王立学園と助手 2
メリッサの不安は、案の定当たっていた。
つまり、そのころルードとリアは……。
「ロイフォルト家は裏切り者ってみんな言っていたわ!!」
「「……」」
メリッサが見たら驚くほど、二人の表情はクールだ。
ルードとリアは、現在金色の髪をツインテールにした紫の目を持つ少女に詰め寄られていた。
――彼女こそが精霊魔術派の筆頭派閥、フィアーレ公爵家の令嬢レティシアだ。彼女の周囲にはわかりやすく三人の取り巻きがいる。
「……どこかで見たような構図よね。ルード」
「うん、王城で見た構図だね。リア」
二人は顔を見合わせる。
「「でも、第八王女殿下は少なくとも一人だったもんね〜」」
うんうん、と頷き合う二人にしびれを切らしたか、レティシアが距離を詰めてくる。
「あなたたちの叔父が、精霊魔術派を裏切って魔術革新派にくら替えしたって聞いてるんだから!」
「ふーん、裏切り者ねぇ……」
「私たちのお父さまが、ねぇ……」
以前の双子だったら、ここで教室をつる薔薇だらけの水浸しにしたことだろう。
だが、今の二人は違う。
フェリオやメリッサとの約束を守るのだ。
しかし、大好きなフェリオを裏切り者呼ばわりされて黙っている双子でもない。
「まあ……でも、魔術を持っているだけで偉いなんて古い考え方だよね」
「そうね……魔道具を認めないなんて、この教室の明かりだって魔道具なのにね」
二人が再び冷たい視線を向けると、レティシアはグッと黙り込んだ。
レティシアもまだ、王立学園に入ったばかり。周囲の大人の言葉を鵜呑みにしている子どもなのだ。
しかし彼女には公爵家の令嬢という肩書きがある。幼くても責任が生じるのだ。
まだ彼女はそのことを理解できていないようだが……。
「――レティシアさんには恨みはないけれど……」
「そうだね……レティシア嬢に恨みはないけど、フィアーレ公爵家は僕らの……」
「な――なによ!?」
ルードとリアは、ゾッとするほど冷めた視線をレティシアに向けた
フィアーレ公爵家は、ルードとリアの父母の仇である可能性が高いのだ。
甘やかされて育ったレティシアは、こんな視線を向けられたことがないのだろう。泣きそうな顔で後退った。
「ほらほらー、予鈴はもう鳴った。授業の時間だよ、君たち」
そこに陽気な声が響き渡る。
少しぼさついた癖の強い髪、分厚い眼鏡と前髪で隠されて見えない目。
このクラスの担任エレン・リーである。
ルードとリアは、ペコリと一礼すると席に着く。レティシアと取り巻きも悔しそうに席に着いた。
「ふむふむ、今回もなかなか派閥色が強いなぁ……」
エレンは軽くため息をつき、つぶやいた。もちろん子どもたちには聞こえない程度のものだったが……。
しかしそれでも、王家が主導する王立学園の狙いは派閥を越えた次世代の交友関係なのである。
結果、大貴族の次世代が派閥を変えて騒ぎになることもあるが……。
中立派筆頭ウィルソン公爵家。
精霊魔術派筆頭フィアーレ公爵家。
魔術革新派ロイフォルト伯爵家。
そして王家からは魔力を持たない第三王子。
彼らは幼いが、それぞれが非凡な才能を持つ子どもたちだ。
「対する俺は平凡な教師」
「せんせー! もう時間が過ぎてますよ-!」
子どもの一人が手を上げて大きな声で言った。赤い髪に青い瞳を持つ彼は、ウィルソン公爵家の五男、ライナーだ。
彼は明るく、少々空気が読めなそうだ。
ちなみに、メリッサの2番目の弟はかの家に仕えている。
「すまない! 今日は構内を上級生が案内する!」
子どもたちの目が一斉に前を向く。今日はオリエンテーションなのである。
波乱の幕開けをメリッサはまだ知らない。




