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ふたりの夫と本の中での冒険を楽しむお話。  作者: 丹羽坂飛鳥


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職業変更後の初戦闘

職業変更をしたあと、夫たちは初めての大陸移動となる。


海底洞窟までの道中に出てくる魔物は今までよりも少し強くした上、石の魔物や鳥の魔物など、倒しにくさも増した相手を用意していた。

早速、灰色の人間様の石像が飛び跳ねながら数体近づいてきたが……敵の移動自体がそもそも遅いため、夫たちは戦闘体制をとることもなくのんびりしていた。


「平原を石像が動いているな……物語らしい。現実ではあり得ない光景だ」


「たまにアルバのことを見て『完璧な彫刻のようだ』ってラフィネルが言うけど、それとはまた系統が違うね。全身が筋肉で盛り上がってる」


黒髪黒目の格闘家は迎え打つためか軍の『休め』の姿勢でいるし、遠見が出来る白髪緑眼の探検家は褐色の指で庇を作りながら敵を眺めた。

私も案内妖精として彼らのそばを飛んでいたが、制作に苦労した思い出もある魔物だから肩を落とした。


「魔物の一覧には細めの彫刻像もあったぞ?

 しかしシャグマの言う通り、私がよく知るアルバの肉体に似ていたからな。やめたんだ」


「……? 練兵場には、ボクのように鍛えている妖精兵も多いだろう。

 身長から何から似たような体躯の者もいるから、誰も彫刻にまでボクを結びつけないと思うが……」


「いや。全身を精査した結果、やはりどうしても一部が気に入らなくてな」


「「……一部?」」


「男性は体に見合ったご立派様を提げているものだろう?」


つい目線が下がると、全員がアルバの同じ部分を見た。

武闘家の黒いズボンにうまく隠れているが、夫婦として長年見てきたものがどうしても脳裏を過ぎってしまう。


「細身の彫刻像はいつも見るアルバの肉体に似ているのに、私が知るご立派様ほど立派ではなかったんだ。

 すると見るたび、どうしても違和感が出てな。

 修正してやろうと拡大縮小を繰り返してもうまくいかないから、登場させること自体をやめたんだ……って待てシャグマ、掴んでくすぐるな、っ、あははっ」


「まさかの全裸か。君は一体何の修正に時間をかけていたんだ」


「近づいてくるあの石像は腰布巻いてるから、俺もアルバに似た石像は腰布巻いてるのかと思ってたよ。

 子供達も見るのに似せてどうするの。不埒な妖精には罰を与えてあげようかな」


「ただの彫刻像だろう!? 父様のご立派様くらい我が子は風呂で知っているし、美術品相手に……っあははは、くすぐったい、こら、やめろシャグマっ」


細い指に包まれて、ムルカナのご兄妹式の罰を与えられてしまった。

案内妖精は笑い疲れてフラフラ飛ぶことになったが、アルバがようやく一体でも近づいてきた石の魔物に目を向けた。


「遊んでいるうちに、そろそろ戦闘できる距離に入りそうだな。

 ……シャグマ、まずはボクだけで行っても良いか」


「はーい。任せたよ、アルバ」


気軽な声に送り出された格闘家が、弱点感知しながら走り出す。

接敵し、戦闘開始すると……拳を構えて振り抜いた彼の前で、パァンッ!! という炸裂音を立てて障壁が破れた。


嘘だろう……私の『動く彫刻像』が、一撃だと……!?


声も出ぬまま、防御と体力に優れる魔物が崩れ落ちたのを見た。

アルバが繰り出した拳が、弱点にしてあった部位を正確に射抜いた。クリティカルヒットというらしい。


対峙から瞬時に倒した男の向こうには、薄く土煙が上がっている。

異変に気づいたシャグマが緑の目を凝らしたが、見えたらしく親友に向かって声を上げた。


「アルバ、鳥が興奮して走ってきてる! かなり大きいし、足が早いよ!」


褐色肌の探検家が伝えた通り、周囲に響く音に反応する大型の怪鳥も走ってきた。

巨体だが、彫刻像とは比べ物にならない速度で近づいてくる。

馬の最高速度も超える設定だから、声掛けからすぐに接敵した。


「ふ……っ」


しかしアルバは体を捻って回転すると、長い足を鞭のようにしならせて敵を蹴った。

……障壁に当たって割れると、丸い巨体が彼方へと飛んでいく。

石像もようやく群れで到達したため次々に襲いかかり始めたが、調子を上げた黒の格闘家の前では、もはや弾ける音を立てるための代物と化した。順番に崩れていく音まで平原に響いたが、一定の音が耳心地いいくらいだ。


