双子とお祝い 1
そのころ、ルードとリアは食卓を埋め尽くすほどたくさんのご馳走に目を輝かせていた。
こんがりとした香りは料理長特製のスパイスをすり込んで焼き上げたローストチキン。甘い香りはベリーのタルト。小さくて摘まんで食べられる色とりどりのオードブルも並んでいる。
「ねえ、ルード。王城のパーティーにも負けないんじゃない?」
「うん、リア。負けてないよ。むしろこっちの方が美味しそうだよ!」
それもそのはず。並ぶのは二人の大好物ばかりなのだ。
二人は互いに見つめ合い小さな手の平を合わせた。
「でもメリッサが好きなお料理も」
「料理長にちゃんと頼んでおいたもんね〜」
メリッサは料理長お手製の三種のベリーのタルトが好きだ。
小さいサイズのタルトがテーブルに色合いを添えている。
そこで双子は視線を合わせて困ったような表情を浮かべる。
「ところでルード、お父さまは何が好きなのかな」
「そうだねリア、なんでも美味しそうに食べるけど」
ルードとリアは、フェリオの好きな食べ物を知らない。
三歳の頃の朧げな記憶の中でも再会してからも、彼が好き嫌いを言うのを聞いたことがない。
嫌いな物がないのはまだわかるが、好きな物もはっきりしないのだ。
「料理長なら知っているかな……?」
「うん、だってお父さまが子どもの頃からずっと勤めてるって」
二人は名案が浮かんだとばかりに、にっこりと笑った。
幸いなことにお祝いの時間までは、まだまだ時間がある。
「僕たちのお祝いだけど、お父さまはいつも頑張ってるから」
「私たちからもいつもありがとうがしたいね」
二人は仲良く手を繋いで厨房へと駆け出していった。
* * *
厨房では、料理長が一人鬼人のような働きをしていた。
リズミカルな包丁の音。油を引いた鍋に料理が投入された瞬間の音。食材が煮込まれる音。
トトトトトトトトトト……ジュウジュウ……コトコト……
いつもよりも賑やかな音だ。
「忙しそうだね〜」
「でも今しかないよ」
二人は邪魔をしてはいけないと思いつつ、いつ声をかけたものかと扉から中を覗き込んだ。
そのときだった。少し呆れたような声が聞こえてきたのは……。
「あなたたち、食堂にいないと思ったら厨房にまで来て……そんなに料理が気になるの?」
それはメリッサの声だった。
二人は顔をあげて、メリッサを見つめる。
「違うよ。お父さまの好物のお料理も用意したいなって」
「だって、知らないんだもの。お父さまが何が好きかって」
「……」
メリッサは目を見開く。
事実、メリッサもフェリオが何を好むのかよく知らない。
戦場での活躍を聞けば遠い人に思えるが、屋敷での彼は穏やかで優しく……なんでも家族に合わせてしまう。
フェリオはおそらくメリッサの好みをすでに熟知している。
だって、お土産に買ってきてくれるお菓子はいつだってメリッサ好みのものばかりなのだ。
もちろん、ルードとリアの好みも彼は把握している。
「……それもそうね。好きな料理だけでなく苦手な料理も知りたいわ」
「「でしょ〜!!」」
「では、料理長を手伝いましょう」
「「うん!!」」
「今は包丁を使っているから、それが終わったらよ!」
「「は〜い!!」」
ルードとリアは心強い仲間を手に入れたとばかりににっこりと笑った。
メリッサは、大きな枝肉を捌く料理長の熟練の剣士のような包丁さばきを見つめ、話しかけるタイミングを見計らうのだった。




