13.モニターたち
二年目、アイザックは当初の予定に反して、モニターによるブレイン・ストーミングを行うように方針を変更した。人類は、アイザックが知っている知的生命体とは少し違うようだ、という説明がなされた。
十人同時にチャット画面が繋がり、それぞれの母国語に訳された画面が表示されていく。時差があるため、全員が同時に参加することは非常に稀ではあったが、画面は記録されており、いつでも読むことができる。
ここで、チャットが音声でないことの優位性が十分に発揮される。アイザックに音声・映像通信を提案したのは美希だけではなかったのだが、アイザックはすべて拒否していた。
音声・映像通信は感情を送り、受け取る力が大きいが、それはアイザックという存在には不必要だったからでもあり、数度の翻訳を経ることが本意を伝えない可能性があるということもあっただろう。だが、今となっては、文書で読めることが非常に重要なこととなった。モニターは普通の人々であって、国際会議に参加するような外交官や政治家のように、表情や表現に感情を乗せない訓練を積んでいるわけではない。異なる文化背景を持つ人が十人も集まる場で、誰かが衝動的に強いあるいは宗教的な感情表現をうっかり口にしたり、不快感をあらわにする表情をだしてしまったりすれば不調和は免れない。
だが、文章を打つ以外ないのだから、打ち込みの過程で冷静さを取り戻して書き直せる。受け手も読むしかないのだから、チャットは全体として少し柔らかくなる。不快感を覚えた時にはチャット画面から立ち去り、発言者が何を主張しているのかについてひとりでゆっくり考えることもできる。
モニターの意見を統合しながら、アイザックはプランに変更を加えていく。
生物学者やコンピューター言語専門家から意見が出て、タブレットの大きさや画面配置、読み方が改善されたり、マップ上に自分の位置を表示するかしないか選択できるようになったりもした。仮に追われる立場、追う立場になった時、マップは危険だという意見が採用されたのだ。
十八歳男性からは、魔獣や現地の人々と戦うのか、という質問も改めて出た。アイザックは、そういう惑星は選択していない、シロサキ・アマネに関するレポートを再読するようにと回答した。
天の川銀河に人類が居住可能な地球類似環境の惑星は二千ほどあるそうだ。そこから、人類が文明を築く大きな障害になる生物がいない惑星を選択したのだが、それには先行する日本人女性、シロサキ・アマネと、上級研究者・サクヤの意見が反映されているという。
三十五歳女性からは、すべての人が同じ能力であるのはよくないのではないかという意見が出た。彼女は、単に移民個人の能力について言っているのではなく、タブレットが与える食糧支援、マップ表示などが、全く同じであることは好ましくないという意見を出したのだ。職業経験や人生経験で異なるアクセス権があるべきなのではないか、人は得手・不得手があってこそ、集団で生きて行こうと思うのだから、というのだった。
これには文化人類学者が賛成した。
アイザックは、戸惑ったようだった。これに対して、生物学者と文化人類学者が同じ能力の人を集めると、その中で自然に能力に差が出てくるという社会現象について説明した。
「ある能力ではある個体が一番だが、他の能力では違う個体が一番、という形にしておくと集団が安定しやすいという意味でよいか」
「いや、まあ、それはどうかわかりません。ですが、放っておくとそうなるのです。
アイザックもさすがに受験というのは知らないかもしれません。受験というのは、大学や就職で一定以上の能力を持っていることを証明するための試験を受けることです」
「キュリ、説明を……回答を得て理解した」
「有名なのは、競争率の高い大学ですね。
非常に競争率が高い、そこの学生であることが誇りになるような大学があるとします。
合格するには、その年代の学生の内、テストの成績を点数にして、上から1%以内に入らないと無理、というような大学です。
そこに入学しますよね、すごく粒のそろった学生ですよ、全員。ですが、次第に全学生の試験結果が、自然曲線になっていくのですね。上の方に並ばないで、山形になるのです。理由はわかっていませんが、集団効果だろうと言われていますね」
アイザックのチャットには少しの間が入った。考えている、いや演算しているのだろう。
「ランダムというのもひとつの選択肢か。人を選ばず、個人でなく集団を選べば、そこにあらゆる能力が集まっているということになるのか」
「アイザック、そこはトライ&エラーになるかもです。選ばれる人にとっては試練の連続となるでしょう」




