2.任地に到着する おまけ:文系ピープル向けの科学的な何か (1)音速と光速
あとがき、長いです
よく眠って気持ちよく起きた美希は、眠りに落ちた時と同じ服装でベッドカバーの上に横になっていた。オランダのホテルでアイザックと通信中に突然眠りに落ちたこと、目が覚めたらコンタクトしろと言われていたことを思い出した。律儀な性格なので、とりあえずベッドから体を起こして周囲を見回し、パソコンを探した。だが、どこにもない。
あれ? と思って立ち上がりベッドルームを出れば、リビング・ダイニングだった。テーブルにパソコンが置いてある。いろいろと聞きたいことで一杯になりながらも指示に従おうとし、一瞬光の来る方へと顔を上げたその視線の先、ガラス窓の向うに見えたのは、白い砂浜と青い海だった。 そうか水着はこの為か、とどこか納得しながら美希は画面を立ち上げチャットに入る。
但書:Mは美希、Mikiの、Aはアイザック、AiZakの、口語体文書である。
M:アイザック、到着したようです
A:問題なく到着したようだ
M:イエス、アイザック。ところで、ここはどこですか?
A:唐突だが、ミキは君が生まれた地球がある天の川銀河系の形を知っているか
M:え? はい、一般知識でよろしければ
渦巻き状で、星が比較的多く集まっていることでできる何本かの腕がある
風車型をしていて、
太陽系はその何番目かの腕の割と先の方にあると聞いています
地球は天の川銀河の中では星の少ない場所にあるとか
プラネタリウムで知りました
A:ミキの知識に合わせて言えば、ここは、現在太陽系があるオリオン腕の
隣の腕にある星系の、第四惑星だ
画面に銀河系の簡易絵図が映り、地球の位置と現在地が矢印で示される。
M:あの、え?
A:驚いただろうな
M:ええーっと
A:状況は徐々に話そう、急には受け入れられないだろう
この惑星に哺乳類はいない
昆虫、魚、爬虫類、両生類、鳥類に相当する生き物は存在しているが、
哺乳類に相当する生物は発生しなかった星だ
M:あの、これだけは確認させてください
契約通り二年後には帰れますよね
隣の腕といわれましても、ここに移動するまででも
かなりの年月が経過しているのでは
A:心配ない。ミキには想像しがたいだろうがわれわれにはたやすいことだ
仕事をしてもらうために送り込んだのだ、契約は順守する
M:え、え? そうなのですか?
A:ゆっくり説明していくことにしよう。大丈夫だ
M:はあ
A:この周囲の安全は私が保障する、攻撃的な大型生物はいない
人類に係わる伝染病もない。そもそも哺乳類がいないから
二、三日この周囲を散歩するなり探検するなり、ここに馴染んでみてはどうか
M:え、あ、はい。 そうしてください。かなり混乱しています
A:この星にも星系にも名前はない、知的生命体のいない場所だから
美希には名をつける権限が与えられている
M:それでしたらもちろん、もちろん恒星アイザックですよね
そしてアイザック恒星系ミキ星ですよね!
漢字を使っていいなら、美しい輝く星と描いて、美輝星などどうでしょう
A:いいだろう。 そのように記録する
M:ふふふ
A:食事について説明する
M:はい
A:キッチンを用意したから料理ができるだろう
だが、落ち着くまではクッキング・システムを使うことを勧める
M:え、はい。クッキング・システムですか?
A:そうだ。キッチンにある
メニューボタンを押せば、料理が出てくる
M:あ、はい
A:今日はこれまでとしよう。観察と慣れに時間を使ってくれたまえ
M:わかりました
美希は、落ち着くためにとりあえずコーヒーをいただこうと思った。まずは一息、慌てて何かを始めてもろくなことになりはしない。コーヒー、コーヒー、と思いつつキッチンに行き、そこに設置してあるちょうどドリンクの自販機くらいの大きさの機械の前でしばし考え込む。
「うーん、クッキング・システム?」
その機械に似た物といえば、大型フード・コートのチケット販売機だろうか。写真の下のボタンを押すと、券の代わりにできあがった料理が出てくるようだった。試しにコーヒーのボタンを押してみる。と、ちょうど美希の腰あたりの開口部の奥から紙コップに入ったコーヒーが差し出されてきた。
「お味はどうかしら」
口をつけてみると、何と言っていいのか、そう、コンビニのコーヒーの味がした。
「こんなものかしら?」
あとでお食事も試してみましょう、と改めてメニューを見た。そこには、ラーメンやカレーのような日本では一般的と思われるメニューはなく、パン、グリルド・サーモン、ラムチョップ、フライド・チキン、コーンスープ、フレッシュ・サラダ、フライドポテト、カップド・ライス、コーヒー、ミルクという、どことも特定できそうではない、文化混合地帯のような料理が並んでいる。
「うーん、どうかしら?」
間もなく日が落ちる。食事時にクッキング・システムの料理を試すことにして、ペーパー・カップのコーヒーを手にしばらく外を眺めていた。
