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ふたりの夫と本の中での冒険を楽しむお話。  作者: 丹羽坂飛鳥


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9/15

はじめての依頼

旅の情報探しと村の散策を兼ねて、二人と共に始まりの村のさまざまな場所を巡った。

お姫様を攫ったと思われる黒いドラゴンが『東の方角へ飛んで行ったのを見た』と、畑仕事をしている鍋が教えてくれた。


「東なら、次に情報が得られそうなのはツギノ村か。

 ……ふ、『次の村』とは……名前をつけるのが面倒だったのか」


「む。お前も子供たちの名前は毎回、一年の間ずっと悩みっぱなしだろう。

 私も悩み切った結果、誰もが覚えやすいよう簡単にしたんだ。茶化してくれるな」


エルタニアの風習で、一年間は赤子の名付けが禁止されている。

アルバは毎回、子供の名前を悩み尽くしてから決定する。

私を肩に乗せているシャグマはお産の時など出会った時の直感で決めているが、私も今回村の名前くらい付けてみようと思ったら至極難しかったから、諦めて思いつきで付けることにした。


……新興国ではないエルタニアで土地に名前をつけることはほぼないから、実は苦戦したものである。

私が膨れると、悪く思ったらしくアルバが気まずそうにしている。


「茶化したつもりはなかったんだ、そう拗ねないでくれ。

 ……でも……悪かった」


落ち込む少年顔の夫も可愛い。


「いいぞ、許す。……ふふ、いつも子供たちの名前を考えてくれるお前の気持ちが分かった、というだけの話だ。気にするな」


ホッとした様子のアルバに私が機嫌を良くしていると、近くでのんびりとした声が聞こえた。


「あの、すみませーん。

 ツギノ村に行くって聞こえましたー。

 実は、お願いがあるんですけどー」


声の方を見やると、中に錠剤を詰めた茶色い薬瓶がいる。


「ツギノ村に、このお薬を届けて欲しいんですー。

 お客様から頼まれたんですけど、忙しいからぼくは行けなくてー」


そう言った薬瓶が、一番近くにいるシャグマに薬を差し出した。

中の液体が漏れぬよう、しっかり封がされているが、手のひらに包めるほどの小瓶だ。


「仔牛のお母さんのお薬なんですー。

 持病が悪化しているから、調剤を頼まれてたんですけどー、届けてもらえませんかー」


「薬か……いいよ、届けてあげる。

 お届け先の目印とか、仔牛のお母さんの名前は分かるかな」


「ツギノ村に仔牛さんはお一人ですから、すぐにわかると思いますー。

 ではー、よろしくお願いしますー」


薬瓶が離れていくと、シャグマが手渡された小瓶を見た。

中身が何かはわからないようになっているが、瓶に不審な点があるらしく、彼は首を傾げている。


「ねえ、ラフィネル」


「なんだ」


「薬瓶に時間が書かれてるんだけど。

 ……これ、何?」


アルバにも見せているが、茶色い瓶の上には数字が出て、少しずつ減っていっている。


「医薬品には使用期限があるだろう?

 お届け物の薬だからな。使用期限以内に届けてもらえるように、時間制限を設けた。

 その時間以内にお届け物を完了しないと……」


「……しないと?」


「まあ、お楽しみだ」


何が起きるのかを教えては、物語なのに面白くない。

シャグマの肩の上で余裕を見せて微笑んでやると、夫たちは顔を見合わせた。


「持病の薬って言ってたよね、何の病気なんだろう?

