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好きぞ振れ  作者: にいや
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 私にとっての「慣れ」ほど怖ろしい物はない。

 雨音がよく聞こえるオフィスで残業を、片す。そんな日は締めとして、私はたいていビールを飲み干す。私が務める土木会社は今の時期-年末の決算証書づくりで多忙である。ひねもす家で本を読む日があってもよかろう、と思う。デイビッド・シルビアンの本。こんな人になってみたい、もしくは会ってみたい。


 私には家にいつも決まった特定の壁の亀裂を眺めるといった趣味がある。嫌なことが有ったり、悲しい出来事を聞いたときには、それを広げたり、ついには話しかけたりなんかする。今日は二ヶ月蓄積している有給休暇を使って、自分でゴールデン・ウィークを作り始めて三日目である。残るはあと八日。今私は2LDKの駅から少し離れたアパートのリビングのソファに座っている。あそこの亀裂がよく見えるこの位置、姿勢は外せない。精神的にも身体的にも無害であるからだ。天気は、晴れているのでいつもとは違う喫茶店に向かう予定がある。


 「どうやら君は昇進のようだね。」

氷の入ったグラスの中にポットでサーブされた烏龍茶を注ぎながら、お決まりの250mgのカフェインが入ったシートを開けたあとに、向井が行った。

「まさか。」

とは言いつつも内心に予感していたのだ。向井はサラサラと八分目まで注がれた烏龍茶の中にシートの中身をあけた。

「・・・」

カフェインの飽和量なんてたかが知れている。グラスのそこにはもどかしいほど微妙な沈殿が残った。

向井とは沈黙で会話をすることが多い。おそらくあちらも沈黙を好んでいると感じるのである。いくらか来年度の会社のなりゆきについて自家製のブラックジョークを添えて大笑いしたあと、ランチのステーキに舌鼓を打って、解散した。


 

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