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モニター  作者: 倉名依都
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6.次元転移


 次の朝、再びアイザックとのチャットが始まった。


A:おはよう

M:おはようございます

A:情報を受け入れられるか

M:大丈夫です。家の外に出て、海と空に絶叫してきました

A:え?

M:いえ、まあ。大概のことは空に向かって“ばかやろー”と叫べば

  なんとかなるのです

A:……そうなのか?


 アマネは、情報過多に陥ったり、混乱したりしたら“寝てくる”ので、アイザックはおそらくミキも寝てくるものだと思って「質問は明日」としたのだったが。なにか間違っていたのだろうか?


M:いえ、まあ

A:まあよい。今日のレポートは行えるか

M:大丈夫です。仕事ですから


 そうだとも。これは年収一億、二年で二億、税金を払っても二年で約一億円の大仕事なのだ。少々のことで驚いている場合ではない (少々のこと? なのか?)。 途中で帰されたら大損なだけではない。PAにこんな話を信じてもらえるわけもない、信頼失墜ではないか。

 これがどんな茶番だとしても、あるいは、信じがたい現実だとしても、求められているのはレポート、日本人がここで生きて行くためには何が必要なのか伝えることなのだ。


 美希は気合いを入れ直した。



A:始めたまえ

M:まず、キュリの子機、マリー・キュリの並列機の名は、ピエール・キュリとします

  マリーの夫、物理学者の名です

A:記録した

M:アクセス権をありがとうございます。アクセスの仕方を教えてください

A:まず、テーブルの上にタブレットを届けよう。タブレットというこの名は

  地球の言葉として馴染んでいるとして、アマネが選択した


 テーブルの上に、縦横十二センチ、二十センチ程度の大きさの板が現れる。思わず目を見張ってしまうが、それは要するに少し大きいスマホのようなものだと思っていい。


M:あ、あいざっく……。突然目の前に現れたのですが

A:それは、ミキのおよそ真上に静止している支援船から、次元転移で送られた。

  ミキが地球から美輝に来た時に使われた航法を

  超短距離用に組み替えたものだ

M:あのー、わかりません

A:もっともなことだ。地球の知的生命体は、まだ三次元理解までしか

  持ち合わせていない。だが、人類が生き延び、多次元への

  数学理解度を上げて行けば、これはたやすく実現できる

M:はあ


A:簡単に説明するが、わからなくてもよい

  紙の端と端にマークする。そのマークを重ねるにはどうするかね

M:折り畳むか丸めます

A:そうだね。二次元を三次元で越えたのだ

M:はい?


A:紙を、縦と横しかない二次元の世界と思いたまえ

  そこに住んでいる知的生命体は、マークからマークまで

  紙の上を進むしかない

  仮に途中に石のような障害物があれば、そこを回り込むしかない

M:はい


A:だが、三次元、つまり高さのある世界なら、マークとマークを

  重ねて、マークからマークへと即座に移動することができる

M:あ、はい、わかりました、いえ、わかったような気がします

  三次元で考えるとすごく離れていても、それ以上の次元を

  理解して操作できるようになれば、三次元距離を、丸めたり

  折ったりして、重ねることができる

  アイザックはそう言いたいのでしょうか


A:そのとおりだ

  これは、アマネがキュリに回答した内容で、ミキにも理解しうるだろう

M:え、はい、まあ薄っすらとは

  それでは私は、地球からここまで、まるで空間を折り畳むようにして

  重ねるという航法で瞬時に運ばれたということでしょうか


A:そのように考えてよい。理解できたかね?

M:いえ、到底理解できたとは言えませんが、そういうこともあるのだ

  ということはわかったような気がします。まるで魔法のようだと

A:魔法?

M:あ、そうですね、超能力と言い替えた方がいいでしょうか

  人間も、そういうことができるかもしれないと想像はするのです


A:それは重要だ

  想像できないことは実現できないものだと、キュリがアマネに言った

  私は、計算が及ばないことは実現不可能であると言おう

M:そうなのですか


A:ミキが関係する手術もそうだろう。ヒトの体を切り開き、縫い合わせ、

  生き延びさせることができるようになるためには

  なんとしてもそうしたい、できる方法はあるはずだという

  強い動機がなくてはならなかったのではないか

  その動機があったからこそ、可能な方法を探し求めたのであろう?

  多くの考察と実験、データの検討を経て、麻酔という手法を開発、

  手術ができるようになったという記録を読んだ

  麻酔は美希の専門分野ではなかったかね

M:はい、確かに


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