侍女の秘密 1
馬車に乗り込んで屋敷に帰る。
同じ方向なのだろう。先ほどの青みを帯びた髪の侍女が馬に乗って馬車を追い越して行った。
彼女はチラリとメリッサに視線をむけ、軽く笑ったように見えた。
しかし、乗馬の腕は中々のようであっという間に見えなくなってしまった。
「あの侍女……何者なの」
「「……」」
メリッサ、ルード、リアと共に馬車に乗り込んだマーサとメアリーは黙り込んでいる。
メリッサはなんとなく彼女の正体がわかったような気もする。
考えれば考えるほど、彼女はある人物に似ているのだ。
だが――人が若返るなんて話は聞いたことがないし、やっぱりありえないわね、と思い直す。
五人で乗る馬車は少々窮屈だ。
けれど、みんなで馬車に乗れたことと、入学式の高揚感からかルードとリアははしゃいでいる。
「明日から本格的に始まるのね……」
そんなことを思いながら、メリッサは二人を見つめた。
三歳から育ててきたルードとリア。
出会ったころは、二人が学校に行って離れていくなんて考えてもみなかった。
ルードとリアは王立学園に入学する。それは、社交界への第一歩であると王国では見なされている。
二人の叔父であり、メリッサの夫であるフェリオも戦場から戻ってきた。
執事長から聞いた話によれば、高位魔獣をフェリオとディグムートが倒したことで、前線は未だかつてなく安定しているという。
――メリッサも、これからの生き方や方針を考えなければならないだろう。
フェリオが結婚から三年間も王都に戻らず、メリッサ自身はお飾りの妻だと信じていた。
だから、屋敷の中でルードとリアさえしっかり育てればいいと思っていたが……これからはそういうわけにもいくまい。
それに、ラランテスに助手に任命された。
もしかすると、ルードとリアの学園生活もちょっぴり覗けるかもしれない。
とても楽しみなことだ。
「……それより」
メリッサは、王立学園から支給された学用品に視線を向けた。
手芸が得意なメリッサは、ルードとリアの袋物を作るのは苦痛ではなかった。
学用品には魔法の実験器具の一つ一つまで、名前を書かねばならぬという。
小さな魔石は小指の先くらい。
しかも、ルードとリアは双子なので当然ではあるが普通の子どもの二倍の学用品がある。
「明日から使うというし……」
メリッサはマーサとメアリーを見た。
彼女たちも手伝ってくれるだろうが、最近老眼で小さなものはよく見えないらしいのだ。
ダリアは目がよく見えるらしいが、腰を痛めてしまっているという。
フェリオは、ラランテスと話を終えたら魔術師団に行かねばならない。
きっと、今日も帰りが遅くなることだろう。
それに、入学式を終えた二人をお祝いだってしてあげたい。
「……今夜は寝られないわね」
馬車に揺られながら、メリッサはそんなことを思う。
明日からの日々は今までと違うことだろう。
そのことに対する不安がないといえば嘘になる。
だが一方で、これからのことがとても楽しみにも思えるのだった。




