双子とお祝い 2
フェリオは、意外にも苦手な食べ物が多いのだという。素知らぬ顔でなんでも食べていたから知らなかった。
「でも、奥様が手をかけた料理であれば、なんでもお好きだと思いますよ?」
「まあ……料理長ったら。でも、できれば一番お好きなものを作りたいわ」
「そうですねぇ……それでは、こちらなどいかがでしょう?」
料理長は、フェリオの好物ももちろん作っていたようだ。
作りかけのパイ。中に詰めるのはアーモンドクリームだ。
「続きはお任せして良いですか?」
「ええ、ありがとう」
「「一緒に作る〜!!」」
「そうね。では、クリームを詰めてね」
「「はーい!!」」
一から作るわけではないが、フェリオは喜んでくれることだろう。
双子がクリームを詰め過ぎてしまったため少し不格好になったが、ほどなくパイは完成した。
「お好きなら時々作りましょう」
メリッサは、味を覚えるためクリームを味見してみた。
甘さ控えめでほんのりお酒の香りがする。
「こういう味がお好みなのね」
メリッサは、今日もフェリオのことを少しだけ知ることができて嬉しくなるのだった。
* * *
お祝いの準備が整う。
双子はもう席について、今か今かと待っている。
フェリオは相変わらず忙しいが、今日は急いで帰ってくることだろう。
そのとき、食堂の窓の向こう側が金色に輝いた。
「何かしら……」
「「魔術師のお祝いの魔法だよ!!」」
「お祝いの……魔法?」
「「見に行こう!!」」
ルードとリアが、左右からメリッサの手を引いた。
外に駆け出してみると、空から金色の流れ星がいくつもいくつも庭に降り注いでいた。
「すごい! 三歳のお誕生日に見たのと同じだ!」
「相変わらず綺麗だねぇ……」
「三歳のお誕生日ということは」
「「お父さまの魔法だよ!」」
二人は小さな手で降ってきた流れ星の光を捕まえた。
手の中で光は消えることなく瞬いている。
けれど、メリッサが掴もうとした瞬間、光はすぐに消えてしまった。
「私に魔力がないからかしら……」
「「お母さまにあげる!!」」
残念に思ったけれど、ルードとリアの手から受け取った光はすぐに消えることなくメリッサの手の中で輝いた。
流れ星と一緒にフェリオが空から降りてくる。
ふわりとなびいたマント。流れ星と同じ色の目が、メリッサを見つめ、次いで細められた。
その手には二本の短い杖が握られている。
それぞれの杖には美しい宝石が嵌め込まれ、流れ星の光を次々と吸い込んでいる。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、フェリオ様」
「「おかえりなさい、お父さま!!」」
ルードとリアが走り寄ると、フェリオはにっこり微笑んだ。
そして、二本の杖をそれぞれ二人に差し出す。
「――ルード、リア、おめでとう。これは俺からの贈り物だ」
「「魔術師の杖!!」」
「杖に嵌め込まれた魔石は君たちの属性に合わせているから、大人になって新しい杖を作るときにも役立つことだろう」
ルードとリアは、それぞれ三つの属性を持っている。
フェリオの言葉からもわかる通り、特別な魔石なのだろう。
メリッサは三人に近づいて、魔石を見つめた。
ルードの属性は土と火と光。
杖の魔石は琥珀色をしているがよく見ると中に炎のような赤い光がゆらめいている。さらに魔石の周囲には砂金のような光がまとわりついていた。
「どうかこの杖が君を守ってくれますように」
「ありがとう、お父さま」
フェリオが差し出した杖をルードが受け取った。
その瞬間、ルードが下げたペンダントが強く輝いて、魔石がまとっていた金色の光を吸い込んでいった。
リアの属性は水と風と闇。
杖の魔石は淡い水色をしているが中には緑色の旋風が吹き荒れている。魔石の周囲にはブラックダイアモンドのような光がまとわりついていた。
「どうかこの杖が君を守ってくれますように」
「……ありがとう、お父さま」
リアも杖を受け取った。やはりリアのペンダントも強く輝いて、黒い光を吸い込んだ。
「ラランテスから贈られた魔道具は、きちんと機能しているようだな」
「フェリオ様は、杖を用意されていたのですね」
「――ルードとリアが生まれたときから用意してあったんだ。魔術師にとって杖は命のようなものだ……我がロイフォルト家では代々魔術師の親族が贈るのが慣例だ。もし俺に何かあったり、この日までに帰ることが出来なければ君に渡してもらおうと思っていたが……無事に渡せて何よりだ」
フェリオはたいしたことではないようにそう言ったが、その言葉からは当時の彼の覚悟が透けて見えるようだった。
「余計なことを言ったようだ。どうか笑ってくれ」
「ええ、二人のめでたいお祝いですから」
メリッサは笑うと、フェリオの手を軽く引いた。
「フェリオ様のお好きな料理もあるのですよ」
「それは楽しみだ」
いつの間にか流れ星のような光は消え、庭は暗くなっている。
光り輝くのはルードとリアの人生の相棒となるであろう魔石ばかり。
四人は並んで屋敷へと戻っていく。家族らしい他愛ない話に花を咲かせながら。