「うわ、すご……これで何体目? アルバは弱体化して、体が重いはずだよね。

 武術大会の巨大なゴーレム戦を思い出すくらい、さっきから万全に見えるんだけど……」


「私もそう思う……ん? 今のは……」


管理者権限で戦闘記録を確認したが、音を立てずに忍び寄る吸血蝙蝠まで倒されている。

この平原最強生物の死角からの急襲も、夫は軽く障壁を削られただけで、振り向きざまに撃ち落としてしまったのだ。

……なるほど、気配感知持ちだからか。持ち前の技術に驚いてしまう。


「『応急手当て』」


シャグマが技能を使うと、戦い続ける男の障壁もすぐに回復しきった。

万全に戻った童顔の男がさらに踏み込んで、石像に掌底を打ち込む。

くの字に体を折った彫刻像が弾け飛ぶ中で、アルバは不敵に笑っている。


「良い回復だ。

 シャグマ、まだお前のレベルの方が高いはずだな。ここはボクに任せてくれ」


分配設定にしているが、レベル差などすぐに埋まりそうだ。

アルバが強い。強すぎる。


シャグマは回復に徹する様子なので、肩に座って見学させてもらった。

黒の格闘家には大型の怪鳥が群れで現れると、威嚇しながら突っ込んでくる。

しかし彼は縦横無尽に駆け回り、拳や蹴りなど、己の肉体一つで戦いぬく。無数の啄み攻撃にも臆することはない。


……アルバが勇ましくて、目が離せない。

普段見せないだけでやはり格闘技は得意なのだと実感しながら観覧していると、シャグマが私に寄り添い、短く整った白髪を触れさせた。


「本格的な俺の出番は、まだまだ先かな。

 戦いのことならなんでも出来るって本当に羨ましいよね、アルバ格好いい……『応急手当て』」


「出番がないというのなら、お前も良いところで回復するな。

 ……気絶して恥ずかしがるあいつを見たいという私の野望は、まだ終わっていないんだぞ」


頬を膨らませて抗議したが、シャグマは目と勘がいい。

親友を気絶させずに回復し切る男は、私の野望を聞いて整った唇の端を上げている。


「まだ狙ってると思ってたからね、阻止しちゃお。

 アルバが前線で安心して戦えるように支えるのが、俺の役目だからね。ラフィネルにも倒させたりしないよ?」


親友のためにも医者になった男だ。本の中でも現実でも、やりたいことは変わらないらしい。


おかげで何も指示せずとも障壁を回復してもらえる童顔の夫は、伸び伸びと体を動かしている。

支援を受けたアルバは勢いを増した拳を入れ、鋭い蹴り足を繰り出す。

敵が突然複数出てきて背後を取られたこともあったが、落ち着き払って対処した。……元々戦争にも出ていた男なので、乱戦や多人数戦もお手のものの様子だ。


「ところで敵、多すぎない? 少しずつしか前に進めないんだけど、この平原の仕様?」


「調整がてら、今は増やしているな。

 うーん……やはりもう少し鬼畜な要素を入れるか?

 例えば突然強い魔物が出てきて、襲いかかって来るとかどうだ。レベルが二十も違えば皆が驚くだろう」


「それは、やめた方がいいと思う……アルバに合わせたら、子供たちには難しくなり過ぎちゃうと思うよ?

 遊びなのに突然の理不尽に晒されると、楽しかったはずの遊び自体が嫌になると思うし……俺は今みたいに『自分に出来ること』を一個ずつ積み重ねていく経験も大事な勉強かなって感じてたから、変に調整しないでほしいな」


