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ふたりの夫と本の中での冒険を楽しむお話。  作者: 丹羽坂飛鳥


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職業変更

食事を終えて家庭教師の授業が始まる時間まで、我が子たちと遊んだ。

すると用事を終えたらしいアルバも戻ってきたが……これがかなりご機嫌だった。


「本の世界は自分の体を動かしている感覚になれるのがいいな。色々試してみたいことが出来た」


遊びすら訓練になるように作ってはいるが、実感してもらえたようで何よりだ。

私と一緒にすごろく遊びをしていた六歳の娘も気になったらしく、私そっくりの空色の瞳を輝かせて腰に飛びついている。


「いいなー母様、父様たちと遊んでるの? エルテも一緒に遊びたい!」


「母様も一緒に遊びたいけれど、まだ試作段階で不具合も多いんだ。

 大きな怖いお猿さんを見てシャーちゃんが驚いたり、まだまだ調整中だから、完成したらみんなで遊ぼうな」


「あれで驚かないのはアルバとエイルくらいだって。

 でもみんなのためにもなるお話を母様が頑張って作ってくれてるから、楽しみに待ってようね」


絨毯の上に胡座を組むシャグマに座って背中を預け、桃色の髪を撫でてもらっているエルテの双子の妹ニアも、得意げに鼻を鳴らしている。


「妖精の手作りゲームブックとは懐かしいもので遊んでいるの。

 参考になるはずだから、大昔にあの女が作った本も探しておいてやるの。城内のどこかにあるはずだから、見つけたら遊んでみるといいの」


「初代様の作品が、城内に?」


「そうなの。容量が足りないなどと言い始めて、運命の妖精としての力で拡張に拡張を重ねた、もはや別世界を体験出来る本だったの。

 ……ニアは目の届かない世界にあるお話は好きなの。

 母様のものも完成したら、一番に私たちに遊ばせるの」


エルタニアの土地も、妖精なのに人間として生きられる体も、自らに必要なものの全てを『運命の妖精』の力で作り上げた初代女王の作品など、想像すら出来ない。


彼女と敵対していたニアは『あの女』と呼んでいるが、世界の始まりから全てを見届けてきた死の妖精ニアすら認める本には、純粋に興味も沸く。

少々恐ろしいものが掘り出されそうな予感もしたが、可愛い娘たちと本は必ず完成させると約束を交わした。我が子に楽しみにしてもらえると嬉しいものだ。




家庭教師が呼びにきたので私たちも部屋に戻ると、再び本の世界に入った。

私は昼前と同じく小さな案内妖精に変わり、アルバが青の旅装束に、シャグマが緑の弓使いに変わった姿で、先ほどまで訪れていたツギノ村に立っていた。


「本当に栞を挟んだみたいにその場に復帰できるんだ、便利な本だね。

 ねえアルバ、まずは冒険者ギルドに行かない? 職業を先に変えてから武器を見に行こうよ」


「そうだな、その方が無駄にならない」


予定を決めた夫たちと、冒険者ギルドの大きな扉をくぐる。

相変わらず忙しそうに熊のぬいぐるみが書類に肉球判子を押しているのを見て、シャグマが私に目を向けた。


「ねえラフィネル、始まりの村も熊のぬいぐるみがギルド職員だったよね。

 もしかして、配役って決まってるの?」


「統一感があった方が良いと思ったから、初期設定としてはギルド職員を全員熊にしているぞ。

 掲示板に依頼の張り出し作業などもあるから、二足歩行するぬいぐるみが良かったんだが……私では立ち上がれるのが熊以外に思いつかなかったんだ」


実際に大熊が立ち上がって威嚇してきたこともあったし、私には馴染み深い動物である。……言うとシャグマが傷つくから、言わないけど。

ギルドの中には申請や取引に来た道具たちがいる。

彼らにももちろん、各々の役目を設定している。


「村の中には手足が生えた道具や、様々なぬいぐるみが生活しているだろう?

