1.反町美希、二年間の仕事を受ける
この作品「モニター」は、2024年の夏に完成し、続編である「絶滅危惧知的生命体緊急救済保護プログラム」は、2024年11月に完成しました
異世界転移をSFで書くというトライアルの一部です
反町美希は、外科医であった母に従って医学部に入った。青春、何それ美味しいの? という学生時代と研修期間を送り、母の執刀する手術で麻酔を担当する日を目標に麻酔科医師になった。それなのに。合格を喜んでもらったのも束の間、母は事故で儚くなってしまった。父の名は知らない。教えてもらおうとも思わなかった。彼に関する記憶は一つもない。
母を失い呆然としたものの、学生時代の師に相談して一度は総合病院に就職した。だが「双子の母娘」とまで言われた大切な母の死のショックから十分に立ち直ることができず、セルフ・コントロールが十全でないと判断して一年ほどで退職した。
ああ、恋のひとつもしておけばよかった、と思っても手遅れだ。祖父母が心配してくれているのだが、美希は存在自体を母に依存していたため、精神的に自立できないでいた。
麻酔医は特殊と言えば特殊な職業だ。手術の間中、患者の全身コンディションをモニターする、神経をすり減らす作業だ。時として十時間にも及ぶ手術を乗り切るため、スタッフと息を合わせ、知力と体力、経験と直感を出し切る。
医療者としての資質は十分備えている。だから、自分が手術中の集中を維持できない可能性があるときちんと判断して、退職を選んだ。問題は美希の心の中にある。そこで、美希はむしろ自分を知らない人、自分が知らない人とのコラボレーションを求め、短期の派遣に登録することを選んだ。例えば、出産や海外出張の医師の短期穴埋めに、引き継ぎの人が来るまでの臨時の勤務に。美希の勤務態度は冷静沈着、手順を順守するから、医療補助者が理解しやすい。判断能力も高く、速くて正確だ。緊急医療にも対応できるとあって、会社を通じて雇用の問い合わせも何度かもたらされた。
だが、美希は踏み切れないでいた。総合病院に勤務して、学界に出席し論文を書き、地位を上げ後進の育成に携わっていく、その道筋に沿って医師の道を歩むには少し心の強さが足りない気がしていた。心の中にいつも、失ってしまった母がいる。アドヴァイスを求めて呼びかけても、もう応えてもらえない。
メンタルを立て直そうと自分なりに戦う数年を過ごした。そしてある日、会社から、長期派遣の話をもらった。二年間で、その間日本には帰れないという。危険手当は別として二年の報酬は二億円。衣食住、各種保険は雇用者持ちだ。仕事内容は、医療というよりも、派遣地で日本人がどんなサポートを必要とするか、特に医療について所感とその根拠を雇用主との質疑を通して報告してほしいというものだ。連絡はパソコン通信限定、専用のパソコンが提供されるという。
報酬の高さに会社は当初乗り気だった。会社には報酬の一割が報酬とは別に月割りで支払われる。
だが、危険手当が高額で、会社側は派遣先が戦地ではないかと疑った。あるいは、日本が戦地となった時の仮定設定による研究ではないかという意見も出た。個人や私的研究機関にしては支払額が高すぎる。国家介入の依頼ではないか。しかし、政府にそんな必要があるだろうか。それは公安の仕事で、訓練を積んだ専門家がいるではないか。
経営会議では、危機管理についての専門家ではない人、一般の立場での対応を求められている可能性もある、という意見も出て、結局は何人かに提案してみて受ける人がいたらこれらの見解も含めて説明しよう、となった。
美希にその話が来たのは、男性に受ける人がいなかったからかもしれない。派遣先が戦地かもという可能性が指摘されたため、女性を送るというのが若干躊躇われたためだ。だが、二年という派遣期間は長すぎるようだった。二年経てば、離れるときに妻や恋人が妊娠していた子も歩いている。連れ合いがいる人に受けられる話ではないし、恋人と連絡が取れないまま二年も離れることはできない。
結局、親も恋人もいない美希に話はもたらされた。
美希は、これって結構今の自分向きではないかしら、と考えた。
医師には、“国境なき医師団”という組織がある。学校やスーパーで集めている使用済み切手の売り上げがこの活動に寄付されていたりして、日常生活であまり意識しないレベルで一般の人々も貢献している。
日本人医師も、この組織に参加する人は少なくなく、美希も参加者の講演会を聞いたことがある。支援先での医療はすさまじいものだそうだ。ない道具をその場の機転で補っていく、息つく暇もない手術と投薬の連続を瞬間で頭を切り替えながら乗り切ると、糸が切れたように眠るだけの毎日だという。
この派遣の話の提案を受けた時、そうか、国境なき医師団があった、そう、それを考えてもよかった、と思ったほど抵抗感はなかった。母との思い出に溢れるここを離れ、知らない国で仕事をするのは悪くない。
この仕事は、日本人として意見を出すことを求められている、医療関係の知識が必要とされているだけで、医師として活動することは求められていない。そういう、研究者としての時間も今の自分にはいい影響があるかもしれない、と。