なるほど、確かに。

我が子を心から愛するシャグマの言葉に絆されたため、私も管理者画面を閉じて彼の頬に擦り付いた。


「お前はやはり優しいな。

 貴重な意見に感謝しよう。今後も頼りにしているぞ」


綺麗な顔が私を振り返ったから、こっそり口付けた。

肩に乗るほど小さな案内妖精の感触など微々たるものかもしれないが、シャグマが緑柱石の瞳を丸くしたから、恥ずかしくて笑ってしまう。


「つい、してしまった。……今のは内緒だぞ? アルバにやきもちを妬かれてしまうからな」


唇の前に指を立てて、愛しい夫相手に秘密を願う。

褐色肌の男は頷いてくれたが、きめ細かな頬には薄く朱が差している。


「……くう、うちの案内妖精が可愛い。小さいのに破壊力抜群。撫でてあげる」


「ふふ、構ってくれるのか? なんだなんだ、嬉しいぞ」


頬を優しく撫でてくれるシャグマの指が、心地いい。

猫のように案内妖精を構ってくれる指に甘えて擦り付いていると、戦い終わった男が戻ってきた。


「おかえりー、アルバ……あ、これは」


しまった、シャグマといちゃついている間に、アルバから目を離していた。

恐ろしい状況を想像しながら顔を上げると、戻ってきた夫が目の前にいる。


滅多に見ない、汗だくで。

十八歳くらいにしか見えない童顔の可愛らしくも背の高い少年が、荒い吐息を漏らしながら上気した頬を拭っている。


全身にピッタリと張り付くような格闘家の服が、戦うことで膨らんだ筋肉によって押し上げられている。

綺麗な裸体を黒布が強調しているようにすら感じながら、色っぽく掠れた低音の声を聞いた。


「流石に疲れた……体の重さにも慣れた気でいたが、動き続けると負荷が強いな……次々に敵が襲ってくるから、ボクでも相手が難しかった」


黒髪から滴る汗が、綺麗だ。

熱で潤んだ黒曜石の瞳が、シャグマの肩に腰掛けている私を見る。

手が伸びて、指先が私の頬に触れたが……可愛らしい少年顔の男が意地悪く微笑んだ。


「またボクがいない間にシャグマといちゃついていたのか。……この浮気者」


揶揄いながら責める声に、年上夫のイケメンっぷりに、小さな妖精の胸の内など簡単に射抜かれてしまった。


「浮気、した」


「途中から気配が変わったからな……そうだと思っていた。

 ……ほら。シャグマにした分だけ、ボクにもしてくれないのか」


呼ばれるまま飛ぶと、アルバの唇に口付ける。

気絶させて気付けの口づけだと思っていたはずなのに、自分から吸い込まれるように同じ部分を合わせていた。


離れて見つめ合うと、微笑んだ夫が私の小さな顎を撫でる。


「っ」


本当に軽く、引き寄せられて……唇が彼と重なった。

距離感も間合いも何もかも計るのが得意な男が、小さな妖精との間に軽い感触だけ残して、明るく笑っている。


「悪いがシャグマ、海底洞窟までの道中を任せていいか。

 三十体までは数えられたが、それ以上は覚えていないくらい戦ったから、歩きながらでも休憩させてくれ」


「いいよー。俺はほぼ何もしてないし、任せて?」


「ラフィネルは、ボクの肩の上にいるか。

 ああ、それとも……汗っぽい男は嫌か」


急いで首を横に振った。

色気溢れる夫の様子に腰が砕けて動けなくなっていても、羽があるから私は飛べる。


アルバの肩にスカートを押さえながら乗ったが、座るだけで肩の筋肉が熱い。すごい、盛り上がってる。

さらに周囲に湧き立つ夫の男性らしい香りに、本能を刺激する濃密な空気に、欲求を喚起する香水を嗅いだ気分で深呼吸する。


静かに、しかし必死に現状を楽しむ私を見て、シャグマが頷いた。


「すごいね、アルバ。俺といちゃついてた案内妖精、もうすっかり堕ちてるよ」


「ボクが弱った姿が、ラフィネルは特に好きだからな。

 ……待て。まさかとは思ったが、本の中でも匂うのか」


振り返った夫に頷いたが、呼吸するだけでずっと良い匂いがしている。

普通は男性の汗の香りなどお断りだろうが、運動慣れしすぎて今や何をしても心拍数が上がらないアルバに流れる汗は、共に寝屋に入り、妻相手の運動に興じた後にだけ感じられる特別なものだ。

夫は照れ臭そうにしているが、私は満喫している。……胸いっぱいに香りを吸って彼を感じられるなんて、最高の気分だ。


「それじゃ、敵がいなくなった今のうちにさっさとこの場を抜けちゃおう。

 アルバの強さなら、もう海底洞窟も抜けて良さそうだからね」


シャグマがそう伝えて歩き出したのに合わせて、黒髪の格闘家も前へと進んだ。


……夫が弱った姿というのも、やはりたまには良いかもしれない。

爽やかな風とアルバの香りを交互に聞きながら、蕩けるような心地で吐息する私は、熱い夫の体も合わせて心ゆくまで堪能してしまった。うん、好き。やっぱり大好き。

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