騒がしい朝
いつもとは違う方向から朝日が差し込んでくる。
まぶしさに目を細め、それからメリッサはいつものように枕に顔をすり寄せた。
ちょっと枕が高い気がする……と思いながら。
「「メリッサー!!」」
「お坊ちゃま、お嬢様、なりません!」
騒がしい声と足音が聞こえてくる。
でもこれも、朝の恒例だ。
そろそろ起きなくてはいけない。あるいは、体の上にダイビングされる覚悟をしなくては。
メリッサはそんなことを思いながら、いつも以上に眠さを感じつつ起き上がった。
「ここはどこ」
別に記憶を失ってしまったわけではない。
妙に大きいベッドのど真ん中、そして見覚えのない部屋に眠っていたのだ。
「――あっ!!」
メリッサは普段であれば寝起きは良い方だ。
しかし、昨日の疲れ……いや、今朝までの疲れが残っていたのだろう。
ここに来てようやく、この場所がどこかを思い出して勢いよく起き上がった。
慌ててフェリオを探したが、すでに室内にはいないようだ。
まさか、あんなに熱が高かったのにもう仕事に行ったとでもいうのだろうか。
「それ以上に、まさか初日から見送りすらしないなんて……!」
自己嫌悪に陥りながら、メリッサは部屋の扉を開けて飛び出した。
どちらにしても、双子が起きてきているのなら着替えをさせて朝食の準備をして一緒に食事をしなくてはならない。
侍女たちに任せて、また三人が腰を痛めたら大変だ。
けれど、廊下に出ると双子はすでに身支度を済ませていた。
そしてなぜか目を輝かせた。
「おはよう、ルード、リア」
「「おはよう、メリッサ」」
双子は今日も、心が繋がっているかのようにぴったりと声を合わせて挨拶をしてきた。
そして完璧な礼をしてみせる。その可愛さにメリッサは今日も悶えた。
そういえば、フェリオの寝顔は髪の毛の色こそ黒と銀で違うが、双子の寝顔とそっくりで可愛らしかった――そんなことを思ってしまい、もう一度悶える。
そこで今日も朝早くから働いていたらしい三人の侍女が、いつも以上にニコニコしていることに気がついた。
「マーサ、メアリー、ダリア、おはよう」
「「「おはようございます、奥様」」」
メリッサはスタスタと双子のそばに寄って、目の前にしゃがみ込んだ。
「あら、前髪が跳ねているわよ、ルード」
「えっ」
ちょいちょっと手ぐしで直すと、ルードの柔らかい毛はすぐに整った。
「リア、もしかして自分で結んだの?」
「うん!」
リアの髪は少し不格好に結ばれていた。
しかし、以前に比べ格段に上手くなっている。
「ということは、ルードも自分で準備したの?」
「うん!」
「まあ、二人とも偉いわね」
双子のお世話を毎日してきたが、メリッサが起きてくるより先に自分たちで準備を終えているのは初めてだ。
二人の成長が目覚ましい、そして胸を反らして自慢気なのも可愛らしい。
「ねえねえ、メリッサ。叔父さまの部屋から出てきたってことは、二人は仲良しってこと?」
「えっ……」
「メリッサ、叔父さまと夫婦だもんね!」
「そ、そうね?」
双子は純粋な瞳で見上げてくる。
もちろん、他意はないのだろう。そして、事実メリッサとフェリオの間には何も起きなかった。
「「「奥様が元気すぎる……」」」
メリッサは三人の侍女がこちらの様子を舐めるように観察している事に気がつき、首をかしげた。
元気なのはいつものことのはずなのに、いったいどうして不思議そうにしているのだろう。
「どうしたの? 三人とも……」
「なるほど、やはり旦那様にお任せして安心していてはいけませんでしたね」
「困ったお方……育て方を間違ってしまったようですね」
「――作戦会議です」
三人はぼそぼそと内緒話をしているようだ。
止めておかないと大変なことになりそうな予感がして声を掛けようとしたとき、ネグリジェの裾が引っ張られた。
「ねえ、メリッサお腹空いたよ」
「メリッサの卵焼き食べたい」
「――そうね、作りましょうか。その前に着替えてくるわ」
「「……」」
「どうしたの?」
「「そのパジャマ、可愛いねメリッサ」」
「ふふ、ありがとう」
そういえば、フェリオにも「可愛らしい」と言われたな、とメリッサは思った。
もちろんその直後に「部屋に帰れ」と言われたのだからあくまでメリッサを傷つけないためにワンクッションおいてくれただけなのだろう。
そう思いながらも、メリッサの頬は赤く染まるのだった。
最後までご覧いただきありがとうございます。『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。