11.籾を植えて、ご飯を炊いてみる
A:モニターからの意見が出そろった。
M:はい
A:まず、籾だが、国によっては簡単に手に入るようだ
麦もさほど問題はない
農業の専門家からレポートが出たが、米、麦、トウモロコシが重要だそうだ
米は精米して炊くが、小麦は粉に挽いてパンにする
トウモロコシは面白い。そのままでもいいし、挽割り、粉に挽く、
食べ方が色々あるそうだ
トウモロコシも米と同じくイネ科で連作障害がないから
肥料で乗り切れるそうだ
M:そうでしたか。トウモロコシの種なら売っています
虫と鳥の楽園である湖の畔でバケツを並べて籾を撒き、実際に稲を育ててみた。小学生用の育苗セットが売り出されていることがわかり、それを手に入れてもらって説明書きを読みながら丁寧に育てた。
トウモロコシの種も手に入れてもらい、こちらは“家庭農園”を念入りに読みながら、湖の畔に小さな畑を作って育てた。
籾から稲が育ち、米が実るまでには少々時間がかかる。アイザックと美希は、会話を重ねて米が実るのを待ち、刈り取り、干し、精米するところまで極めて小規模ではあるが実際にやり通してみることにした。必要とされる農具の種類は多く、乾燥させ、実を取り、精米するにはかなり複雑な手順と道具、そして天候との兼ね合いが必要であることがわかった。
精米を、瓶に入れた米を棒で突く、という極めて効率の悪いやり方で実験的にやり遂げ、その米をお鍋で炊くという意欲的な作業でついにカフェオレカップ一杯分の“自分ひとりで籾から育てたご飯”を口にした美希は、ため息をついた。
農業が楽ではないことを知識としては知っていたが、実際に現代人が現代農機具なしに米を作り、精米までやり遂げることができるかどうかについては「確信が持てない」とレポートすることになったのだった。
他のモニターも麦とトウモロコシにトライしたようだった。そして、麦はやはり精麦に手間がかかるうえに、粉に挽くところが大仕事となり、水車があった方がいいというレポートが出たそうだ。
トウモロコシは「干すのに天候が問題になるが、屋根のある場所で干しても大丈夫。実を外すのはかなり手間だが、大勢で集まってやれば楽しいかもしれない」というレポートが出たようだ。
アメリカ大陸への初期移民によるトウモロコシ・収穫イベントのレポートが美希のパソコンに送られてきた。独身の男女が集まってトウモロコシ・パーティーという、乾燥させた実の皮を剥いて実を外す単純で面白くない作業を楽しむイベントだそうだ。皮を剥いて中の実が赤だったなら、意中の異性にその場で告白するというお祭りだったらしい。書いたモニターもあやふやな記憶で申し訳ないが、と断っていた。
美希は、それはどちらかといえば罰ゲーム? と思ったのだが、民族性の違いとかあるのかもしれなかった。
そう言われてみれば、と思い出し、美希からも農耕のお祭りに関するレポートを送る。日本でも、田植えのような運動負荷が高く一時期に集中して行わなくてはならない作業については、早乙女と言ったか、未婚女性が赤いたすきを掛けて列を作って早苗を水田に植え、あぜ道では男衆が楽器や歌で盛り上げる風習があった。
しかしながら。 美希は、現代の日本人が再び鍬や鎌をもって稲作に従事する姿を想像することは今一つできないように感じられていた。人間は切羽詰まれば結構開き直っていろんな問題を解決してしまうから、意外といけるのかもしれないが。得手・不得手で分業するといっても、初期的にたった千人しかいないなら、食料生産にほぼ全員の肉体労働が必要とされるのではないのだろうか。
美希は、この「美輝星」で起こりうる、食料生産者と略奪者という暴力的な争いを多彩に思い浮かべてしまった。