条件を提示され、会社側の見解も聞き、一日間を開けて、美希はこの仕事を受けた。
母と暮らしていたマンションに帰宅して、美希は教えられたアドレスにアクセスした。
「反町美希といいます。はじめまして。PA(The Professional Assistance)から紹介されました」
「反町美希、はじめまして」
「雇用主の方、Life Support Centerの担当の方で間違いありませんか」
「そうだ。PAから受け取った反町美希の履歴に満足している。
直接会うことはできないが、毎日チャットを通じてレポートを受ける」
「こちらこそよろしくお願いします。ご期待に沿えるよう、全力を尽くします。
毎日通信していただけるとのことですので、雇用主様というのもどうかと思います。何とお呼びしたらいいでしょう」
「私はアイザックという愛称を持っている」
「そうでしたか。アイザックと呼ばせていただきます。
反町美希とお呼びいただいていますが、ミキと呼んでもらえますか。もうそう呼んでくれていた母はいないのです」
「反町の希望に沿って、ミキと呼ばせてもらおう」
「雇用条件は了解済みでよいか」
「はい、サインした通りで、訂正していただきたい項目はありません」
「では、行ってもらおう。 いつ出発できるか」
「用意しなくてはならない物によります。 どういう気候のところで、どういう場所に住むのでしょうか。為替レートの問題もありますし、行き先を教えていただけますか、アイザック」
「もっともな意見だ。
行き先は、出発時まで秘させてもらう。衣服に関しては、普段着で十分だ。私には内容はよくわからないが、伝言をそのまま伝える。パンツ・スタイルにスニーカー、日よけ帽子、持っているなら、水着を用意するといいとのことだ。この伝言の意味は分かるか」
「はい、わかります」
「そうか。日用品、食品などはすべて日本の物が手に入るから持って行かなくていい。必要な金銭も、すべてこちらで準備する」
「念のためにお聞きしますが、髪を覆うスカーフは必要でしょうか」
「それは伝言にない」
美希は少し安心した。イスラムの国の中には、女性の医師は認められない場所もあると聞いている。仮に緊急事態に遭遇して手を出してしまった時に犯罪となるような場所ならそれなりの心構えが必要だ。
「安全な場所であることを保障する」
「はい、ありがとうございます、アイザック。
三日いただけますか、祖父母に事情を話してきます。二年間通信のやり取りができませんので、顔を見せてきたいと思います」
「三日後に迎えを遣る。成田からオランダのスキポールまで行くので、パスポートを忘れないように」
「わかりました、それではまた、アイザック」
「スキポールでも案内人が待っている」
「はい」
三日後、にこやかではあるが美希を成田まで送り届けることだけを依頼されたという女性がマンションのベルを鳴らした。彼女はパスポートを確認し、成田からスキポールまでのフライトを簡単に説明、ビジネスクラスのチケットを渡し手荷物検査所に入っていく美希を見送ってくれた。
スキポールでは背の高い女性に迎えられ、ホテルの一室に案内された。そして、部屋にはいってすぐ、準備されていたパソコンでアイザックにコンタクトを取った。
通信が繋がると、アイザックからのメッセージがすでに打ち込まれていた。
「仕事場所に送り届ける。目が覚めたらコンタクトしてくれ」
美希はハッとする暇もなく、眠りに落ちていた。
異世界転移を、SFで表現するためのトライアルの第一次完成版です
が、
転移は、現在では、量子力学の分野で実現可能とされているらしく、とんだ時代遅れの倉名は大変反省し、数学を二次関数からやり直しています。二次関数でようやく(中学以来)どんな二次関数曲線でも自由自在に動かせるようになったところで、ヒーヒー言いながら(高校以来の)微分に取り掛かったところです。っていうか、どうせ指数関数やら対数関数やらが待っているので、ちょっと寄り道して指数・対数と数列という割とわかりやすい部分に寄り道しているところです。先はあまりにも長く、死ぬまでに量子力学的転移にたどり着けるかどうかわかりません!
この作品では、転移は次元転移(四次元空間を通過する転移)を採用しています。参考文献は、都築卓司氏著「四次元の世界」、ブルーバックスです。現在は新装版が出ているようですが、倉名が最初にこれを読んだのは、中学生の時で、愛読書となって多分30回くらい読みました。
以来、転移と言えば次元転移と決まっていたので、量子力学的転移危なくね? だって、転移先にも空気はあるべ? 素粒子爆発起こさないかい? という頭の悪い疑問に取りつかれ、これを自力で理解に達して解決するまで死に瀕しても死にきれない、気がする
この作品では、人類が転移に成功するわけではなく、高位知性体(宇宙生命)が、人類を絶滅の危機から救おうとして異星に転移させますが、実に迷惑極まりない。放っといてや、恐竜だって絶滅したかと思ってたら鳥類で生き残ってんじゃないの、人類だって何かに”進化“か”変化“して、知性体として残るわさ、気いつかわんといてや、ねえ




