王立学園と助手 1
「大げさではないかしら」
「いいえ! 奥様の安全が何より大事でございます!」
マーサが珍しく強い口調でそう言う。
「残念ながらダリアが動けぬ今、私ども二人では――いいえ、命を賭しても御守りする所存ですが……」
「メアリーまでダリアみたいな覚悟を滲ませるのはやめて。ちゃんと気をつけるわ!」
朝からロイフォルト伯爵家は騒がしい。
すでにルードとリアは登校した。
そして、今日からメリッサもラランテスの助手として王立学園へ行くのだ。
フェリオは最近多忙で、朝早く出掛けて夜遅くにならないと帰ってこない。
どうも手紙が届かなかったことや、情報が寸断されフェリオが戦場で孤立させられた件で進展があったらしい。
詳細は知らされていないが、フェリオはメリッサにいつも以上に気をつけるようにと言ってきた。
つまり、マーサとメアリーが心配するのも当然といえば当然のことなのだ。
「私たちの奥様になにかあれば」
「私どもはどんな手を使っても奴らを」
「奴らって……いいえ、それはだめだと思うのよ」
そうならないように、細心の注意を払おうと決め、メリッサはラランテスが贈ってくれた懐中時計をポケットから出した。
普通の時計のようだが魔道具らしい。
フェリオが時々魔力を補充してくれる。
一般的な魔道具の時計より魔力の消費量が多いようだ。何かあったとき、ラランテスはヒンジを回すようにと言っていたが、どんな機能があるのだろう。
――たぶん、使わないですめばそれに越したことはないのだろうが……。
「あら、いらしたようね」
実はメリッサの送迎には護衛がついている。今日はディグムートだ。
まさか騎士団長である彼に護衛していただくなど、とメリッサは恐縮し断ろうとしたが、彼自身が護衛を買って出たのだという。
もしかすると、師匠と尊敬するラランテスに会いたいのかもしれない。メリッサはチラリとそんなことを思った。
「お久しぶりです。ロイフォルト夫人」
「ええ、お久しぶりです。ディグムート様」
ディグムートは爽やかに微笑むとメリッサに手を差し伸べる。
マーサとメアリーに見送られ、メリッサは王立学園へ向かう馬車に乗り込んだ。
馬車に乗るとディグムートは、馬に乗った。大柄な彼の愛馬はやはり大きくて、ツヤツヤの栗毛だった。
馬車が走り出す。メリッサは窓の外を眺めた。
王立学園の特別クラスにはルードとリアだけでなく第三王子が在籍する。
さらにはフェリオやラランテスの属する魔術革新派に敵対する、魔術精霊主義の筆頭貴族家、フィアーレ公爵家の令嬢もいるのだという。
王立学園は身分や派閥を問わず親交を深めることを良しとしているが……。
メリッサは、ルードとリアのことを密かに心配するのだった。




