9.惑星・美輝を巡る:そこは湖畔だった
短い樹上生活が終わり、浅い湖の畔に飛ばされた。海辺の家と同じ仕様の家が、念には念を入れたのだろうか、川べりに設置されている。
A:ここなら農耕ができるのではないか
M:そうですね、できると思います。周囲の地形の確認が終わったら、
米を作ってみます
米って、バケツでもできるのです、まずそこからやってみます
A:気候との関係もあるだろう
M:もともと亜熱帯の植物ですから
日本では今は寒冷地でも育つように品種改良が進んでいるようですが
窓から外を見る。湖の浅い場所や島部分には、鳥がたくさんいる。白い鳥が目立つ。サギに似ているだろうか、むしろハクチョウだろうか。距離があることでもあり、美希には区別がつかない。
湖というより、沼と呼ぶ方がいいかもしれない。岸辺にはススキやヨシのような植物が水の中まで根を伸ばしており、足の長い大きな鳥が背の高い草の群生を出入りしながら膝を曲げて歩いているのが見える。時々水中にくちばしを入れ、水草のようなものを咥えているように見える。
所々に枯草が集まってできた浮島もある。窓をわずかに押してみれば、コウコウ、ギャアギャア、ホイーフ、と鳴き声も聞こえる。虫が多いようで、窓を開けるなら網戸が必要になるだろう。いや、まず、玄関に網ドアを取り付ける方がいいかもしれない。
Tシャツの上から長袖シャツをはおり、服の上から防虫スプレーをかけた。そして、意欲的な気分で外に出てみた美希だったが、ほとんど瞬間で家に逃げ込んできた。
M:アイザック、すいません
A:どうした
M:虫の数が
すごくたくさん虫がいて。トンボくらいのから蚊ぐらいのまで……
A:被害は?
M:すぐ引き返したのでありませんが
でも、髪の中まで虫が入ってくるような気がして
A:防御方法はあるか
M:そうですね、まずそれを考えてみます。呼び出してしまってすいません
A:問題ない。こちらでも解決法を探してみよう
三日後。
M:アイザック-!
A:どうした、ミキ
M:コメの種がありません!
A:米は食品リストにある。植えればいいだろう?
M:アイザック、私、心からモニターになってよかったと今思いました
というか、よくぞプロジェクト実施前にモニターを送ってくれました
A:そうか
実施前にモニターを送るというのは、アマネの案だったが、
適正であったのだな
この先の同様のプログラムのために、特筆しておこう
美希は、自分でも若干訳がわからなくなりかけ、冷静! と呟いた。「モニター」に気が行きすぎている。興奮しすぎては米と籾についてうまく説明できそうもない。
アイザックは、モニターという単語を受け入れた。あっさり受け入れたが、アイザックがモニターという単語を使ったことはない。美希は、もし日本人であるシロサキ・アマネがこのプロジェクトは移民計画であると知っていて、密かにメッセージを残そうとしたならば、きっとモニターという言葉を選ぶだろうと推定した。それは“このような場合”に独特の意味合いで使用する単語だからだ。
日本語で「モニターを募集する」と聞けば、それは何かのプランが本格的にスタートする予定である、と人は思う。モニターを募集する、とか、旅行や商品のモニターに応募するとか言う時、モニターとは、プランに“参加”してその実施を評価する人のことで、評価を必要とするだけの大規模な計画があることが前提となっている。
評価自体は真の目的ではない。評価によって、プロジェクトの実施に複数の選択肢がある時、“微調整”することこそが目的なのだ。もちろん、評価次第で計画は破棄されることもありうるのだろうし、よくあるのはそれ自体が「広告」であることだ。
ただ、この「絶滅危惧知的生命体緊急保護プログラム」は、あまりにも大規模かつ異質で、広告とは思えない。
”この星への人類の移民は決定している”、その前提でチャットを進めてしまおう。きっとアイザックは気が付かないだろう、だって、アイザックにとっては当然の事なのだから。きっと、話が早くて助かる、程度にしか認識できないに違いない。計算で物事を計る人の限界だ、相手も“計算”して同じ結論に達したと無意識に誤認してしまう。
次話でも、米、稲、育苗についての話が出てきます
これについては、現役の農家の主婦で、お連れ合いは農協に勤務している、やはり現役の農夫である
という知り合いの方に、直接不明点を確認しました
もちろん、誤りがあれば、その責めはすべて作者・倉名にあります
おまけの情報:
今、農家さんは、結婚相手として評価が高いそうです。出会いは大学時代が多いって言ってました
お話を聞いた彼女は、地元婚だそうですけど、「都会からお嫁に来る人が増えて、組合は喜んでいる」という趣旨のお話をしてくれました。何でも、「自動車が運転できるなら、コンバインは楽勝」だそうです