 ツギノ村までの距離もわからないし……ごめんアルバ、もう始まりの村は出ようか。

 時間の設定的に、のんびりしてる猶予はなさそうかも」


「わかった。……まさか薬を受け取った瞬間から、時間制限がつくとはな……」


「はっはっは、強制行動は物語の定番らしいからな。

 突然の時間表示、間に合う間に合わないで結果が変わる村人の未来。

 仔牛のお母さんの将来はお前たちにかかっているぞ。……ちなみにシャグマもお気づきの通り、割と短めの設定をした」


そう教えてやると、すぐさま二人が駆け出した。


「何にせよ、成功させるのが一番良いはずだ。

 ボクが先を行く。シャグマ、援護は頼んだぞ!」


「任せてっ、久しぶりにアルバが弓の稽古付けてくれたのが役立ちそうかもっ」


ツギノ村が東なのはわかっているので、方位感知持ちのアルバが先頭を行く。

出てくる魔物を本気のアルバが薙ぎ倒しながら走り、遠い敵はシャグマが射落としている。

武術大会以来の良い連携を改めて見られて、そばにいる私も惚れ惚れしてしまう。


……さて、しかし間に合うだろうか。


全力疾走の夫たちを見守りながらそばを飛んでいるが、彼らが真っ直ぐに走ると、森が目の前に広がり始めた。


「ツギノ村は森の先だったよね、このまま突っ切ろう!」


走りながら相談した彼らは、しばらく森の中を疾走する。


「待て」


しかしアルバは、シャグマを止めた。

黒髪の少年剣士が少々眉を顰めているのを見て、私はしめしめと笑ってしまった。


「ラフィネル」


「まあ大変。焦ったところに迷いの森が広がっているなんて。

 どうだ、方位がさっぱりわからなくなっただろう?」


「詰め込みすぎだよ!」


焦っているところに、攻略に時間のかかる場所を仕掛けた。

もう少し村で聞き込みをすると『東には迷いの森があるので、ツギノ村は近そうで遠い』という話を聞けるようにした。

森を迂回されるかと思ったが突っ込んでくれたので、製作者として内心、ほくそ笑んでしまった。


「どうするアルバ、戻る?」


「いや。地図上、回り込むとかなりの距離がある。

 それに戻ったところで、ラフィネルが森の入り口に戻れるように設定しているとも限らない」


正解だ。もう戻っても同じ場所を回るようにしかなっていない。


「子供たちにも遊ばせたいって言ってた以上、抜け出してほしいはずだから、わかりやすい法則か何かがあるはず、かな」


アルバが辺りを見回している。

シャグマも同じく森を眺めているが、ふと……足元に咲く花に目をとめた。


「ねえ、アルバ。白や黄色の花が多いけど、同じ方向に点々と桃色の花が咲いてない?」


「案内妖精と同じ色か。

 ……風もそちらからしか吹いてこない。追ってみる価値はあるな」


二人が力を合わせて謎を解こうとする姿を嬉しく見守っていると、早速桃色の花が続く方へ駆け出した。


出てくる魔物は、アルバがさらに勢いよく弾き飛ばしていく。

レベルを下げたのに、あの動きが出来るのかと夫の実力に驚いてしまう。


「アルバ、進む方向に何かいるよ。ようやく森の出口みたい」


砂漠で育つデアの民は遠くまで見通せるが、シャグマも相変わらず目がいい。

視力を生かしてアルバに前方の状態を伝えると、剣士はさらに勢いよく走り、先に目の前を塞いでいる何かに近づいていく。


グォオオオオオッ!