 こちらもある程度、職業ごとに配役は決まっているんだ。

 エルタニアの妖精が能力ごとに得意な仕事があったり就きやすい職業があるように、この世界でも水撒きが得意そうな道具は畑にいたりする。

 朝早ければ、柄杓が自分の体で水を撒くなんて豪快な姿も見られるぞ」


「時間の概念まであるんだ。

 ふふ、君が凝って作ったのがよくわかるよ。

 見られるのが今から楽しみだね」


窓口が空いたから向かったが、こちらの熊のぬいぐるみは腕章をつけている。職業変更も可能な上級熊だ。


「いらっしゃいませー。冒険者さんですね。

 戦利品の交換ですか? 職業の変更ですか?」


「ボクは戦利品の交換を」


「俺は戦利品の交換と、職業変更の両方をお願いしたいです」


「かしこまりましたー。では、職業はこちらからお選びくださいー」


戦利品の交換は道具袋から自動的に行われ、それぞれの交換額に応じたラールが支払われる。

冒険者カードに溜まっていく額を確認したが、巨猿の討伐もあったから、二人ともそこそこの額になっていた。


「職業変更は初回だけ基本装備がつきます。

 でも売ってしまうと変更画面も丸腰になってしまいますので、お気をつけてー」


シャグマはギルド職員によって、職業の一覧が目の前に表示されている。

能力の詳細を見るために指で触れると、姿まで変わる仕組みになっている。


剣士、格闘家、盗賊、踊り子。

短い白髪に端正な目鼻立ち、褐色の肌にはデア産の最高級の緑柱石が瞳として嵌め込まれているとも評される美男子が、次々に新しい格好になる。

王道の衣装から際どい衣装まで、なんでもある。

だからそばで妖精らしく浮く私はつい、着替えていく夫を見て楽しんでしまった。


「ふふ、色男の生着替えなど、たまらんな……衣装ごとに違った美しさが出てくる。

 頼んでも着てくれない衣装も、今ならお試し放題とは、最高ではないか……」


「ラフィネル。試着室でも作ってやったらどうだ」


目の前で次々と着せ替えが行われるのをうっとり見ていると、やきもちを妬いたアルバに体を掴まれて、指で目を覆われてしまった。

暴れるけど見えないから唯一動かせる腰を曲げ、体を掴んでいる指を舐めて噛むなど必死にくすぐってやったら離してもらえた。私の勝利だ。


真っ赤になっている夫の肩に乗り、首筋に猫のように顔を擦り付けると、シャグマの職業選択を一緒に見守る。


……元々本の中に用意されていた衣装だが、どれも瞬時に着せ替えが終わる。

それに装備を変えても下着は必ず着用しているので、見せたくないものが出るような仕組みにはなっていないことも素晴らしかった。


「お互いに衣装を見せながら格好を選ぶのも醍醐味かと思ってな。

 まあまあ、ぽろりとはこぼれ落ちないから安心してくれ。

 もちろん、こぼしてくれてもいいぞ。どうせいつも見ている」


「実際に突然こぼしたのを見たら、恥じらって狼狽える人が何か言ってる気がする。

 心構えがいるでしょ、君も……あ、これがいいかな」


青の透明な板に表示された選択肢に触れ、シャグマが最後に選んだ職業は探検家だった。

探検家は、回復も攻撃も両方出来る職業だ。

中途半端になりやすいが、道具の使用効果も高くなっている。アルバの補佐をしたい彼らしい選択かもしれない。


「職業技能に『応急手当』なんてあるし、アルバを道具だけじゃなく回復出来るのもいいね。どう?」


「露出度が低くて案内妖精は不満そうだが、いいんじゃないか」


「別に不満じゃない。うまく選んだと思って唸っていただけだ」


帽子に防塵眼鏡、首元にはデアの砂漠を進む時に使うような布を巻き、泥土色のベストの上に茶色のジャケットを羽織っている。

頑丈そうな服には多くのポケットが付けられているし、腰には多数の道具をベルトに取り付けて収められるようになっている。

腰につける道具は五つ登録が出来るし、探す手間もなくすぐさま使用が可能だ。足が長いからズボンもよく似合っている。


「露出は低いが純粋に似合っているし、格好いいぞ。

 弓も短剣も装備できるから、扱い慣れている武器で戦えるのも良いだろう」


「ふふ、じゃあこれにしようっと。

 試しに『応急手当』」


巨猿を倒してからまだ回復していなかったアルバで使用感を確認すると、状態変化を示す画面が出て生命力がほとんど回復したのが見えた。


「ボクは今後、回復をシャグマに任せられるのか。……便利な技能だな」


「うむ。ただし応急手当は固定値回復だから、そのうちおまけみたいになってくるぞ。

 咄嗟の回復に使えるが、再使用には時間が必要となっている。

 探検家は道具使用にこそ華のある職業だから、道具屋では多めに回復薬を買っておくといい」


「なるほど、討伐報酬で道具も買って経済回してくれってことね」


頷いたが、シャグマはよく理解している。消費はこの世界であっても重要なのだ。

我が子たちに経済活動の一環も教えることが出来るはずだと、教材としての使い方も考えている。


「医者が探検家か……面白いな。

 せっかくだから、ボクも剣士から変えてみるか」


なん、だと!?

