王立学園と助手 3
メリッサは、ラランテスの研究室にたどり着いていた。
ラランテスが出迎えてくれる。機嫌が良いようだ。
「あの……ますます高価なものばかりになっていませんか?」
「ロイフォルト伯爵に礼として貰ったものだ。彼が直接手に入れたのだから、貴重すぎて値段はつけようがない」
「……」
「値段がつかないということは、値段などないに等しい」
「……同意できかねます」
――紫色の溶液の中で泳ぐ金色の魚。
以前からラランテスの研究室にいる魚だが、銀色の魚が増えている。
魚もフェリオが捕まえてきたというのか。
先日見た、今にも切れそうな七色の蜘蛛の巣。そこに真珠のような丸いものがいくつもくっついている。
卵なのかと目をこらしてみたが、どう見ても宝石のようだ。
「ああ……そちらは宝石蜘蛛の作ったスパイダーパールだよ。人工的飼育で作るのに成功したのは私が初めてだろう」
「宝石……なのですか?」
「そこにいる蜘蛛は魔獣の一種だ。体内の魔力を蜘蛛の糸と練りあわせて宝石にするのさ」
「まあ……!」
「宝石としての価値も高いが、どちらかといえば魔道具の動力源として優れている」
メリッサは興味深げに研究室内を見渡した。ルードとリアは普段は大人しいが……子ども連れでは何かを壊してしまうかもと落ち着かなかった。
「この糸は案外丈夫でね」
ラランテスが蜘蛛の巣の一部を引っ張り糸を引き出した。虹色の糸がスルスルと引き出される。
ラランテスはさらにスパイダーパールを一つとり、机の上で穴を空けた。
魔道具を扱う彼は、とても器用なのだろう。
「ほら、一つ差し上げよう」
ラランテスはスパイダーパールに空けた穴に虹色の糸を通す。
あっという間に完成したペンダントは世にも美しい。
しかし、ラランテスが近づいてメリッサの首にかけようとしたときだった。
研究室に小さな旋風が起こる。
小さな魔石が一つが飛んできて、ラランテスの手にコツンッと当たった。
「……別に他意はないのだがなぁ」
ラランテスはため息をつくと、糸を束ねてネックレスをメリッサの手に握らせた。
「大事にしたまえよ……」
「綺麗です」
「これはちゃんと値段がつけられる程度の安物だ。王都に小さな家なら建つ程度の」
「えぇっ!?」
ラランテスが悪戯っぽく笑う。
冗談か本当か判別できない。
メリッサは返そうとしたが……。
「貰っておけば良いのです。そして慌てた旦那様にもっと価値あるものを贈ってもらうのです」
「奥様を助手にするのにそれっぽっちでは足りませんわ……これ以上の物を贈るのも許しませんけれど」
ひそひそ話であったが、間違いなくマーサとメアリーの声であろう。
研究室の天井裏にも潜む場所があるのだろうか。
彼女たちの実力は、やはり底が知れない。
「ふーむ。魔道具でセキュリティは完璧にしたつもりだが、まだまだ一流には敵わないか」
ラランテスは考え込みながら奥に置かれた机の前に座った。
机の上に乱雑に積み重ねられた書類。
そこには魔道具の設計図らしきものが多数書かれているが……。
ラランテスは新たな魔道具について考え始めてしまった。
彼は机の上を片付けるつもりはないのだろうか。
助手の初めての仕事は研究室の掃除と整理であろう。
メリッサはそう決めて、貴重品を壊さないように気をつけながら、部屋の片付けを開始するのだった。