それは美しい景色だった。青い海、穏やかに寄せては白く泡立ち返す波、内側に緩くカーブした砂浜、暮れかけている青い空。砂浜には蔓植物が長く蔓を伸ばして、薄いブルーの花を咲かせている。高水位線には貝殻や海藻が残されていて、流木も打ち上げられているようだ。美希の知っている海と違うところといえば、プラスチック製品や発泡スチロールのトレイのような漂着ゴミが見当たらないところだろう。海洋ゴミは、絶海の孤島にもたどり着くと聞いている。とすれば、ここには人類が存在しないというアイザックの説明も与太話ではないのかもしれなかった。
美希は、アイザックの言うことをそのまま信じるほどお人好しではないつもりだ。ここが地球外惑星だというのも、いわば依頼主の気まぐれのようなもので、そのうち「冗談だったのだ、悪かったね」とか言われるのだろうと思っていた。だからこそ、星系の名といわれても惑星の名といわれても、軽い冗談で受け答えした。
だってそうだろう、アイザックの話が本当に身近な未来だとするなら、ここに来た日本人は、恒星を太陽と呼び、この星を地球と呼ぶに違いないのだ。それは、遠く離れた地に移民した人々が離れた故郷の名をつけるのと同じこと。そう、ニューヨークのように、ルイジアナのように。日本にだってたくさんの例がある、たとえば北海道に広島があるように。
ふーん、と頷きながらも「さあ仕事しよう」と、現状確認から始めることにした。しばらく住むことになるだろう、この家のチェックから始めよう。
床、壁はすべて木製、おそらく天井もそうだ。平屋のようで、二階に上がる階段はない。美希が目覚めたベッドルームとパソコンが置かれていたリビング・ダイニングの他に、ベッドルームが二部屋、キッチン、バス、トイレ、ストエッジと思われる小部屋がある。一部屋ずつ入って確かめてみる。
ふたつのベッドルームには、ベッドの上にマットレスが置かれているだけで、すっぽりと透明なカバーで覆われている。天井には照明が設置されており、スイッチを押せば明りがついた。電気は来ているのかもしれない。
キッチンは、システムキッチンのように見えはするが、レバーを操作しても水は出ない。ガステーブルのスイッチを押すと、こちらは炎が出る。説明書きが置いてあり、“この調理機器は、屋外設置のガスボンベに繋がれている。ガスが尽きたら、リクエスト・ボードで交換を求めることができる”とある。何だろう? 上下水道とガスラインが張り巡らされた都市に生まれて生きて来た美希には難関だ。しばらくはクッキング・システムのお世話になるしかないのだろう。
バスルームをチェックする。入ってすぐは洗面・化粧室とでもいうべきスペースだが、レバーを操作してもやはり水は出ない。左手のドアを開けるとバスルームで、バスタブとシャワー装置がある。バスタブの中に説明書きがあり、「ここで使用する水は、雨水である。雨水は、ソーラー温水器で湯となる。レバーでシャワーとバスタブに給湯を変更できる」とある。 え? 雨の水でシャワー? お風呂? うーん、どうなんだろう?
右手のドアを開けると、洗濯・アイロン室とでもいえばいいのか、洗濯機やアイロン台を設置する場所のようで、リネン棚と物干しがある。だが水の供給が雨水では、洗濯だってどうなることだろうか。お風呂の残り湯で手洗いなのかもしれない。
次はトイレだ。洋式便器が設置してあるが、やはり水は出ない。うーん。そこに海があるのだから、トイレの水には不自由しないということだろうか?
最後にチェックしたストエッジは玄関の脇にあり、明り取りの窓の他には棚が並ぶだけで何もない。
さあ、どうしたものか。水がないというのは致命的な欠陥なのではないだろうか。美希は、このことは明日アイザックに改善を求めるべきだと結論し、キッチンの棚に並んでいた飲料水のペットボトルをひとつ取って外に出る。何歩か前に進み、砂浜に踏み入る前に振り返って家を見るとそう、それは一時期大規模に宣伝していた北欧のハウスメーカーのモデルハウスのように見えた。木材によるツー・バイ・フォー仕様でグラスウールによる断熱と遮音性能を売りにしていたと覚えている。水色やオレンジ色に塗られた外観が目立つ建物だったはずだ。
美希が振り返った家の外観は、焦げ茶色の壁に黒い屋根。緑の木々を背景に、しっくりと馴染んでいる。
間もなく日が落ちる。電灯がどのくらいの時間使えるかもわからないので、今日はもう食事をして、ベッドに入っていようと玄関から家に戻っていった。
文系ピープルが読んでくれていると思われる“なろう”なので、文系のための物理とか科学とか
フツーSFは理系男子好みのが多いよね。小難しくてわからんと思いがちの文系ピープルにもSFを親しんでもらえるといいな~、というコラムです
作者・倉名は、文系のヒトです。アタマはたぶん文系で出来上がっていると思われますが、ロマンス系に興味がない分、余った好奇心が科学に向いているのだと思っています
あとは、なんてったって、数学の(中学)教師や(高校)教論が全員男性で、女子がわかる数学の教え方を知らなくて、こっちは男性に嫌悪感と忌避感がある年代で、双方歩み寄り皆無で数IIまで耐えたとかいう個人事情があるかもしれません。
理系に男子が多いのは、高校一年次という高等教育準備スタート時に、女子の理系化に失敗しているからなのじゃないかな?