興味が出たらしく、アルバも熊のぬいぐるみに職業の一覧を見せてもらい始めた。

画面を押すたびに着替えが行われるが、背の高い黒髪黒目の可愛らしくも格好いい少年が、鍛えられた体をさまざまな衣装で包んでいく。


槍兵、忍者、魔法使い。

普段のアルバが着ないような服ばかりだ。

踊り子だけは飛ばされてしまったが、何を着ても似合うし、大人の男の衣装替えが大変新鮮なので、こちらも凝視してしまった。


「はあぁ、すごい……っアルバがこんな格好になるなんて、夢のようではないか……!」


「妖精ちゃんは全部好きみたいだね。

 んー……悩んでるなら格闘家はどうかな、アルバ。

 格闘家の職業技能に『弱点感知』って便利そうなのがあったんだけど、拳武器以外は装備不可になってたから、打撃技が苦手な俺じゃ選ぶ気しなくて。

 でもアルバは特殊技能で全武器使用と装備が可能だから、剣も装備できるし……次の町までくらいなら、試しみてもいいかも」


「この世界で体を動かして戦うのも面白いな。

 わかった。体術も得意だから、乗ろう」


二人で相談の上、格闘家にしたアルバの格好が変わる。

上半身には薄い黒の袖なしシャツに手甲、下半身も動きやすそうな黒のズボンに脛当てがついている。

身軽な格好だから、その分全てが薄く、装甲には欠ける。


「……っ、すごい……っ」


だがしかし、筋肉がしっかり鍛え上げられているアルバには、とてつもなくよく似合う。


胸筋が。背筋が。腹筋が。

黒布で覆われたのに、強調された。


デアの暗殺者の衣装に身を包んだ時のようにピッタリとした服を着ると、彫像のように美しい全身がまざまざと見えてしまう。


「いいね、よく似合ってる。

 見て、不埒な妖精さんも大喜びみたいだよ」


つい興奮してアルバの周りを飛び回っていると、シャグマに掴まれてしまった。

腰を指で掴まれて夫を正面から見せられたが、かなり似合っている。


「……その……アルバ。

 格好いい……お前のことが改めて好きになるくらい、格好良いぞっ」


見つめ合うのが恥ずかしくて、うわずった声でお伝えした。


「……そうか」


アルバは顔を逸らすだけで、それ以上の何も返してくれなかった。

しかし隠そうとした顔も、耳も頬も全部赤くなっていく。もしかしたら彼も照れたのかもしれない。


「うんうん、相変わらず初々しいね。

 よし、それじゃ職業も決めたことだし、情報集めと武具買いに行こうか」


こうしてギルドを出た夫たちは、新しい武器を購入した。

アルバは近距離武器の鉄甲だ。純粋に攻撃力が上がった。

シャグマは皮の鞭や回復薬などを購入し、腰のベルトに提げている。弓が遠距離攻撃だから、中距離を補完した形だ。


「鞭か……お前はやっぱり鞭が似合うよな」


「ラフィネルも興味があるなら受けてみる?

 本の中なら痛覚無くすとかも出来そうだし、新しい世界が見えちゃうかも」


皮の鞭を伸ばして音を立てたシャグマ相手に、慌てて首を横に振った。


「待て、やるにしても今じゃない。

 案内妖精の体は鞭を受けるには小さすぎるんだ。吹き飛んでしまう」


「……まさか本格的な回答が返ってくると思わなかったよ……」


「!? 検討しない方が良かったのか?

 待ってくれシャグマ、なぜ笑っているんだ、違ったのか!?」


上手なシャグマに揶揄われもしたが、拗ねると撫でてなだめてくれたから許した。

その後は村人に聞き込みを続けたが、有力情報も得られた。


「大きな黒いドラゴンですか? 南東の方角に飛んでいくのを見ましたよ!」


「でも中央大陸に渡るためには、海底洞窟を進む必要があるんです。

 最近は鍵を閉められているから、通れずにみんな困ってるんです」


情報をまとめるため、旅慣れているアルバが地図を開いて書き込んでいく。

シャグマも一緒に見て、ドラゴンの飛行経路について相談している。


「どうやらニコメの町に行けば、さらに話を聞けそうだな」


「じゃあ海底洞窟が町よりも手前にあるから、一回様子見に行こうよ。

 鍵のことも現地なら、誰かわかるかもしれない」


顔を突き合わせた夫たちの順調さに私も安心しながら、ツギノ村を後にしたのであった。

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