なんて大きな声で威嚇して、突進してくる大猿が待っていた。

茶色の剛毛が全身を覆い、森の主として君臨していることから眼光鋭く睨みつけてくる。

身の丈は周りの樹木ほどあり、四つ足で地面を揺らしながら一気に駆けてくる大きな図体の生物は、さすがに迫力があった。


「ねえラフィネル、あの猿は子供たち怖くて泣いちゃうんじゃない!?」


「ヨアもエイルも、こういうのは好きだろう。

 もしどうしても無理だったら、この位置なら引き返すと森の入り口まで出られるようにしてある。

 それに焦るような状況で、問題をどう解くか考えるのも重要だぞ?」


真っ先に相対したアルバは、後続の私たちのため猿に立ち向かっている。

切り付けて障壁の削れ具合を確認し、敵をどれくらいの時間で倒せるのか測っているようだ。

巨大な拳が彼に迫るが、紙一重で避けると逆に切り返している。


「どう解くのか、ならこうでもいいってこと!?」


アルバめがけて攻撃している猿の足の間を、シャグマが駆け抜ける。

すぐさま反転すると、背後から弓を二本番えて放った。

……流石にレベル差があるから、一気に障壁が削れる。

その足元を華麗に切り抜けたアルバが最後の一撃を放つと、巨猿が森の木々を薙ぎ倒しながら倒れていった。


「よし討伐完了……って浸る時間くらい欲しいよね!」


すぐさま二人が合流して、またアルバが先を走る。

森を抜けると、しばらくしてシャグマにはツギノ村が見えてきたらしく、目を凝らしている。


「仔牛……あ、村の入り口で待ってるぬいぐるみのこと?」


「この距離で何が見えているんだ、お前には」


私にはぼんやり建物が見えてきたな、以上の何も見えないが、シャグマが確信したように薬を取り出す。

残り時間がわずかになっている。


「制限時間が短すぎるってっ」


「そうだな。お前たちの速さをもってしてもこの残り時間になるか。後で伸ばしておこう」


追加時間を考えているうちに、二人は村の入り口にいる仔牛目掛けて駆け込む。


「仔牛くん、始まりの村から薬を持ってきたよ!」


シャグマが渡した薬を大事に受け取ったぬいぐるみが、大喜びした。

時間制限はそこで消え失せ、二人が疲れたようにため息を吐いた。


「ありがとう、冒険者さん! よければうちに来てくださいっ」


そう言いながら仔牛は一軒の家へ入り、横になっている母親へ薬を差し出す。


「お母さん、お薬がきたよ。もうこれで安心だよ!」


使用されたアイテムが、光になって消える。

すると母牛が起き上がり、うーんと伸びをした。


「ああ、ありがとう! 腰がすっかり良くなったよ」


「「……腰?」」


呆然とした男性たちの声が聞こえた。

汗だくの二人が私を見ているので、説明が欲しいのかと頷いてやった。


「仔牛のお母さんは農作業で腰を痛めているんだ。

 薬の配達を成功させればすぐに治るし、失敗しても運び直すことも可能だ。時間経過でも治るようになっている」


そう教えてやるとアルバが天を仰ぎ、シャグマが疲れたように座り込んだ。


「大病を患ってて、治る治らないじゃなかったんだ。良かったぁ」


「運んだ薬で将来が悪しく変わっては誰もが悲しむだろう。

 失敗した時に子供たちが泣くような依頼は作っていない」


「君らしい。……後味の悪い冒険は用意しないように配慮してあるなどと、気付いていれば良かったな……何にせよ、安心した」


喜ぶ仔牛が母牛に抱きついたのを見ながら、私たちは家の外に出た。

シャグマが伸びをして、中の親子を眺めている。


「焦ったけど、配達成功させられて良かったね。

 ……あーもしかして。子供たちのためってことは、シェレイアみたいに始まりの村から出られないような子を無理やり外に出すために作ったの?」


「そうだ。怖がりの子供たちは『冒険なんてしなくてもいい』なんて言い出しそうだからな。

 勇気を振り絞って外に出るのも大事だぞ、と教えてやりたかったんだ。

 一回外に出られれば、また少しずつ冒険の範囲が広げられるだろう」


「なのに巨猿か」


「暗い森が怖いような子供たちは迂回する。反対に、恐れもしないような大人たちには刺激があっていいだろう?」


詰め込んだが、ちゃんと意図があるのだ。夫たちも溜飲が下がったらしく笑っている。


「初心者が作ってるからとんでもなく最初に詰め込んだな、って思ったんだけど、ちゃんと意味があるって教えてもらえると納得できるの、不思議だね」


「全くだ。……さあ、討伐報酬も貯まったしギルドに行こう。

 武器も初期装備のまま来てしまったから、新調したい」


「俺もいろんな職業見てみたいし、ここで転職しようかな。お姫様の情報探しもしなきゃね」


わいわいと盛り上がっているのを見ると、作った身としても嬉しくなる。

流石に全て知っているから同じ気持ちを分かち合うことは難しいが、自分が作った物語を楽しんでもらえる、という事実は幸せな気持ちになれるものだ。


「ん? 侍従長の連絡だ……もうお昼ご飯の時間らしい。

 ちょうどいい、一旦終了にしようか」


現実世界の方から、終了を告げるベルの音がある。

二人も同じものを聴いたらしく、頷いている。


「栞を挟んで閉じる」




……本を閉じて意識を現実世界に戻すと、見慣れた寝室のベッドの上で目を開けた。

侍従長がそばで、ベルを鳴らしてくれている。

夫たちもそれぞれ目を開けて、ベッドに起き上がった。


「ありがとう、侍従長。また夕方も頼む」


「心得ました、陛下」


胸に手を当てる礼をとった彼が静かに部屋を出ていくと、私たちも伸びをしてベッドから降りた。

……説明だけで終わってしまったが、本格的な冒険はここからだ。

ふと振り返ると、アルバが体を伸ばしたり調子を見ていた。


「どうした、何か違和感でもあるのか」


「体が軽くて驚いている。

 ……少し出てきてもいいか、試したいことがある」


許可すると、すぐさま部屋を出ていった。

きっと練兵場にでも行くのだろう。シャグマも笑っている。


「レベル1で止めたいとか言い始めそうだね」


「ちゃんと目的を果たしてくれるのならそれでもいいぞ。

 まだまだ初めの方だからな、やりたいことをやってくれればいい」


一緒に遊びたくて作った物語だ。どんな方法を選んでも進めるのか、も楽しんでほしい。


「おっかしいなー、やきもち妬かせたはずなのに、妖精ちゃんに手出しもせずに行っちゃったけどいいのかなー」


「なっ、こら、やめんかっ」


シャグマに抱き込まれて、昼食前に彼らしい特殊技能で揶揄われてしまった。

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