文科省に、数学教論の半数を女子にしてほしいと嘆願したいです! 数学教師も!
数学の時間には、クールな女性教師や、ツンツンの女性教論に会いたかったです~、赤点生徒がいないとにっこり微笑んでしまったりして~、それだけで数学が好きになる!
物理と化学には女性教論がいたもんな~、なんで数学だけな~
それでは、文系向きの物理から、「音速」、いきまーす
「光の速さと音の速さ」がサブタイトルです
打ち上げ花火はお好きですか?
ピカッと光って光の花が咲き、ドーンという低い音が続きますね
「光が先、音が後」です
遠くで花火を見ていれば確実に、光が先、音が後になることに気が付いたことがありますか?
これは、簡単にわかると思いますが、光が進む速さと、音が進む速さに「大差」があるからです
ちょっとだけ数字
光の速さ:秒速約30万キロメートル、300,000km、メートルに直すために
1,000倍して、つまり、ゼロを3個付け加えて:
光の速さ:秒速約 300,000,000m
音の速さ:秒速約 360m
0の数だけで視覚的に納得するほど、この差は凄い! でしょ?
ということなので、つまり、自然現象を数値で表すことができるので、
光を伴う爆発現象が発生すれば、
光が先に来て、後から音が追いかけてくる、
実感とすれば、何かが爆発すれば、先に炎か煙が見えて、後で爆発音が聞こえるという
「現象が起こる理由」を「科学的に」理解することができるようになったのです~
これを理解しているのは、人類だけだよ? 地球上では
これが何の役に立つかというと、光は距離によって減衰しない(何光年も離れた恒星の光が地球に届いている)のに、音は減衰する(遠くまで届きにくい)のは、光と音の「性質・成り立ち」が違うからなんじゃないかとか何とか、まあいろいろ考える人がたくさんいて、現代の理論物理学に繋がっているんだけど、
文系的には割とどうでもいいので、じゃあ、現実にはどう使うのよ、というと、
ずばり! 雷が、自分のいるところからどのくらいの距離の場所に落ちたかわかります!
興味ないってか~、まあまあ、海や山やなんかの開けたところで雷の音を聞いた時、蹲って姿勢を低くしたり、通電性金属から離れたりしてある程度の安全を確保する役に立つからさ~
では、実感実験:すぐ室内に避難できる場所でやりましょうね
ベランダとか縁側とか、安全なところで、遠くから雷音が聞こえるときに待機していましょう
目の前に時計を持ってきておいて、ピカッと来たら秒針を見つめ、1秒、2秒、3秒と秒針の動きをカウントしながら、音が来るのを待ちます
わかるよね~、簡単だもんね
1秒に音は360m進むんだから、3秒カウントできるなら、雷は1キロ以上離れたところに落ちたので、多少は安全かな?
光ってすぐ鳴ったら、急いで室内に避難、300mくらいの所に落ちていて、アブナイ
雷の直撃を受けたら死ぬよね
コツは、1秒で360mと覚えるのじゃなくて、3秒なら1キロ以上先と覚えることかな?
「光ってから鳴るまで、みっつ数えられるならまだ(多少は)安全」かも。10数えられるなら、落ち着いて避難できる場所まで走ろう~
音の速さを割と正確に覚えたい人は、「1年は365日、音速は360m」と数字合わせ的に覚えると楽だよ。1年は365日だったよね、と思う度に、そうそう、音速は360mとついでに思い出す習慣をつけると、記憶は万全! 記憶は反復で定着するからね
体育祭で、タイムを計る役を任されたら「スタート合図のピストルが、ドンと鳴る音を聞いてからストップウオッチを押してはいけない。硝煙が上がるのを見て押せ」という指示を受けると思います
これも(目から入って脳に届く刺激と、耳から入って脳に届く刺激の生理学的反応時間差もあると思いますが)、光と音の差を気にしているのだと思われます
100m走なら0.27秒ほど差ができますよね
100m走で:
音を聞いてからストップウオッチを押したら:11.5秒 の時
硝煙を見てからストップウオッチを押したら:11.3秒 になるよね
相当違いますもんね。記録会やスポーツテストなら大問題です
花火大会の打ち上げ場所と、今花火を見ている場所の直線距離が何メートルくらいか、もう暗算で計算できるよ!
意外と大きい光と音の速度の差、おまけは音速の覚え方、でした~
またね~、Granite
追伸:このコラムは、「モニター」と「絶滅危惧知的生命体緊急保護プログラム」を連載する間、ときどきあとがきに追加の予定です




