのが分かった。呼吸の感覚が狭まり浅く、目が、目の前の現実のそれを見ている目ではなかった。内なる何かを見ている目だった。多分、その動物の本能的機能が発動し、脳内で苦しみを和らげる脳内麻薬と言われる物質が多量に分泌され始めたのだろう。彼女はその悲惨な状況とは裏腹に、今、天国にいるのかもしれなかった。
彼女はただ、その小太りの同体を前後に膨らませては縮ませてを繰り返していた。何かの間違いで陸に上がってしまった魚のように――。
生きていくとはなんと単調なものだろうと思った。ダイナマイトの爆発する轟音。巨大な岩山が崩れるその壮大な光景。ダイナマイトで豪快に岩山を崩し、命がけでその作業する日々。しかし、それも慣れてしまえば一緒だった。
多分、街の生活も一緒なのだろう。街を歩いている人間で、本当に生きている顔をしている者は誰一人としていなかった。
ある夜、私がいつものように一人山刀を研いでいるとふと何かを感じ、私は顔を上げた。森の向こう、私は、そこに巨大な漆黒の闇の固まりを見た。それは人間を圧倒する得体の知れない大きな存在だった。
「・・・」
私はそれを見上げながらその場に固まった。それは恐怖そのものだった。恐怖という巨大な生き物がそこにいた。
この恐怖から人は逃げるために、森を切り開き、街を作り、そこをこれ以上ないくらい明かりで満たしたのだと、その時私は思った。
私はリュックからダイナマイトを取り出す。これが最後の一本だった。こんなにうまくいくならもっと持って来ればよかった。
とは思わなかった。なぜか私は満たされていた。十分に満たされた感覚があった。今まで、何をしても埋まらなかった虚無のような感覚。私の背中に常におんぶお化けのようにしがみついていたあのどす黒い虚しさとそれに対する諦め――。
それを埋める手応えのような何か。それが何なのかは分からなかったが、確かな何かを私は感じていた。
「・・・」
私は手に持った最後の一本のダイナマイトを見つめた。これに火をつけ、下に投げず、手に持ったまま立っていれば・・、それで、このことのすべては終わる。
「・・・」
すべてが終わった世界。そこにはただ虚しさが漂う――。犯人が木っ端みじんに吹っ飛び、警察も被害者も被害者遺族も、持って行くべき怒りの矛先もなく、ただ絶望と悲しみにのたうつ光景――。
私は私のいなくなったその世界を想像する。
十歳の時、教室内を歩いていた私はふいに、自我に目覚めた。
「自分・・」
「自分とは・・、私とはなんだ・・」
「私・・、私・・」
私は私に愕然とし、そして、死が怖くなった。
「自分がいなくなった世界・・」
そこに私はいない・・。夜、一人ベッドに入り、そのことを考えると、毎夜堪らない恐怖に襲われた。
しかし、ダイナマイトというのは、必ず何百本か、いや、時に何十本かに一本はしけって爆発しない不良品が混じっているものだった。そして、それはここぞという大事な時ほど、それに当たるものだった。山での作業ではよくそういうことがあった。ここでは絶対にミスできないという時に限って、不発が起こる。
しかし、人生とはそういうものだった。そういうもの・・。
愛だとか夢だとか、そんなものを信じていた時期が私にもあった。そんなものにすがっていた時が私にもあった。そんな歌詞の並ぶ歌を熱狂的に聞いていた時もあった。そんなものが、本当に私を救ってくれるのだと本気で思っていた時が、私にもあった。
誰かを愛さなくなって何年が経ったろうか。そのことに慣れ過ぎて、いつしかそれが当たり前になっていた。
誰も愛していないと、愛されるという感覚も分からなくなる。
「・・・」
私は知らず知らずのうちに狂っていたのかもしれない・・。
「・・・」
私は手に持ったダイナマイトを見つめた。
最後の一本。もうこれ以上は何もない。私は、この後のことなど何も考えてはいなかった。考えていないからこそ出来たことだった。
私はこの世界には何か確かな正解があるのだろうと思っていた。しっかりと歩いて行けばそこに辿り着くのだと――、私は漠然と信じていた。
「・・・」
私は最後の一本に火をつけた。
《戦後最悪となった事件の現場となった広場の近くのビルの三階部分が爆発し、周囲の状況からそこに犯人がいたと思われ・・、警察も被害者も憤りを・・》




